妹よ…
期待せずに読んでください。
色とりどりの花が咲き乱れるこの季節に、私の妹は結婚式を挙げることになった。
相手はこの地域の領主の嫡男だ。
現在は領主の補佐という立場にいるものの、次期領主としては素晴らしい実力を持っているともっぱらの噂だ。
それでなくとも、彼の艶やかな茶髪と整った顔立ちにある穏やかな緑の瞳は、彼の物腰柔らかな性格と相まってまるで大きな樹に守られているような安心感がある。
顔もよし、性格よし、しかもお金持ちとくれば、町の娘たちにとってはこれ以上ない「好物件」だ。
獲物を狙う狩人のごとく、虎視眈々と彼の「妻」の座を狙っていたに違いない。
そんな女たちの死闘を横目にあっさりと彼の心をかっさらっていったのが、私の妹だ。
私の妹は超の付く「お馬鹿さん」だ。
「人類皆友達」を地で行く彼女は、よく騙されやすい。
道端で弱っている老人がいれば助けようとし(危うく財布の金を掏られるところだった。)、
知り合いでもない人の借金の連帯保証人にサインをしようとしたり(あの時忘れ物をして家に引き返さなければ今頃家なき子だ・・・。)
とにかく人の話はすぐに信じてしまう。
それが領主の嫡男の庇護欲をそそられたのかはわからないが、彼が家に訪ねてきて「妹さんを私に下さい。」と頭を下げた時は、目の前が真っ暗になった。
「この子が次期領主の妻なんぞになったら、どこぞの悪徳領主に騙されてしまうのではないだろうか」とか
「領地の財産をうっかりどこぞの悪徳詐欺師なんぞに渡してしまうのではないか」とか先々のこの町の最悪の未来を考えてしまった。
未来の婿として名乗りを挙げてくれたことには感謝しつつも、この子はとんでもないお馬鹿さんなのだと、
この子に領主の妻が務まるのかと身振り手振りで力説をしてみたものの、彼の気持ちは変わらず、最終的には二人の結婚を了承した。
その時の妹はニコニコと彼の隣で笑いつつ「姉さんは心配性だなぁ」とのんきに茶を飲んでいた。
…一瞬殺意が湧いたのは言うまでもない。とりあえず夜逃げの準備だけでもしておこう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
また、どこかでお会いしましょう
ァディオス☆(`・ω・´)ノ