22 呼び出し
朝のホームルームが始まる前、陽菜ちゃんが教室に駆け込んで来た。
「あ、さくらちゃん。朝練にいないから心配したよー。調子悪いの?」
「あ、うん。ちょっとお腹痛くて。今日はお休みしちゃったの」
「あー。女のコは毎月ツライよね」
うんうんと納得してくれたようで、陽菜ちゃんはそのまま自分の席に着いた。
ごめんね、ウソついて。
でも今は、上手く笑えないことの理由を考えるのもダルかった。
私は、お腹が痛いのを理由に保健室で寝させてもらうことにして、お昼ご飯の時間も五限目の食物科学の授業もサボった。
薄っぺらいシーツみたいなお布団を頭まで被って目をつむる。
なのに先生の顔が浮かぶ。・・あの悲しそうな瞳。
やめて。そんな目で私を見ないで。
六限目を終わったら、今日は部活のない日だからすぐに帰ろう。
秋斗も友達と遊ぶって今朝言ってたし。
六限目の現国が終わる頃、なんだか本当にお腹が痛くなってきた。
うう・・。ウソついたから、バチがあたったのかなあ。
帰りのホームルーム中、連絡のプリントと、先週提出した科学のノートが配られた。 ぱらりとページをめくると、見ましたのハンコ。
そのすぐ上にメモが貼ってあった。先生の丁寧な細かい字。
『朝はすみませんでした。
話があるので、放課後、第二科学準備室に来ていただけませんか?
一方的な呼びつけをしてすみません。
来るまで、待っています』
行きたくない。
でも、先生にあんな顔をさせてるのは私なんだから、無視して帰るのはヒドすぎるような気もする。
って言うか、来るまで待ってるって、軽い脅しだよね・・・。
「失礼します・・」
準備室に入ると、先生がガタっと席を立った。
ガッターンと椅子が倒れる音も。
「さくらさん! 来ていただけないと思っていました。
さっき授業が終わってから腹痛だと聞いて・・。
そんな時に呼び出したりなんかして、すみません。大丈夫ですか?」
大丈夫かと聞かれると、大丈夫ではないけど。
それよりも早く話を聞いて帰りたい。
「・・大丈夫です。話があるって書いてあったから来たんですけど」
「はい。あ、こちらへどうぞ。ココアをいれますね」
ソファに座ると、先生があったかいカップを差し出してくれた。
「・・ありがとうございます」
こくんと一口飲むと、甘くてあったかい。
そういえば、結局お昼は食べてなかった。今日は購買でパンを買うつもりでお弁当も作って来てなかったし。
「さくらさん、少し、顔色がよくありませんよ? 本当に大丈夫ですか?」
先生が心配そうにのぞき込む。私は慌てて横を向いた。
「だ、だいじょうぶです。それより話って・・」
「いえ。今日は止めておきます。車で家まで送らせてください」
「け、結構です!」
勢いよく立ち上がった時、お腹にズキっと痛みが走った。思わず体を屈めてお腹に手をやる。
「・・裏口に出ていてください。車を回しますから。お願いです。家の近くで降ろしますから。このまま帰すことなんてできません。心配で・・」
結局、押し切られて先生の指示どおり裏口に出た。
こっちから帰る生徒は誰もいない。
すぐに先生は車で現れた。
「あの、やっぱり自転車で帰ります。もうお腹も痛くないですし」
「遠慮しないでください。顔色が悪いですよ。
私は弓道部の顧問ですし、先生が生徒を送っても変ではないでしょう?
さ、早く乗って下さい。人が来ますよ」
そう言われて思わず慌てて助手席に乗り込んだ。
断るつもりだったのに・・。




