第八話 「薬膳談話」
短めです(´・ω・`)
※注意書き※
レバーの素晴らしさで、気が付けば書いていました(˘ω˘)
この物語はフィクションです。
現実においては、健康な食生活を心がけてください。
日々の取り組みこそが、貴方の健康に不可欠です(`・ω・´)ゞ
栄養については、医療関係者の助言をご参照ください(`・ω・´)ゞ
作中の表現は、正確でない可能性があります。
ツーダ先生のドラゴンに対する感情を一言で言おう。
「ドラゴンだ!」
正直に言って、それ以上でも、それ以下でもない。
なにしろ、ツーダ先生にとってドラゴンやリザードマン、はたまた獣人や吸血鬼といった種族の存在は理解の範疇外なのだ。
そういう存在なのだ、と目下は存在を認めた上で理解に努める対象であるが、まだまだ理解が及んでいない。
異世界において、医療行為を行うというのは相当に慎重でなければならないのだ。
医療とは、生物の生命を預かる行為。
曲がり間違っても、迂闊さでミスを招き、結果として取り返しのつかない事態を招くわけには行かないのだ。
当然、ツーダ先生にしてみれば限られた知識での診療行為など冒涜である。
繰り返すが、『限られた知識』での『診療行為』は許されざる行いだ。
だから、此処からの会話において。
ツーダ先生の発言に際して、悪意は一ミリグラムも介在していない。
全ての言葉は、純然たる好意と善意によって放たれたのだ。
広々とした王立ツーダ医学研究所の応接室。
ゆったりとした椅子に、ふんわりと香り豊かなお茶。
そして、もてなされるのは最近、とみにやつれたガンバ・ルー卿であった。
心労とある種の過労だろう。
げっそりとやつれたルー卿をみれば、医師でなくとも彼の健康状態を案じるというもの。
宮中貴族の大変さだろう、とツーダ先生は宮仕えの過酷さに同情を惜しまない。
何分、王国においては外様であり類推するばかりではある。
しかしながら、仄めかす程度ではあるがツーテ卿の忠告どおりということだろう。
ルー卿のように精悍かつ生粋の貴族でさえも、激務に心身を苛むとあれば。
ツーダ先生にとって、宮仕えは辞退して正解であったなと頷くに足るものとなる。
近々、ツーテ卿に何がしか粗品でも送らねばならないだろう。
異郷の地で得た良い友人に感謝の念を新たにしつつ、ツーダ先生はルー卿に対する同情心も深めていた。
過労で内蔵機能が低下し、食欲を減衰させ、栄養が足りずにさらにそれが悪循環を招いている窮状。
何より、ルー卿は心労の種もあるのだろう。
会話の端々に、張り詰めた心がほつれかけている危うさすら感じられて仕方がなかった。
……本当に、誠実に職務に取り組んでくれているルー卿の健康が案じられるとはこのこと。
だからこそ、部外者として大したことが出来ずとも……とツーダ先生は勤めるのだ。
彼を招くにあたり、ツーダ先生は滋養豊かで消化器官に優しげな飲み物ぐらいは、用意しようと。
それは医師としての、さり気ない気遣い。
しみじみとした表情で、蜂蜜入りのお茶を飲み下すルー卿。
漸く、というべきだろうか。王立ツーダ医学研究所宛の相談を、彼は口にし始める。
「失明?」
「ええ、一つ、我々貴族を悩ます、いわば貴族病の一つに対してM.D.ツーダ卿の英知をお借りできればと」
つまり、とツーダ先生は考える。
ルー卿の言葉を纏めると、中途失明に対する治療法を求めているということらしい。
ある意味で、長生きできる貴族ならではの病気といえば、病気だろう。
贅沢病としかし、笑うこともできない。
確かに、見えるものが見えなくなるのは恐怖だというのは容易に想像がつく。
QOLの低下は深刻で、なるべくならば力になることが出来ればとツーダ先生としても幸いである。
だが、『出来ること』と『出来ないこと』が世の中にはあるのである。
ツーダ先生としても遺憾ではあるのだが、悲しい現実に向き合わねばならない。
故に、ツーダ先生は厳しい事実をルー卿へ告げざるを得ないのだ。
「ルー卿、それは……私の専門では在りません」
「ですが、卿は人を診る経験は豊富だと」
「多少の知識はありますが、ここでは薬も機材も検査道具も事欠きます」
眼病は、早期発見、早期治療が望ましい。
その観点から言えば、自覚症状が深刻となってからの対処法はツーダ先生の手持ちでは限定的だ。
網膜色素変性症に対しては、打つ手が殆ど限られるだろう。
緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性など、比較的長寿故に考えられる候補にしたところで……治療薬一つとっても簡単ではない。
WHO必須医薬品モデル・リストの薬品だって、何一つ手元にはないのだ。
更に言えば、援助物資として届く見込みもない。
自分の無力さを吐露するようで苦痛ではあるが、ツーダ先生とて人間である。できること、出来ぬことがあるのだ。
「……つまり、卿の知恵を活用するにはその基盤が足りないと仰るのですね」
わかります、とそこでルー卿は深々と頷いてくれるがツーダ先生としても申し訳なさが募るばかりだ。
「申し訳ないことではありますが、治療そのものは私とて困難です」
「いえ、できればと思ったまでのことでして」
「せめて、予防の方策だけでも申し上げることが出来ればと思うのですが」
だから、というべきだろうか。
ツーダ先生にしてみれば、それは可能な一方策を口にしただけのことである。
「……予防?」
「病を治すのは難しくとも、避ける事ができる方策にいくつかは心当たりが」
食生活、生活習慣の見直し。
この手の取り組みで、病というのはある程度解決できるのである。『ある程度』というのは、中々馬鹿にしたものでもない。
An apple a day keeps the doctor away!
過ぎたるは及ばざるが如しともいうが、兎も角、適度な食生活や習慣というのは健康に資すること間違いなし。
「おお、道理ですな。ご教示いただけますか?」
「無論ですとも。ああ、ですが、少々問題が」
ただ、とそこでツーダ先生は言葉を濁さざるを得ない。
亜鉛や、鉄分、各種ビタミン等を適切に取れば健康へ良いだろう。
良いだろうが……問題は、サプリメントなどなんら存在しない世界における供給源である。
こうなると、牡蠣がお勧めとなるが……牡蠣を安全に食べられる環境など、それこそ高度な流通網が大前提。
ないものねだりに限度がある。
「代価は、相応に」
「いえ、そういうことではなく……」
「何か、制約でも?」
「知恵というのは、恵みにも災いにもなります」
金銭の問題ではないのです、とツーダ先生は声を落ち着かせながら淡々と指摘する。
「例えば、動物の肝臓です」
「……レバーということですか?」
「ええ。ですが、人獣共通感染症の問題があり……失礼、要するに食べるには危険ということです」
内陸部で確保できるとすれば、レバーがもっとも手軽といえば手軽だが……肝炎等のリスクは巨大すぎた。
医師として、とてもではないが許容できない。
ビタミンAの量が些か過剰なのも軽視できない問題だ。
母子の健康を思えば、この辺の配慮も必要だろう。
それでも幾つかの病気には、確かにレバーを食することが多少は予防策足りえるのも事実だけに悩ましくはある。
亜鉛、鉄分、そして幾つかのビタミンを思えばレバーは優位な選択肢であるのは間違いない。
『食べられれば』という大きな問題が横渡るのはいかんともし難いのだが。
「そもそも何故、レバーがよいのでしょうか? 率直に申し上げて、腐敗が早く危険な部位として悪名高いはずです。食べるにしても、相当に加熱しなければ……」
「危険性は仰るとおりで、通常は危険すぎてお勧めできません。それに、加熱したところで危険性はまだ残っています。何分、肝臓の部分には毒も蓄積するもの。毒を浄化できる生理機構を持たない生物のものは根本的にオススメできませんよ」
第一に、加熱処理していないレバーを食べさせるなど論外。
第二に、加熱処理したレバーとて、適切に処理されていなければとても食用の衛生基準を満たすとは思えない。
食物連鎖で色々と肝臓には蓄積されるものなのだ。
「はい?」
「ですから、肝臓の部分というのは毒が蓄積しやすいのです。その分、栄養素も蓄積していると見做すことも出来ますが……」
「いえ、そうではなく?」
「ああ、まあ、生物に有害な毒素を浄化できる生理機構をもつ生き物が居れば、その肝を薬用に食すのも悪くはないと思いますが」
ただ、とそこでツーダ先生は話を打ち切る。
食物連鎖の哀しい現実だ。
積もり積もった小さな要素も、大型の草食獣で肝に集められれば大した毒だ。
医師として、ツーダ先生は加熱せずに食することを推奨など絶対に出来ない。
というか、牛、鶏、豚、ウサギなどの肝臓を適切に処理できる施設もない以上、食べること自体を推奨できないのだ。
だから、ツーダ先生としては完全に善意から断言する。
「牛、鶏、豚、ウサギ、鹿など……まあ、あそこらの標本群ですね。あれらは、とてもオススメできません。」
「全て、ですか?」
「ええ。あれらの肝臓を食べるのは、加熱していようとしていまいと自殺行為です」
E型、B型、ともかく肝炎の問題は深刻だ。
無論、顕微鏡もない状況で肝炎を惹き起こすウイルスが潜んでいえると断定は出来ないが……リスクを軽視するのは不誠実だろう。
なにより、寄生虫の類は全ての標本群から見つかっているのだ。
取り扱いを間違えば、生活習慣病を予防する為の食生活が却って健康を損ないかねないジレンマがある。
「……例えば、卿自身が視力の低下に悩まれているとすれば、卿はどのような部位を食することを提案するかね?」
「診もせず、適当なことはいえませんが……そうですね」
「肝に毒性がないものを探しますね。無理ならば、まあ、色々と試してみますがレバーをどうにかして食べられるようにするほうが良いでしょう」
「呪術で無毒化するのはどう思うかね?」
おお、と見落としていたアプローチに思い至りツーダ先生は頷く。
確かに、呪術で無害化できるのであれば……レバーを安定供給できるのではないだろうか?
「ルー卿、毒の無毒化のプロセスについてお伺いしたいのですが」
「と、申されますと?」
「私も研究しているところですが、『一切、人体に無害』とすることが出来るのですか?」
「いえ、特定の呪術で対応している毒を無毒化すると聞いていますが」
「であるならば……やはり、『複数の毒素』が含まれている可能性の高い肝臓は避けるしかないでしょうね」
期待しただけに失望もあるが、やむをえない結論であった。
何しろ、肝炎にしたところでまだまだ未知の部分は残っている。
ツーダ先生の知らない病原菌が異世界のレバーに存在してないという保証はどこにもないのだ。
思いつめた表情で色々と質問してくるルー卿には申し訳ない。だが、ツーダ先生は『誠実』であると誓った身なのだ。
不確実なことなど、断言できるはずがない。
「なるほど。では、M.D.ツーダ卿、宣誓していただけますかな?」
「宣誓?」
「ええ。生物に有害な毒素を浄化できる生理機構をもつ生き物の肝臓以外、食するべきでないと卿はその全知識を誠実に活用した上で、断言できる、と」
「ああ、そういうことであれば喜んで」
だから、ツーダ先生は100%の善意で断言し、宣誓する。
「確かに、仰られた存在以外の肝を食べるべきではありませんね。宣誓します」
「……ありがとうございます」
「随分とお疲れのようですが、大丈夫ですかな」
ルー卿のげっそりとした表情は、傍からみても重症だ。
「…………少し、ながい休暇をとろうかと」
「ええ、失礼ながら……そうなさるのが宜しいでしょう」
ガンバ・ルー卿の緊急報告書
『ドラゴンの肝』は『貴族病』の諸症状に対する『唯一の予防薬』と『M.D.ツーダ子爵』が『神聖契約』に基づき『宣誓』。
走り書き
神よ、 王国枢密院に貴族病を患う方々が何故、ああもいらっしゃるのでしょうか?
加齢黄斑変性に対する亜鉛供給源(+その他栄養供給源)として、ドラゴンの肝臓、乱獲待ったなし(˘ω˘)
貴族のQOL向上の為に食材として狩られるドラゴン……。かつて、ここまでドラゴンの生態数を減らす理由に生活感ただよう理由が見出されたことはあるのだろうか(; ・`ω・´)
さぁ、健康の為に食べよう、ドラゴンのレバー!




