28 両親のこと
先生の問題を解決するべく、さっそく私はその日の放課後、第二科学準備室を訪れていた。
「先生に、聞きたいことがあります」
先生は驚いた顔をしていたけど、すぐに照れたように頬を赤くして、私にソファを勧めてココアまで出してくれた。
「もうすっかり体調はいいみたいですね。よかったです。
聞きたいこととはなんですか? 授業では分かりにくかったですか?」
「いえ。授業のことではなく、先生のことなんです。
昨日、話してもらった、 先生のご両親について、もう少し詳しく聞きたいんです。
・・・話したくないことかもしれないんですけど」
私の言葉に先生は眼鏡の奥の目を少し大きく見開いた。
「・・・構いませんよ。なんでも聞いて下さい」
先生の声は落ち着いている。
私は軽く深呼吸して、本題に入った。
「先生のご両親は、どうして亡くなられたんですか?」
「えっと、癌だったと聞いています。
なんでも不規則な生活と暴飲暴食を続けていたらしくて、体が弱っていたようです」
抑揚のない声。先生の声からはなんの感情も読み取れない。
「それは、亡くなられた後で聞いたんですか?」
「あ、はい」
「それで、先生はタイムマシンで、過去に戻ってご両親にお会いしたんですか?」
「いえ。会ってません」
まさかの答えに、私は立ち上がり先生を真正面から睨みつけた。
「もう! なにをやってるんですか? 先生は!
私なんかに構っている場合じゃないでしょ!
今、ここでは先生のご両親は生きてみえるんでしょう?
だったらすぐにでも会いに行くべきじゃないですか!」
先生はくるりと私に背を向ける。
「いえ、会う必要はありません。私が行って、どうなるわけでもないですし。
顔も分からない両親ですから」
「なにを言ってるんですか。ご自分のご両親でしょう!」
「いいんですよ。別に」
「いいって・・・、そんな・・」
なんだかわからないけど、無性に、むかっときた。
立ち上がり、私の剣幕に呆然としてる先生をキッと睨みつけた。
「・・先生はズルいっ。そんなの、おかしいです!
自分からご両親のこと、拒絶して・・・っ。
なのに、会いにきてくれなかった、とか知らなかったとか。
先生は結局、自分から何もしなかったのに、全部、親のせいにしてるだけじゃないですか! ・・・私、帰ります。 失礼します!」
バン、と勢いよくドアを閉める。
くやしい。
くやしい。
あんな、自分から何もかもあきらめたみたいな感じ。
絶対、先生とご両親をあわせてやるんだから!
ズンズン歩きながら、私は決意を固くした。
*****
翌日もまた私は第二科学準備室を訪れた。
「先生、現在の先生はどこにいるんですか?
アメリカから日本に戻って来ているんですよね?」
「はい。坂北の隣町です。施設の近くの寮に入っているんです」
「教えて下さい。詳しく。会いに行きます」
昨日の今日でちょっと先生にイラついているせいもあって声がトゲトゲしくなる。
お願いっていうより、命令、みたいな。
「なっ!? どうするんですか。会って」
先生はコーヒーをこぼしそうになるくらい慌てている。
「ご両親に会いに行くように説得します。
十六歳の先生とご両親との溝が埋まるように、働きかけてみます」
「そんな・・無理なこと・・」
「無理じゃありません! だって先生は、今まで何もしてこなかったんでしょ?
それなのに、このままでいいんですか?
何もしないまま・・自分が他人を愛せないことを親のせいにするのは駄目です。
先生がしないなら私がします」
「結構です。今更何を変えようとは思っていません。
両親は私に興味がないんです。いいんですよ、それで」
意外と先生は頑固で、がんとしてそう言って聞かない。
これでは何もできない。
タイムマシンを使わないとしても、現在の先生とご両親と会うためには、私達
には情報が少なすぎる。
くやしい・・・! なにか考えないと!




