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コウガが騎士の攻撃を防いでいる写真を見せた。オーナーはグラスを磨きながらふむふむと眺める。
おそらく、あの騎士の筋力は見る限りはコウガより上だったはずだ。そんな相手が行った力任せの連続攻撃をコウガはいとも簡単に防いでみせた。しかし、いくら防げてもあんな平凡な剣じゃパワーに耐えられないのではないか? それでも、傷一つ付かないとは。……レイラは浮かんだ疑問の数々をオーナーに投げかけた。
「あー、それはジャストガードね。相手の攻撃に合わせて防御を重ねる事によって出来る防御法。これを成功させると、どんなにパワーがあってもダメージは最小に抑えられるし、武器への負担もなくなるの。それに、成功させた者を常に有利な状況にしてくれる戦闘技術なのよ」
「そんな技があるなんて……無敵じゃないか」
「そうとも限らないわ。なんせ、ジャストガードなんて狙って出来るものじゃないわ。相手の動きが単調過ぎるか、魔法で防御面を補うとかすれば多少は可能よ。まあ、中には防御タイミングが"見える"ってのがあるけど、それは別世界の話ね」
グラスに飲み物を注ぎながら答えるオーナーに対して、レイラは首を傾げた。
「タイミングが見える……?」
「稀にいるらしいのよ。相手が攻撃する瞬間、どのタイミングで合わせればいいかってね。見え方は人それぞれらしいんだけど、わたしもそこまでは知らないわ」
「へえ。……あ、あと一ついいかい? コウガの武器についてなんだ。変型剣って一体なんだい?」
「そうね、あれは所謂『忘れられた剣』ってところかしら? あれは、ただの剣士でも、双剣と両剣という二つの派生職じゃなきゃ扱えない武器を一本で扱う事が出来る代物なのよ。でも、扱いの難しさが異常に高くて、今じゃ使ってる人は極僅かかしら。使ってる者が少ない故、プレイヤー内じゃそう呼ばれているわ」
「……そんな武器をあいつは。ははっ、やっぱり、あいつはすごいプレイヤーだ」
「他に何かあるかしら? それか、お互いのあらゆる情報を交・換、してみなーい?」
「え、遠慮しとくよ……。まあ、聞きたい事はほとんど聞いたから大丈夫だね。ありがとう」
少し引きながらも、しっかりお礼をするとオーナーも笑顔で返してくれた。腰のくねりが不気味だが、決して悪い人ではないというのはわかった。
あとはコウガを待つだけだと、出して貰った一杯の水を口にした瞬間、出入り口である木製のドアが大きな音をたてて開け放たれる。賑わっていた空間に静寂が訪れた。
「……ちっ、くそったれしかいないなここは」
開けて入るなり、誰に向けてなのかもわからない暴言を吐き捨てる男。後に続いて来た二人はその者の連れか何かか、その男の左右に付いた。
言動と見る限り態度が悪そうな一人の男は、下町の酒場じゃ合わないような綺麗な礼服を着ており、豪華な装飾が施されたマントを羽織っている。これらは、国家内でも上位にいる者でしか装備できないもの。
何故、そのようなプレイヤーがこんな所に来るのだろうか。色々と疑ったが、それよりもその男についてだ。
レイラはこの男を知っている。忘れられるのなら忘れたい存在だ。人違いであって欲しかったが、彼の変わらない姿を目にするだけで忌まわしい過去が思い出され、本人だと確信させる。
表情は一気に青ざめた。
「あ、あんたは……」
口から出る言葉はとても弱弱しかったが、静まっている空間では十分に聞こえるほどだった。
その声に反応したのか、男はこちらを見て不敵な笑みを浮かべ、近付いてくる。
しかし、酒場にいた客達が男の前に立ち塞がった。
「ちょっと待ちな。ドア壊したままにする気かい? あんた」
「壊れてたの間違いじゃないのか? それに、この俺を誰だと思っている。口は慎しめ。邪魔だ退け、屑プレイヤー共」
「何と言われようが構わねえが、店を荒らすようなら帰りな。あんたが上層部の誰だろうが、ここでのルールは守って貰わなきゃ――」
客の1人が言い終えるよりも先に、左右にいた二人のプレイヤーが武器を振り、吹き飛ばした。
見た目ほど脆いわけでもないが、勢いよく飛ばされた一人は壁を突き破る。他の数人ものプレイヤーはテーブルや他の客をも巻き込みながら飛んでいった。オーナーは慌てて、客達のところへ走っていった。
男はというと、その光景を見ながら厭らしく笑っている。
……こいつは何も変わっちゃいない。レイラは思い切り手を握った。
男の笑う姿がとても不快で、今すぐにでも殴り飛ばしたい。だけど、あの時の事が体を硬直させる。
「ひひっ、やーっと見つけた。レイラちゃーん」
男は気味の悪い笑い声を発しながら、レイラに近付く。すっと伸ばしてきた手は顎から頬へと触れる。舐め回すかのように全身を見る視線はゾッとさせるものがあった。
ギルドの仲間たちがレイラと男を引き離そうとするが、すぐさま二人の付き人によって床に叩き伏せられてしまう。
「あ、あたしの仲間に手を出すな!」
「んー? この俺に指図するのか? それに、その握った拳をどうする気なんだー? また同じ事をしようってのか、あー?」
「くっ……」
「出来ないよなー。さすがに2度も繰り返せば、今度こそお終いだもんな。……ああ? あの件のこと、周りの屑共は知らないよな? いっそ、教えてやってもいいかもな?」
「や、やめろ!」
「どうしようかねー? タブー中のタブーだしな? やめて欲しいなら、謝罪以上のことをしてもらわないとな。じゃなきゃ――」
男の言葉は最後まで続くことはなかった。
突如として二人の間に割って入ってきた一つの拳が、男の顔面を捕らえていたのだ。男は悲鳴のような声を出しながら、数メートル吹き飛んでいく。
「――じゃなきゃ、一体何をするってんだ? この野郎」
突然現れて、男を殴り飛ばしたそいつは、肩よりも下に伸びている赤茶色の髪を揺らし、黒いマフラーのような装飾品をなびかせていた。……前にも似たような登場をしていたのを思い出し、思わずそいつの名前を口にする。
「コウガ……!」
◇
来て見れば、何て様だろうか。
そこら中には顔見知りであるプレイヤー達が倒れてたり、テーブルや壁などは破損。おまけにレイラは変な男の成すがままになりそうだった。
話は途中からしか聞いていないが、店の状態とレイラの今にも泣きそうな表情を見て腹が立った。
だから、とりあえず殴り飛ばしたといった感じ。パッと見、上位の者らしかったが、そんな事はどうでもいい。
肩を鳴らしながら吹き飛ばした方向を見ると、男は立ち上がっていた。
「て、てめえ! この俺に何しやがる!? 俺が誰だかわかってんのか!?」
「あ? お前がどこの誰だろうが知るかよ。店をこんなんにした挙句に、俺の雇い主に手を出そうとしたんだ。覚悟は出来てんだろうな?」
一歩踏み出すと、空間全体が少し震え、辺りにあるグラスや壁にはひびが入る。……気付かない内にスキルを発動させてしまっていた。
しかし、そんな事も気にせず男に近付いていく。男を睨む目は獲物を射殺すように鋭く、冷たい。
「お、お前達、何をしている! 俺を守れ!」
男は二人の付き人に怒鳴るが、一向に動く気配はない。
「ああ、そいつらなら当分は動けないと思うぜ?」
「なっ、威嚇スキルか!? そんな、あり得ん。こいつらがこんな所にいる屑プレイヤーごときのスキルが通用するはずが……!」
「ここはお前のような奴が来るような所じゃねえよ。……とっとと失せて、二度と俺らの前に現れないってんなら、今回は見逃してやる。それとも、ここで死ぬか?」
「ひっ!」
剣に手を掛け、もう一度睨みつけると男は恐怖で顔を歪ませると一目散に逃げていった。
スキルを解くと、二人のプレイヤーもそそくさとその場から出て行く。……何とかこれ以上店を傷つけまいとした行為だが、むしろ呆気無さ過ぎで逆にため息が出た。
「……大丈夫か?」
気持ちを落ち着かせた後、レイラに声をかけるのだが、さっきから俯いたままだ。
「……ごめん、みんな。あたしのせいで……」
「まあ、そんなに気にする事もねえって」
「いや! あたしがいけないんだ!」
急に怒鳴り上げるなり、はっと我に返ると、ばつが悪いような顔になる。
「ごめん。ちょっと一人にさせてくれないかい……」
「あ、おい、待てよ」
コウガの呼びかけも無視し、レイラは移動用アイテムを使ってどこかへワープしてしまった。
「……ったく、どこに行きやがった」
「お嬢のことだから、たぶんあそこかもしれねえ……」
レイラの仲間の一人がつぶやく。
「どこだ、そいつは?」
「でも、あそこは……いや、あんたになら、教えても良いかもしれないな。お嬢の事を頼めるのもあんたぐらいしかいねえ」
「何だっていい。教えろ」
仲間にレイラが向かったであろう場所を聞くと、すぐにコウガも移動用アイテムを使いワープした。
コウガが飛んだ場所は、フォルトレシアにある、平穏と尊重の町《ルベリン》と呼ばれる小さな町だ。
回りには、和をイメージしたような木製の家が多くあり、小さい庭園などもあったり、町というよりは村に近い雰囲気があった。
「ここにいるってのか……」
歩いて回っていると、広場のような場所に着いた。
そこの中心には一際大きい木が1本だけある。根元付近には遊んでいる子供が数人と、奥に1人プレイヤーが座っていた。
木の影でシルエットとなっていたが、近付いてみるとその姿ははっきりと見え始める。
炎のように揺らぐ赤い髪の毛、少し露出の多い防具の間から見えるきめ細かい肌。ここ最近ずっと見てきた容姿だ。
(……いたいた)
コウガは、一人ぽつんと座っているレイラの寂しげな背中を見て、少し悪戯したくなった。
そっと近付くと、耳にふっと息を吹きかける。
「ひゃうっ!? な、なな、なんだいなんだい!?」
驚いた猫のようにびくんと体を跳ねさせると、慌てて辺りを見渡す。そんな動きを見て、コウガは思わず笑い出した。
「こ、コウガ!? あ、あんた、なんでここがわかって、えぇ!?」
「ははは、まあ、あれだ。あいつらがここなんじゃないかって教えてくれたんだ。それにしても今の動き……くくく」
「あいつら、余計な真似して……って、あんたも笑い過ぎだよ! まったく」
さっきまで寂しそうな感じだったレイラは、頬を真っ赤にするが、すぐに落ち着いたのか微笑を浮かべて遠くを見る。
葉っぱが微かに揺れるほどの風が頬を撫でる。とても心地がいい。つい和んでしまいそうだ。
「いいな、ここ」
「うん。ここはあたしのお気に入りなんだ」
「……これは勝手な予想だが、さっきの輩はお前がPvPイベントで勝たなくちゃいけない理由と何か関係があったりするのか?」
「……ごめん、まだ言えない」
「そっか」
「少し、時間をくれないかい? そしたら、たぶん……」
「おう、なら丁度いいな。――ほらよ」
先ほど鍛冶師から受け取っていた、巻物のようなアイテムをレイラに手渡す。
きょとんとした顔でそのアイテムを見つめるレイラの頭をぽんぽんと撫でた。
「そいつは、プレイヤーの意思やら何やらをスキルへと変えてくれる、超レアものだ。お前に教える部分はほとんど教えたし、1週間ぐらい空けてやるから、どうするかは自分で決めな」
「え、え、ちょっと! そんなもの受け取れるわけ――」
「いいんだよ。遠慮すんな。俺がそうしたいからそうしてるだけなんだからな。じゃあ俺はこれで……」
「あ、待って!」
立ち去ろうとすると、服の裾を掴まれた。
「あ、えっとその、そういえばまだフレンド登録をしていなかったなって。……どこにいるか、わからなくなっちゃうし」
「……そうだな、しておくか」
「う、うん……」
お互いにウィンドウを開き、フレンド登録し合う。これにより、互いの場所などが把握できるようになる。
登録を完了させた後、コウガとレイラは待ち合わせる時間と場所を決め、各自解散した。
あれから数日が経ち……。
下町の酒場(多少復旧した)で何もすることなくただ座っているコウガ。
「っと、これからどうするかな」
「た、大変ですよー! コウガくーん!」
そんなところに、ラヴィが珍しく慌てた様子でカウンターまで走って来た。
「どうした? そんな慌てて」
「こ、コウガ君、イベント用の掲示板見ました?」
「いや、全然」
「今日、『世界樹のための聖戦』でフォルトレシアが相手をする国家が決まったんですよ!」
「……それで、どこと当たったんだ?」
「プラネティスです! ラグナ君が所属している、あの、ですよ! どうしましょう! コウガ君」
「……しくった。確かにそれは大変だぞ、ちくしょう」
今更ながら対戦国家のことを考えていなかっただけ、非常に困る事となって頭を抑えるコウガ。
――それぞれの国家によって、戦力での差というのはさほど変わらないものではある。だが、得意不得意は存在するもので、今回PvPイベントのような攻城戦のような戦いは、四つの国家の内、プラネティスが主に功績を残せているのだ。
しかし、その部分はまだ何とかなるものだが……プラネティスが対戦ってことになると、問題は……。
「俺はどっちに付けばいいんだ?」




