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「うおっ!?」
真っ直ぐの廊下を走っていると、急に地面が振動しているのを感じた。
後ろを振り向くが、誰かがいるわけでもなく、閉ざされている大きな扉だけが目に見える。
(……絶対、負けんじゃねえぞ)
心でそう呟いて、更に先へと進んでいく。
すると、先ほどの広間と同じ大きなドアが前方に見えた。
あの女性騎士がいたとなると、次はいよいよ……。
「はあ、やっとかよ。ったく、どんだけ歩かせんだ。お前はどこぞのボスかっての」
毒吐きながら、そのドアを勢いよく開く。
やはり、中も前の部屋と同じ構造をしているが、柱はなく、より広くなったような場所だ。
中心には、白銀の甲冑や兜で全身を覆い尽くしたプレイヤーが立っていた。
間違いない、この者が聖騎士団の副団長にして要塞騎士と謳われたトッププレイヤーの一人。
「来てやったぜ、ラグナ。随分と大層な格好してんじゃねえか」
「君が本気で敵に回ったみたいだからね。僕も本気を出さずにはいられないだろ?」
「……今まで本気じゃなかったみたいな言い草だな」
「君相手には全て本気だったよ。またこうして闘り合えるなんて嬉しいね」
「そうかよ。へっ、待たせて悪かったな。そんな格好までさせてよ」
「なに、気にしてはいないさ。むしろRPGのボスみたいな感覚が楽しめて、これはこれで有意義だった」
「似合ってるぜ、ボス」
「お褒めの言葉として受け取っておこうか……」
……それから数秒の沈黙。
コウガが微笑むと、互いに構える。コウガの獲物が剣なのに対し、ラグナは短めの槍と盾だ。
槍と盾は防具と同じく白銀で染められており、槍は三叉で盾は前線で見た、防衛小隊が持っていた物よりはやや小さい長方形だ。
コウガはいつも通り、右半身をやや後ろにし、刀身は寝かせるように構える。
それに対し、ラグナも右半身をやや後ろにし、盾を持つ手を前に、槍を持つ手は高く、矛先はこちらに合わせて構えた。
「さて、そろそろ」
「始めようか」
ラグナの体からオーラが迸ると、広間全体が振動した。
武器をぶつける前に戦闘はもう始まっている。気で負けたら、完全に負けだ。コウガは鋭く、冷たく、相手を睨み付けた。
そして、先に動いたのはコウガ。剣を真っ直ぐに飛ばす。
切っ先はラグナの頭部目掛けて直進。ラグナはそれを三叉の槍で弾こうとする。
だが、剣が空中で二本に分割し、ラグナをすり抜けて背後へ。
ラグナが振り向いた時には既に高速で移動したコウガが双剣を手に持ち跳んでいた。
「はぁっ!」
そして、すかさず双方の剣を振り下ろす。
――長剣から双剣へとチェンジした時に行える、コウガ得意の強襲スキル《デュアルファング》。
「っ……!」
コウガの動きを読んでいたのか、攻撃は盾によって完全にガードされた。
高速の初撃による先手必勝が完璧に防がれ、少し焦るコウガ。
「……その攻撃に二度目はないよ」
「へっ……なら!」
双剣を防いでいる盾を踏み台にするように蹴って、更に高く跳躍した。
不意の蹴りにより守りが若干崩れる。そこに間髪入れずに斬撃を連続で飛ばす。
豪雨のような斬撃の猛襲。放てる限り放ち、着地すると、目の前には土煙で何も見えないほどになっていた。
手応えはあった。ダメージもそれなりに通っているはずだ。良ければイエローゾーン。確かめるべく、土煙越しに相手のHPを見る。
だが、彼のHPバーは予想ほど減っていない事に驚いた。あれだけ攻撃を当てたはずなのに、まだバーは緑色の状態である。
「……相変わらず硬てえな」
「それで終わりかい?」
「え……」
一瞬だった。土煙が昇る中、一瞬何かが光ったと思ったら、一本の光の槍が肩を貫き、コウガの体は宙に飛んでいた。
「ぐあっ!」
壁に激突し倒れる。突然の出来事に頭が混乱しそうになった。
今、攻撃を当てられたというのか。だが、あんな高速なスキルは見た事がない。
自分のHP残量を見ると、今の一撃で半分にまで減らされていた。
すぐに起き上がったコウガは双剣から両剣に変え、素早く明後日の方向へと投げ飛ばす。
「君と共に戦い続けて、今まで見せていたスキルが全てと思っていないかい?」
煙が晴れ始め、その中から出てきたラグナは、先ほどの攻撃によって兜が取れたのか露出された顔はどこか涼しげで、そのままこちらに近付いて来る。
「さっき使ったスキルは超高速で相手を貫く《ライトニングランサー》。高威力かつ超速で使い勝手はいいんだけど、数発が限度で、槍を一瞬手放す事になるのがネックでね」
「ご丁寧な説明ありがとよ。だがな、そんな余裕ぶっこいてる暇があんのか?」
今も余裕な笑みを浮かべながら近付くラグナに向かって鼻で笑う。
そして、二本指で空を切るように動かした。
その動作を見て、ラグナは気付く。コウガの手に剣が握られていないことに……。
「っ!? くっ!」
気付くのも遅く、後方から回転しながら飛んで来た黒い両剣の刃がラグナへと襲い掛かった。
だが、彼もまた反応速度が並外れたものか、すぐさま槍を戻し、それで弾き返す。
――コウガ行ったのは剣士でも数少ない投擲スキル《サイクロンスロー》。投げた剣を一時的に自在に操ることが出来る技。中級スキルだが、不意打ちするにはうって付けな技でもある。
弾き返された剣を手にしたコウガは一瞬で間合いを詰め、片方の手でラグナを捕らえた。
「まだだ! これで終わりと思うなよ。傷を負ってるんだからなあ?」
「しまっ……!?」
「おせえよ!」
はっと気付いたラグナは振り払おうとする。しかし、遅い。コウガはここでスキルを発動させる。
すると、ラグナの体の各部位から赤い閃光が迸った。それはまるで傷口から血が噴き出すように。
「ぐっ!」
ラグナは一気に数回にわたるダメージを受けて、怯んだ。
今も赤い光を発している各部位、そこはおそらく先ほどのコウガの攻撃で負った傷だ。
そして、今発動させたスキルは《ブラッディエッジ》。相手に負わせた傷に比例して、それ相応のダメージを与えるというスキル。
威力の低い軽い攻撃しか出来ないコウガにとっては数少ないダメージ量を増やすスキルだ。
さらに、ダメージ負ったラグナに少しの隙が出来たことを逃さない。
「オラ、まだ間合いだぞ」
「くっ……!」
盾を構えるも速く、ラグナをすり抜ける。刹那、無数の斬撃がラグナを襲う。これは、強襲スキルのインフィニティフューリーだ。
出遅れたとはいえ、数多の斬撃を盾のみでほとんど防ぐ。だが、数撃当たったのを見逃さないコウガはすかさずブラッディエッジを発動させ、ダメージを増やす。
お互いのHPが半分を切った状態まで行くと、見合ったまま距離を取った。
「へっ、久し振りにこのスキルをくらってどうよ。"二つ名"があるのはお前だけじゃないってことを思い出したんじゃねえか?」
「瞬血の牙、か。相変わらず性質の悪いスキルだね。でも、それを使うということは君はピンチってことなのかね」
「そいつはどうだろうな。まあ、そろそろ終いが近いのは確かだけどな」
「そうだね」
睨み合った後、同時に地を蹴り間合いを詰め、攻撃をぶつけ合った。
◇
「はぁ、はぁ……へへっ、まだまだ」
レイラは見るも無残なほどにぼろぼろとなった体でふらりと立ち上がる。
目の前にいる女性騎士も、甲冑のほとんどが崩れ落ちている状態で、それでもまだ立ち上がる力があった。
「互いに、これが……最後か……」
「ああ、こいつで、今度こそ……決着、さ」
お互いに睨み合いながらも、表情は笑っていた。
「うおおおおお!」
女性騎士が雄叫びをあげながら、ひびに入っている斧槍を構えて猛進。
「はあああああ!」
レイラも咆哮し、右足に気を込め、左足で大地を蹴った。
二人の間合いは一瞬で詰まり、渾身の一撃同士が交差する。
爆発音が響き渡ると同時、衝撃が辺りを包んだ。
音が鳴り止むと、攻撃を放った二人共、衝撃に耐え切れず双方に吹き飛んでいった。……二人の体力は限界に近い、となればこの戦いは立ち上がった者が勝利だ。
最後の攻撃のぶつかり合いの後、長いようで短い時間が経ち、立ち上がる者が一人。
激しい戦闘によって髪留めが切れてしまったのか、髪の毛がさーっと揺れる。それはまるで、炎が揺らいでるかのようにも見えた。
赤い髪の毛をなびかせながら、倒れている相手を見やると、拳をぐっと握る。
「あたしの、勝ちだ」
彼女はそう呟くと、ふらふらな体でその場を去る。
「……今から行くよ、コウガ。大丈夫、最後の一撃は残してあるからね」
唯一残っている右手の武具を見つめ、歩き続けた。
◇
コウガとラグナは肩で息を吐きながら対峙していた。
お互いの防具は壊れかけで、HPも半分を切っているといった危険な状態だ。
「……そろそろ決着をつけようじゃないか」
いつもは爽やかな表情のラグナだが、今はその微笑には曇りが見える。この状況下ではさしもの彼でも余裕がないようだ。
コウガは、この残り少ないHPでどうすればいいかを必死に考えた。
いくら連撃を当てたとしても、剣士の軽い攻撃では防御力の高い騎士であるラグナにことごとく防がれてしまう。
迂闊に攻撃でもして、弾かれたら……。逆に防御に回ったとしても、ジリ貧となって負けるかもしれない。
(……何考えてんだよ、俺)
さっきから思考がマイナスの方へと傾いてしまう。すぐさまコウガは首を横に振った。
信じると言ったのに、『負けてしまう』なんて考えてしまった自分を自嘲するように笑う。
(あいつは絶対に来る。俺が諦めちゃ駄目だろうが)
視線をもう一度ラグナへと突き刺し、剣を構えた。
「……ああ、決着付けようぜ!」
「それじゃ、行くよ!」




