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怪物さん、手術です。

そして、俺の意識は途切れた。





東京都世田谷区にある一軒家の一室。

部屋は遮光カーテンで閉ざされ、昼間だというのに薄暗い。

唯一の光源は、部屋の隅の黒い丸テーブルの上にある燭台の炎だけで、頼りなく室内を照らしている。

そのおぼろげな光が反射するのは、壁一面のガラスケース。中には何の生き物のものかもわからないような腕やら足やら胴体やらが、綺麗に並べられている。

室内は薬品のにおいが充満し、慣れないものでは5分ともたず気分を悪くするだろう。

そんな異様な空間の中央に設置された手術台の上に、俺は仰向けで寝ていた。

右腕の、肩から先を欠損した状態で。

その横には、白衣を着た少女が手術用のゴム手袋をはめて立っている。

少女は白衣一枚を羽織っているだけで、しかもボタンを留めていないためにかなり大部分の素肌を晒しているが、気にした風はない。

彼女はラキといい、俺の主治医だった。

120センチくらいの身長と同じ長さの銀髪。

不健康そうな青白い肌と金色の瞳。

西洋の陶器人形のような、整った容姿をしている。

その小さな顔の小さな唇が、怒った口調で俺を非難してきた。

「借りたものは返さなきゃならないんだぞ。小学校で習わなかったのか!」

「不可抗力だ。腕は奪われたんだから、無くなったのは俺のせいじゃない」

俺の反論に、むー、とラキはくちびるをとがらせる。

「大体奪われるのがおかしーぞ! せっかくレアな人狼の腕を貸してやったのに!」

「バランスが悪いんだよ。腕だけ筋力がありすぎて、身体全体がついていかないんだ」

「そーかー……。バランスかー」

ひとしきり首をひねった後、ラキはガラスケースの扉を開けて、そこから一本の『腕』を取り出した。

見た目は普通の人間と腕と変わらないが、ラキのコレクションだ、まともな腕であるはずもなく。

「屍人の腕だ。触れたものを腐らせるぞ! しかも骨すら残さずだ!」

「そんなものを取り付けたら俺の胴体のほうまで腐るんじゃないのか?」

それもそうか、とラキは舌を出して頭をコツンと叩く。

あまりにもわざとらしいリアクションだが、ラキがやるとそれなりに様になっているから小憎らしい。

「どーれーにーしーよーおーかーなー?」

ラキは数え歌を歌いながら指差しで腕を選んでいる。

その適当さ加減に恐怖を覚えつつも、俺は口を挟まない。というか挟めない。

こいつのおかげで今、俺は生きてられるのだ。たとえモルトモットみたいな扱われ方をしていても、ラキに見捨てられない限りは死なないで済む。

そんな圧倒的なパワーバランスによって、俺とラキの関係は成り立っていた。

「てーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーりっ! ……おっ、あたりだぞ!」

ラキの当たりは俺にとっての外れであるということは、今までの経験で分かっていた。

「これはちょー大あたりだぞ? なんせ天使の腕だからな!」

そういってガラスケースから取り出してきたのは、あまりにも美しい、芸術品のような腕だった。

肌は透き通るように白く、つやつやと輝いていて、その神秘的な雰囲気に思わず目が釘付けになる。

「というか、なんで天使の腕なんて持ってるんだよ」

「もいできたからな!」

空恐ろしい返答が返ってきた。

「簡単に言うけど、大丈夫なのか。よく分からんが天使に手を出したら他の天使達が大勢で取戻しに来たりしないのか?」

「大丈夫だ。天使にとっては肉なんて消耗品だから。壊れたら取り換えるぐらいの認識しかないよ」

言いながら、てきぱきと俺の肩に天使の腕を縫い付けていく。

麻酔なしでも痛みを感じない身体は、なってみると意外に便利だった。

「しいて言うならば、悪魔が大挙して奪いに来るぐらいだな、デメリットは」

「今すぐ外してくれ」



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