24 話せない
部屋で着替えてベッドに飛び込む。私の大好きな曲が携帯から鳴った。
秋斗からのメールだ。
『ゲーセンで偶然ヒナちゃんに会って聞いたけど、
具合悪いって? だいじょうぶ?
今、家だよね。顔見に行ってもいい?』
秋斗の顔が浮かぶみたい。ごめんね、心配かけて。
すぐに返信しようとして手が止まる。 なんて返したらいいの・・?
来てもいいよ? 今日はもう寝るからごめん?
秋斗には会いたい。
会いたいけど、さっきの先生のことをどうやって話したらいいのかわからない。
今は動揺してるから、上手く秋斗に話せる自信ない。嘘つきたくないし。
でも、会えば私の様子がおかしいことに気づかれて、追求されてしまう。
考えがまとまらないまま停止していたら、手の中の携帯がピピーピーピピっと鳴った。ビックリして思わず電源の切る方のボタンを押してしまった。
「あわわわ。ど、どーしよー?」
おろおろしてたら、すぐにまたかかってきた。
「も、もしもし! ごめんねっ、切っちゃって!」
「さくら? どうしたの?」
ムダに勢いのいい声が出て秋斗を驚かせてしまったみたい。
「あ、うん。ごめん、心配させちゃって。お腹が痛かっただけだし、もう平気。
もう大丈夫だから心配しないで?」
「・・今から行ってもいい? さくら」
「う、・・え?」
「じゃ!」
あれ? この流れは秋斗がうちに来る流れだよね。
ダメじゃん! 断ろうと思ってたのに。もう携帯は待ち受け画面に戻ってる。
そして十五分後、秋斗は私の部屋に来た。
「よかったの? お友達と遊んでたんでしょ? 秋斗」
「まあ、いつも遊ぶメンバーだから構わないよ。
それより、さくら、なにがあった?」
秋斗はベッドに並んで座ると、私の髪をすくってさらりと落とした。
「え?」
「パニくってる時とか、すごい早口になるよね。さくらは分かりやすい。
ね、あんな声で心配しないでって言われて、心配しないわけないよ?
どうしたの?」
どうって・・
私は頭の中で今日のことを思い返した。
今日は朝から色々あった。
でも、先生とのことは話し辛い。帰りに先生に送ってもらったことだって、話せばきっと秋斗は怒っちゃって、続きが話せなくなるかもしれない。
それに、先生のご両親の話は人に話してもいい内容なんだろうか。
何かすごく重い内容の話だったって思う。
他人には触れられたくない過去、だよね。
でも秋斗に隠し事とかしたくないし、どこまで話したらいい?
どうやって話したらいい?
頭がパンクしそうだ。
「泣いたの? さくら。目が赤いよ」 ハッとして思わず手で目を隠した。
それは肯定したと同じことなのに。
「さくら?」
黙りこんだ私の顔をのぞき込む秋斗。私は視線から逃れるように背中を向けて立ち上がった。
「は、話せない」
「え?」
「今日は、ちょっと頭を整理したいから。あ、明日。明日には、話すから!
だから・・」
「浅井絡み? だよね」
秋斗の声がちょっと低くなる。
相変わらず鋭い。
ふう、と小さくため息が聞こえて、びくりと肩が揺れてしまう。
「明日話せるなら今日話してよ。さくら。
おれはここでバイバイして家に帰って、寝て、朝さくらに会うまで、ずーっとモヤモヤした気持ちになる。頭の整理つくまでって、 そんな難しい話?」
「だって。・・だって、秋斗は先生のことになると、すぐに怒るもん・・」
語尾が小さくなってしまう・・。
「ええ? それは・・。あー、・・・まあ、そうかもしれないけど」
秋斗も否定はしない。まあ事実だしね。
「先生の、・・ご家族の話を聞いたの。でも、なんか複雑で・・。
私自身よく理解しきれてないし、もうちょっと考えたいっていうか・・」
情緒不安定になっているのか、また涙が出てきた。
秋斗に背を向けたまま見えないようにこっそり服の袖で拭う。
ぽんぽんっと頭を撫でられた。
「わかった。明日まで待つよ。
別にさくらがなにかされたって話じゃないならいいんだ。
明日は浅井の話でも怒らずにちゃんと聞くから」
そのままぎゅうっと抱き締めて、ぽんぽんと頭も背中もなでてくれた。
「じゃあ今日はおとなしく帰るよ。明日の朝、七時に迎えに来るから」
「・・うん。ごめんね、秋斗」
「じゃ、おやすみ。あ、ここでいいよ。また、明日ね」
バタンと部屋のドアが閉まる音が響く。
ホントに秋斗は帰って行った。
自分でそうさせたのに、行ってしまう後ろ姿を見るのはさみしい、なんて。
勝手で我儘な思いに自分が嫌になる。




