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「……んじゃまあ、大分本題の方が遅れちまったな。条件を言うぞ?」
「ああ、そうね、頼むわ」
「……条件?」
「あとで説明する。――まず条件は二つ。一つ目は、イベントに参加自体するかはまだ未定ということにして欲しい。だが、協力はしっかりするつもりだ。二つ目は、あんたはどうしても勝ちたいということで、それにはまず強くなるしかない。この場合だが、俺が色々と教えてやるから、俺の言う事には従って欲しい。この2つで、どうだ?」
条件を述べると、レイラは少し考えるような仕草をするが、すぐに決まったらしく小さく頷いた。
「ああ、それで構わないよ」
「よし、交渉成立だ。となると、急ぐとするか。おそらく、あのイベントまであと数週間しかないはずだ。そうだろ?」
「そうだね。あと三週間ほどかね」
「そうと決まれば、まずは闘技場に向かうとしよう」
コウガがそう言って立つと、レイラも即座に席を立つ。……その際レイラはメニュー分の金をテーブルに置いた。
「あら、なんだかお急ぎのようですねー」
「ラヴィ、あんたにも手伝ってもらいたいんだがいいか? 一応、プラネティスにも寄る予定だし、ついでにその暗黒竜も倒してやるから」
「うふふ、お邪魔じゃないのでしたら、快くお手伝いさせていただきます」
ラヴィも立ち上がり、わざわざ一礼をする。こういう性格だというのは知っているが、この服装だとよりそれが際立つとも思い、心強いとも感じるコウガ。
三人はパーティを組み、店を後にした。
最初に向かうのは、転移門。ここは町と町などを繋ぐもので、通貨を払えば決めた場所まで飛ぶことができる。行き先については転移門に訪れる前に予め伝えてある。
「代金は払ったか? みんな」
「ああ」
「はい」
「それじゃ行くとするか」
「「「転移、自由連合《リベレイ》へ!」」」
行きたい場所の名を言ってから門をくぐると、その場から三人の姿は消えていった。
これより彼らはPvPイベントの為の冒険へと出掛けることとなるのだ。
たった数秒、それだけの時間で辺りの景色が一瞬で変わった。
今までの大樹だらけの森はなく、見えるのは一際大きな建物とそれを中心にして開かれている露店の数々。着いたここが、自由連合リベレイである。
――四つの国家があるとはいえ、強制的に所属する必要はない。もしも所属しなかった場合、その者たちが行き着くのがリベレイ。名の通り、自由にこの世界を楽しみたい者同士が集まっている場所で、国家などといった縛りは一切ない独立した都市だ。
「……久々だな、ここに来るのも」
「あたしは、最近で二・三回は来てたわ。闘技場も何度か挑戦したよ」
「それなら話は早いな。時間も限られてる、俺流でだが、手っ取り早くレイラを鍛えてやるから、すぐに向かうぞ。やったことあるなら知ってると思うが、意外とエントリー取るのに手間が掛かるからな」
コウガが言うと、二人は頷き、コウガへ付いて行った。
歩くこと数分、三人は闘技場の目の前まで着いた。
遠くから見てもわかるほどの巨大な建物で、間近で見るとこれまた格別な迫力がある。形としては、コロッセウムをコピーしたように、同じ作りのようで似ている。
中に入ると、出入り口付近は多少暗く、更に奥へと進むと少し広めの部屋に辿り着いた。
その部屋の正面には受付があり、そこに立っている者が二人。姿こそ、プレイヤーのキャラクターと同じにできているが、これらはNPCだ。
三人は受付係の前に立つ。すると、それに反応したかのように二人のNPCは同時に会釈をした。
「闘技場へようこそ」
「三対三のランクはB以上でエントリーしたいんだが、空いてるか?」
「え、ちょっ……」
「Bランク以上の3on3バトルでエントリーですね。かしこまりました。直ちにマッチング致しますので、控え室にて少々お待ちを――」
受付の一人が目を閉じると、三人は光に包まれ、部屋から姿を消した。そして、受付の部屋とは違う景色が目に入る。別の部屋、控え室にワープされたのだろう。
今は対戦相手を検索中なため、待機。
とりあえず三人分用意された椅子にコウガとラヴィは座る。レイラだけは座らずに、全身を震わせていた。
「どうした? 座らないのか?」
「どうしたもこうしたもないっての! Bランク以上って、あんた、なんでそんな上位を選ぶんだい!」
レイラは赤い髪を揺らして、今でも食い掛かるようにコウガに抗議する。
「なんでって、そりゃ強い奴と戦った方が面白いし、ためにもなるだろ」
「それもそうだけど、あたしはまだCランクほどだよ? あたしじゃ、勝てるかどうか……あ、でも三対三ならコウガもいるのか。それなら――」
「あ、ちなみに俺は戦闘自体には参加しねえぞ? で、ラヴィには回復だけさせる。実質、お前一人で三人を相手にしろ」
「……え?」
「聞こえなかったのか? お前が一人で全員を相手してみろ」
「えぇぇぇ!?」
目玉が飛び出しそうなほどに驚くレイラ。滅茶苦茶だと思っているのは確か。しかし、考えがあってのことだから、コウガは揺らがない。
「そんな無茶な……」
「ああ、無茶だな。それに、俺が見たところ、あんたは対人ではタイマンしかした事ないだろ? しかも、やったとしてもほんの数十戦ほどで、どれもギリギリで勝ったって感じだ」
「うっ……」
「図星だな。まあ、自分の強さがわかってるようだからマシな方だ。とりあえず、今のあんたじゃまずBランク以上の対人は勝てない」
「今の」という部分を若干強く言う。咳払いをして、少々真剣な表情で続ける。
「何はともあれ、勝てないままじゃ困るんだよ。戦争ってのは、レベルも強さもてんでバラバラなプレイヤーが多く集まって戦うイベントだからな。相手が何人だろうが、どんだけ強かろうが、倒す対策ってのはいくつか組めるもんだ。だから、まずお前には対人戦を慣れてもらうのと同時に多人数との戦い方も一緒に身に付けてもらう」
コウガの言い分はごもっともだ。しかし、それでもやはり無茶苦茶なのには変わり無い。レイラは「でもやっぱりいきなりBランクは……」などいろいろと異論を述べるが、コウガは完全にそれを無視した。
「この鬼! ……はぁ。あたし、とんでもない奴に頼み込んだかもしれないよ」
「うふふ、コウガ君はそれだけ本気ってことですよ。頑張って、レイラちゃん。私もサポート頑張りますから、ね?」
「……うー」
レイラはふて腐れるように頬を膨らませ、部屋の中を歩き回る。
それを見て苦笑するラヴィはそのままコウガの方へと振り向いた。
「コウガ君も意地が悪いですね。ちゃんと教えてあげればいいのに」
「むしろ、このぐらいが丁度良いんだよ。それに、あいつは俺と同じタイプかもしれない。だから、先に戦わせる。細かいことは後だ。……そろそろか」
言い終えて、さてと立ち上がるコウガ。タイミングよく部屋に合図のような音が鳴り響く。どうやら対戦相手が決まったらしい。
音を聞くなり、変な呻き声をあげながらレイラは髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きはじめた。だが、どう騒ごうが何も変わることはないとばかりに、また彼らの全身が光に包まれ消えた。
今度は闘技場の内部だろうか。天井はなく、空が見え、日差しが当たる。
三人は闘技場の真ん中で周りを見渡した。多からず少なからず、見に来ている観客が目に入る。
そして、コウガたちと対峙するように、眼前には同じく三人組が立っていた。
三人組の装備はパッと見るに、二人は防具が軽装で腰には2本剣を提げている。
もう一人は布服に身を包み、長めの杖を持っている。……攻撃特化なチームだと推測したコウガはレイラに近付いた。