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「……ろ! ……せ!」

「ん?」

 足を止めた。微かにだが、これは……声だろうか。コウガから見て右、来た道よりも木の数が多く、やや暗い森の方から聞こえる。

 プレイヤーの声か、小さくて聞き取りづらかったが、何にしろ予想していた他のプレイヤーが近くにいるという可能性がより高くなった。

 コウガはゆっくりと、声のする方へと向かう。どんな状況か、どんな者がいるかの把握をするためだ。もしかしたら、先ほどの中型モンスターを倒している1人または多人数の連中かもしれない。

 そうだとしたら、多少なりともできると言ってもいい。そんな相手に出くわせば、さすがに厳しくなる。……だから、情報はより正確なものが欲しい。

 幸い、木々が大量にあるこのフィールドであれば、黙っている限り見つけられるということはないだろう。

 木を陰に、慎重に声がした方へと近付く。それにつれ、次第に聞こえる声も大きくなっていった。

「いい……ら、……ってんだ!」

「……だ! あた……は、……いて!」

 途切れ途切れではあるが、声色がわかるところまできた。最初に聞こえてきたのはおそらく男性、続けて聞こえたのは女性。聞いていると、揉め事をしているのか、2つの声のどちらにも怒気が感じられた。

 距離は十分視界に捕えられるところだろうか。コウガは陰からこそりと覗き見る。

 そこには六人ほどのプレイヤーがいた。見ると、大きい図体をしたプレイヤーが三人と平均ほどなのが2人。五人ともキャラクターの容姿が筋肉質で、察するに男性アバターだ。

 そして、その5人が囲んでいる、もう一人がおそらく女性の声の主か。遠くからではよく見えないが、長い赤髪だけは見えている。

(何をしてんだ? あいつら、こんなところで)

 パーティーを組んでいる奴らなのか、それにしては何か不穏な雰囲気を彼らから感じる。

「離せって言ってるだろ!」

「そうもいかねえ!」

 今度ははっきりと聞こえた。後の声は、大きい三人の男性アバターの中でも一際巨躯な体つきにしている奴からだ。女性を掴んでいるのもそいつだった。

 一人の女性プレイヤーを五人もの男性プレイヤーが囲んでの揉め事か。しかもこんなフィールド内で、そう考えると、おそらく彼らはパーティーを組んでいるというわけでもなさそうだ。

 そうなると、また話は違うし、もしかしたら女性の方は危険な状態なのかもしれない。

 今、この状態を見てしまうと、何か悪い想像しかできない。

(まさかとは思うが、多人数で一人を……ってなもんじゃねえだろうな?)

 コウガの予想は、あながち違うとも言い切れない。それだけに性質の悪いことだというのもわかった。

 仮に、自分の予想が当たっていたらと考えたコウガは、無意識に握った拳の力を徐々に強めていった。これは、若干頭に血が上り始めている兆しだ。

 ――「何をするにも自由」というのが、このゲームのコンセプトでもある。だが、ゲームにしろ現実にしろ、どんなことでも限度というものがある。

 だから、多人数が少人数に、ましてや大勢で1人に何か悪いことをするというのがどうしても彼には見逃せなく、無性に腹も立った。それが、彼の性分なのだ。だから、今見えている状況が何にしろ癇に障ったのだろう。

 そんな性格をしているせいか、気付いた時には、陰から身を出していた。

 他プレイヤーにバレないようにと慎重に行動していたが、そんな事はもうどうでもよくなっていた。そのまま目の前にいる連中へとコウガは向かっていく。

 そして――

「おい、あんたら。中々楽しそうなことしてんじゃねえか。……俺も混ぜろ、よ!」

 不意に声をかけられ、振り向いた連中の中で、一番大きいプレイヤーの腹部をとりあえず思い切り殴り飛ばした。

「ぶほっ!?」

「……え?」

「ぎゃあああ!? あ、兄貴―――――!?」

 殴られた大男は、何事かと目を見開き、体をひしゃげたまま勢いよく吹き飛んだ。地面に叩きつけられた後、二・三度転がって大樹にぶつかり、止まった。

 他の連中は、突然一人が吹き飛ぶ瞬間を目の当たりにし、悲鳴をあげるも何が起きてるのかわからないといった様子でそのまま立ち尽くす。

 掴まれていた女性は呆気に取られて、その場にぺたんと座りだした。コウガはその内に回りを観察する。

 見たところ、吹き飛んでいった男もそうだが、他の男性プレイヤーも皆、若干人相が悪い。そして、似たような装備もしていた。

 上は腹筋と二の腕から指先まで見えるように出来ており、露出が高めで鉄などの金属がない。おそらくこれは衣類タイプ。

 下の下半身全体を覆い隠すようなこちらも、衣類タイプみたいだ。

 色はこげた茶色と赤が基調。彼らの装備は、防御よりも動きを重視する者が好む、クロース式かもしれない。

 それから、腰に提げているのは短剣――少し歪な形が特徴的である。さしずめ『クリス』の類といったところか。となれば、この連中のほとんどが何の職であるかが予想できる。

 把握した後、次は座り込んでいる女性に目を向けた。その瞬間、コウガは息を呑む。

 目の前にいるのは、大人の女性と言い切るには少し幼さを感じる容姿で赤い髪をした美少女だ。……あまりこれといって、女の人との良い縁がないコウガからしてみれば、素直に可愛いと思えてしまうほど。

 いや、可愛いというよりかは綺麗と賞する方が合っているか。……とはいえ、容姿だけで騙されてはいけないと、コウガは頭を振る。このリベラルウェイ・オンラインで自分が操作するキャラクターというものは、自由自在に作成することが出来るのだから。

 ……それにしたって、彼女のこのきめ細かい肌と切り長で薄緑な瞳、この整った顔立ちには目を奪われる。メイキングが上手なのだろうか。本人が女性ならば、考えられなくもない。

(いやいやいや、別にそういうわけで出て来たんじゃねえぞ!)

 が、今はそんな場合ではない。コウガは、赤髪の少女から一旦目を背き、自分が殴り飛ばした男の方向を確認する。

 大男が吹き飛んでいった先に土煙が昇っていた。激しく転がり、そのままの勢いで大木にぶつかった為だろう。今も木が揺れているのが見えた。 

 ――派手にいったものだが、このゲームでの素手で行う攻撃や防御というのはあまりキャラクター自体に影響を与えない。ただ、勢いよく殴れば、現実さながらに吹き飛ぶし、ステータスに寄ってその演出の強さは変わっていく。

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