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15 はるにいの彼女

弓道場に戻ると、練習が再開された。

黙々とやってたけど、十分休憩になったとたんに、陽菜ちゃんと詩織と香奈にわあっと囲まれた。

「さっきの、なあに? まさか三角関係なの? さくらちゃん!

あ、先輩には、適当にごまかしておいたから」

陽菜ちゃん、目が輝いてるよ・・。

「ありがとー・・」

なんだか数分のことでどっと疲れたよ。怒るだろうとは思ってたけど、予想以上に怒るんだもん。秋斗ってば。


「あーんなキレたアキト初めて見た。ちょっと、びっくりー。

てか、浅井先生がさくらを追いかけて坂西女子の、しかも弓道部にまで来たって

いうのにマジびっくりー! さくら大丈夫なの? セクハラされてない?」

「てか、あの人何歳? 年とってないんじゃないの? 全然変わってないんだけど。あの大学生ヅラ。何者なのよ、アイツ」

「なんかあったら言うのよ! 泣き寝入りはダメよ!」

口々に言う詩織と香奈に、陽菜ちゃんが「なになに?詳しく教えてよー」と

がっつり食いついてる。


私をのけ者にして、中学校の時の話が始まってしまった。

ネクラ先生と呼ばれるほどの風貌だった当初の浅井先生の話から始まって、髪を切ってサッパリ爽やかイケメン教師にイメチェンした話。最初からずっと私のことを狙っていたというような話まで一気に語られた。


まだまだ話足りない様子の香奈と詩織に、先輩から休憩終わりの声がかかる。

「ほら、ほら、練習始めるって」

行こう、と三人を促した。


走って集合しながら陽菜ちゃんが私の袖をツンツン引っ張る。

「ね、さくらちゃん。さっきの話、ホントなの?」

「詩織と香奈は話が大袈裟だから、半分は嘘だよ」

「じゃ、半分はホントなのね?」

「う・・」うん、とも何とも答えがたい。


「よーし、じゃあわたし、本気で頑張っちゃおうかな!」

「え?」

陽菜ちゃんは両手を可愛くぎゅっとにぎって、にっこり笑う。

「浅井センセーのこと。

奥手そうだし、ああいうタイプは押し倒しちゃえばイチコロだと思うんだ。

ね? そうすれば、さくらちゃんも付きまとわれなくてハッピー。

わたしもハッピーで一石二鳥じゃない!」

「お、押し倒すって! ひ、ひなちゃんっ」

カワイイ顔して、なんてこと言うの、この子は!?

わたわたする私を見て陽菜ちゃんはふふふと笑った。

「さくらちゃんったらー。中一から付き合ってる彼がいるのに、まだそんな

純真なの? かっわいーい。

・・・そっかー。だからよけい浅井センセーに怒ってたのね、彼」

なに?

なにを納得したの? 陽菜さんっ!?


「応援、協力、よろしくね、さくらちゃん」

陽菜ちゃんが妖艶な大人の女の人に見えた。

おとなしそうだと思ってたけど、陽菜ちゃんって、美穂と同じタイプなの・・かな?





*****


夜、自分のベッドでごろんと寝っ転がって天井を眺める。

この前の合同練習では色々ありすぎて大変だった・・・。

あれから秋斗は、浅井先生と会ったかとか、変なことされてないかとか

毎日何回もメールや電話を入れてくれるようになった。心配しすぎだよ・・。


浅井先生のこと、はるにいに言うべきかな。

でも言ったら怒りそう・・。はるにい気ィ短いからなあ。

高校にまで追いかけて来たって聞いたら、殴り込みに行くとか言いそうでコワい。

はるにいも部活と勉強とバイトで忙しそうだから、あんまり心配かけることは聞かせたくないんだよね。




ところではるにいにも彼女が出来たんだって。びっくり。

なんか、実は何年も前から友達以上恋人未満な関係でいたみたい。

この前初めて紹介してもらったけど、見た目はふんわりした美人さんだけど、話してみたらシャキシャキしたカッコいい姐さんタイプの人だった。


優里香さんっていって、坂北高校の芸術科二年だって。

はるにいに何を聞いてもあんまり教えてくれないんだけど、二人でいる時のはるにいの顔が優しくて、別人みたいで驚いた。


初めての挨拶で、「やっぱりカワイイ!」って抱きしめられたのには驚いたけど。

はるにいから、私の話は色々聞いてたって言うし。

はるにい、変な話、してないでしょうね・・。

優里香さんともっと仲良くなれるといいな。

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