13 先生が顧問!?
五月最後の土曜日。今日は弓道部の二度目の合同練習。
私達は朝、八時に坂西女子の弓道部の部室に集まった。
朝が弱いらしい陽菜ちゃんは何度もあくびをしてる。
袴とか弓など用具を持って、顧問の先生も一緒に皆で坂西高校に行く。
用具を持って弓道場に入ると、パンパンと手が鳴らされた。これは集合の合図。
「おはよう、みんな。今日はお知らせがあります。顧問の上田先生が昨日の練習で腰を痛めてしまったので、急遽、臨時に他の先生が来てくれます」
部長のアンナ先輩の紹介で、ガラリとドアが開いた。
「おはようございます」
!?
なんで。
驚きのあまり、私は危うく大事な弓を落としそうになった。
「初めまして。科学の浅井です。えっと、上田先生以外に弓道の経験者がいなかったので、申し訳ないんですが、私が臨時の顧問となりました。
私も素人ですが、これを機に一緒に習わせてもらおうと思っています。
よろしくお願いします」
少し硬い表情で、昔よりはやや大きくなった小声で自己紹介をする浅井先生。
な、な、な、なんで??
「さくらちゃん? もう行くって。・・どうしたの?」
「あ、ううん。な、なんでも、ない・・」
陽菜ちゃんにつつかれてハッと我に戻った。用具を持って皆の後に続く。
・・・なんで、先生が顧問に?
ちらりと横目で見てみると、まっすぐこちらを見ていた先生とばっちり視線が合って、それはそれは嬉しそうに微笑まれた。思わず俯いて目を逸らす。
なんで、もなにもない。私がいるからだ。
先生、ホントに私を、く・・口説こうとか思ってるの?
迷惑だよー! これ以上接点を作らないで! 近寄って来ないで!
秋斗にどう言おう。・・怒りそう。あ! 今から坂西高校に行くんじゃない!
どうしよー。秋斗と先生が会いませんように。
これはもう、祈るしかない。
「まさか上田先生の代わりが、新任の科学教師だとはね。しかも弓道未経験」
自転車で並んで走る陽菜ちゃんは楽しそうに笑ってる。
私はため息が漏れた。
「なあに? 苦手なの? さくらちゃん」
「うん。すごーーく」
まさか、中学校の時から好きって言われてるの!とか、未来から来た科学者
なの!なんて馬鹿なことは言えるはずもないけど。
「えー、なんで? わたし、浅井せんせー、超タイプだなあ。顔もイイし、あの丁寧口調がサイコー。もっとしゃべって欲しいなあ」
「そ、そうなの?」
「今度カノジョいるか聞いてみよーっと」
びっくり。陽菜ちゃん、先生みたいなのがタイプなんだ。
まあ顔はいいのか。イケメン教師だもんね。
私としては、こっちに矛先が回って来なくなるのなら、陽菜ちゃんに頑張って先生を落としちゃって欲しいけど。
でも、先生は未来から来てる人だし・・、
ヒナちゃんがキズ付くことになったらいけないから応援していいものか悩む。
坂西高校へ向かう足取りが重い。
でも近いから自転車だとあっという間に着いちゃう。
忘れ物でもすればよかった。・・・先輩やさしいからきっと貸してくれるか。
はあ・・・。
*****
九時からの練習が始まって、十時半。大きなチャイムが鳴る。
これは、休憩のチャイム。しかもほぼ全部活共通らしい。
弓道場の出入り口に目を向けると、
青いジャージの見覚えのあるシルエットが見える。
秋斗!?
慌てて走って行くとホントに秋斗だった。
「ど、どうしたの?」
「もちろん、袴姿のさくらを見に。似合うね。すごい可愛い!」
にこにこにっこり。秋斗はご機嫌に、私を上から下まで眺めている。
恥ずかしいけど、それより、ここにいると、マズい。
「ど、どうかしたの?」
「どうって、休憩時間でしょ? こっちもそっちも」
私の質問に、秋斗は不思議そうな顔をする。
このままでは二人が顔を合わせてしまう。私は秋斗の手を掴んで、引っぱった。
「そ、外に行こ?」
「さくら? どう・・・!!」
言葉が途切れる。
秋斗の視線の先にはこちらに歩いてくる、浅井先生の姿が。




