1 高校生
桜の花が咲き終わり、黄緑の若葉がチラチラと見えて来る季節。
この春、私達は高校生になった。
三年前、私はタイムマシンを拾った。
当時、離婚の危機に陥ってたうちの両親。
私ははるにいと過去に行って、パパとママの不仲の原因を突き止めて和解させ、離婚を回避させた。・・まあ、会っておしゃべりしてただけなんだけど。
お互いに言葉が足りなくてすれ違っちゃってたみたい。
パパとママは、あの時離婚を心配してたのが嘘みたいに、今でもラブラブ。
その後、私は秋斗とお付き合いすることになって。
三年経った今でも、おかげ様で私達の関係は変わらない。
美穂に言わせると私達は、『ほのぼのラブラブばかっぷる』なんだって。
変わったのは、名前の呼び方くらいかな。
「さくらちゃん」「秋斗君」だったのが、「さくら」「秋斗」になった。
・・・三年前、秋斗のお父さんのことで過去に行ったこともあった。
リストラの原因になる悪い子会社との契約を考え直すように、大人のふりして匿名で手紙を書いた。
その手紙を置きに過去に行ったら、最悪なことにタイムマシンの電池が切れて、私はもう焦りまくり。秋斗は冷静だったけど。
その後、タイムマシンを作ったのが、科学の浅井先生だって分かって驚いた。
それはもう、すごく。
・・・それから、先生のマンションで秋斗と三人で会うようになって・・。
なんだかんだでけっこう親しくなったと思う。
秋斗も趣味の話で盛り上がってたし。
さらに驚くことに、先生は未来から来た人だった。
しかも、未来の私のことが・・好きだって。
「また来ます」なんて言い残して、先生は未来に帰って行った。
あれから三年。
先生はぱったりと姿を消して、私達は毎日問題なく平和に過ごしてる。
*****
私は坂西女子高校。秋斗はすぐ近くの坂西高校。
初めは一緒の高校に行こうと思ってたんだけど、坂西女子は食育科があって、管理栄養士の資格も取れるってことで、こっちに決めた。近いし。
仲良しの友達では、美穂が同じ坂西女子。
美穂は保育士科。世話好き、子ども好き、底抜けに明るい美穂にはぴったりな進路だって思った。それに坂西女子は制服が可愛いのが有名だから、いいよねーなんて中学の時から言ってたんだ。
私の現在の身長は百五十九センチであと一センチ欲しいなと思ってるところ。
秋斗は中学の三年間ですくすくと伸びて、なんと百七十八センチ!
男の子ってすごいなあと思う。
秋斗は中学も高校でもサッカー部。ちなみにはるにいは坂北工業高校。
はるにいもずっとサッカー部。休みの日には二人でサッカーの練習をしたりゲームをしたりして、仲がいいのも変わらない。
秋斗がうちに遊びに来たり私が秋斗の家に遊びに行ったり、二家族そろってお出掛けしたり食事したり、着々と家族ぐるみのお付き合いがなされていたりする。
いつの間にかママ同士パパ同士もすごい仲良くなってるみたいだし。
秋斗のお母さん、弥生さんとお料理することも増えて、「早くホントの娘になって」なんて言われることも、度々・・。
照れちゃうんだけど。
秋斗の性格も中学校の時と基本変わってない。
いつもニコニコ穏やかで、優しい。人の気持ちを察するのが上手いし、話をするのも上手い。いつでも誰にでも好かれてる。
中三の時なんか体育祭で応援団員をやって、後輩の女の子達にいっぱい囲まれて
きゃーきゃー言われてたし。・・告白、とかもされていた。
別々の高校に行くことは二人で何度も話し合って決めたこと。
ちゃんと自分のやりたいことに向けて進路を決めようって。
秋斗は彼女である私をものすごく大事にしてくれるから、不満はない。
中学の時はずうっと一緒にいれたから、それに比べて今は離れている時間が多くなった。
そのことで、不安は・・ないと言えばウソになる。
*****
授業も終わって放課後の掃除時間。
うちの班は中庭の北の隅の辺り。外掃除は範囲が広いから、バラバラに分かれてゴミを掃いたり雑草を抜いたりする。
こういう人通りのないような所まで、どうして毎日掃除するんだろう。
一週間くらいほかっといて、まとめてやった方が効率いいんじゃないかなあと思うんだけど。
ざっざ、ざっざ、とたいしてゴミもないアスファルトのホウキで掃いていると、思わずため息がこぼれた。
「どうしたの? さくら。なんかお悩みごと?」
すかさずいつからそこにいたのか、美穂が近寄って来た。
美穂はクラスは違うけど、偶然中庭の掃除にな ったらしくて、暇を見つけてはおしゃべりしに来てくれる。
まあ、ここの掃除はなんとなくホウキを動かしれば誰も怒らないんだよね。
「ため息なんてついちゃって。悩みがあるならおねーさんに話してごらん?」
美穂はずいずいっと近寄ってくる。
いつも思うんだけど、美穂ってエスパーなんじゃないかって。
昔から、私が悩んでるとどうしたのって聞いてくれる。私、そんな分かり易い顔してるのかな・・。
「なに? なに? アキトがらみ?」
美穂は相変わらず私より断然、恋愛に詳しい。
経験豊富というか、物知りというか。
前は同じ中学の時の同級の男の子と付き合ってたんだけど、いつのまにか
とっくに別れてて、最近は秋斗と同じ坂西高校の一つ年上のサッカー部の人とお付き合いしてるそうだ。
秋斗の部活の先輩で、なんとなんと、はるにいの友達らしい。世の中って、意外なところで繋がってる。あ、単にサッカー繫がりか。
美穂の言う通り、悩んでることがある。秋斗のことで。
ここはひとつ、美穂先生に相談に乗ってもらおう。