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第九話 修行風景

 冬になった。

 ちゃんとあるんだな冬。なければよかったのに。

 この世界にも雪が降る。雪は降るのにコタツは無い。

 私はどこで丸くなればいいのだろう。


「こんなもんわかるかぁっ!!ボケェ!!!!」

「じゃから今教えとるんじゃろうが!!!このバカ弟子が!!!!」


 今では身体も心もすっかり回復し、爪も綺麗に生えそろった。


「私のわかる言葉で説明しろぉぉぉ!!!」

「今喋っとるのは何語じゃぁっ!!!!」


 というわけでいよいよ魔法の修行が始まったのだが、これが全然上手くいかない。


「日本語だっつってんだろぉが!!ボケてんのか!!この糖尿病!!総入れ歯!!!!」

「ぐぅぬ……言わせておけばこのクソ弟子……!!最初の大人しい態度はなんだったんじゃ、甘く見ておれば調子に乗りおって!!!・・・雷光閃(ライトニングボルト)!!」

「ぎゃあああああああ!!!!!!」


 今の師匠のように呪文を一言唱えれば火でも何でも出てくるのかと思ってたのだが、そうではないらしい。

身体に流れる魔力をどうたら言われてもちんぷんかんぷんだ。


「もぉぉぉぉやめだ!!!やってられるか!!」

「あ、コラ待て!!どこへ行く!!というかなんで動けるんじゃ!?おのれ耐性がついてきおったな!!」


 足腰弱ったじーさんに追いつかれる私ではない。

 まだビリビリする。あのくそじじー、なにがライトニングボルトだよ。獅子座の闘士なら頭から床に落ちてるところだ。おかげで頭が戦車の暗示のフランス人みたいになってるじゃないか。どーしてくれるんだ。


 森の中を適当に歩く。さて、どこへ行こうか。

弟子入りして数ヶ月、こういうことも1度や2度目じゃない。遠くまでいかなければ森の中でも迷うこともなくなった。

積もった雪をざくざく踏みながら考える。寒いのはニガテなので早く決めよう。

しばらくは帰らないつもりだが、日が暮れるまでにはさすがに帰らなければいけないだろう。


 そういえば昼食(ランチ)がまだだった。思い切って街まで出てみるか。

 ローブのポケットから小さな袋(サイフ)を出す。先週師匠の仕事を手伝ったらずいぶんと駄賃を弾んでくれたのだ。大分使ってしまったが……。

 ……えーと、ひぃふぅ、銀貨が8に大銅貨が16。まだまだ残っているな。

売ってるものの価値観が違うので日本の物価とは比べにくいが、円でいうと銅貨一枚でだいたい十円くらいで、大銅貨、銀貨、金貨、純金貨と10倍づつ価値が上がっていく。

そのとおりに計算すれば9600円。外食するには十分すぎる。

いろいろ言って出てきたし、師匠にはお土産でも買って帰って許してもらうとしよう。



 師匠の家は森の中だが、街道に出れば街はほど近い。

 青の国の東に位置するこの街は、それほど大きくはないが温かい街である。師匠とともに私も何度か訪れているので、すでに顔を覚えてくれた人もいる。

 師匠がよく行く酒場のマスターがその一人だ。

 私が酒場に行くとよくかわいがってくれる。

 そう、重大な事実を発表するが、私はかわいいのである。

 かわいいは武器!


「よう嬢ちゃん。…すごい髪型だな。今日はお師匠さんは一緒じゃないのかぃ?」

「こんにちは。じつは私、破門にされちゃったんです」

「ええぇえ!?早すぎるだろ!何があったんだ?」

「・・・わ、わたし・・・才能・・ないから・・えぐっえぐっ」(棒)

「そんなことねぇさ!! 前に井戸の給水魔導器(ポンプ)直してもらったときだって嬢ちゃんがんばってたじゃねぇか。きっとメイスさんもわかってくれてるって!!」

「あ、ありがとうございます。・・そういうわけなんで、なんとか機嫌をとって謝って許してもらおうと思って来たんです。いいお酒ありませんか?」

「あぁ、そういうことなら、・・・コイツを持っていきな。メイスさん好きなんだよ。なぁに金はいらねぇ」

「ぅえぇっ!?」

 マジかこの親父!?

「さ、さすがにそういうわけには。お金はあるんです」

「いいってことよ。困ったときはお互い様だ。そんで許してもらえなきゃまた来な。うちの酒場で手伝いしてくれりゃいいからよ」

「アンタ!!こんな小さい子に何させようとしてんだぃ!!」

「ちょ、カァちゃん。オレはこの子のことを思ってぃてててててて!!!」


 途中から乱入した奥さんに会話を切られてしまい。お金を払いそびれてしまった。

・・・思わぬ収穫だな。安くしてくれるかと期待はしたが、まさかタダになるとは。我ながら、美しさが恐い。


 さて、予定より余裕が出来た。ランチは豪勢にいくとするか。

鼻歌まじりに街並みを歩くと通りに露店がいくつかあり、そのうちのひとつが飴細工を売っていた。あとで買いに来よう。


 食堂(レストラン)は街に2つ。値段が高い方と安い方がある。

師匠と来たときは決まって安い方だが、今日の私はセレブで行きたい。


「いらっしゃいまー・・・・」


 からんからんと扉を開けて入ってきた私を見て、給仕のお姉さんが眉を捻る。


 ……なんだ?ひょっとしてドレスコードとかがあるのだろうか?そんなレベルの高級レストランだったのか?このポル○レフみたいな頭が問題ならすぐに直します。櫛と熱風魔道具(ドライヤー)を貸してください。


「お父さんかお母さんと一緒に来てねー」

 ・・・年齢制限だったか。

失念していた。私はいま年端も行かぬ幼女だったのだ。たしかに一人でレストランもない。

その後安い方の食堂にも行ってみたが、結果は同じだった。


………お金はあるんです! お金はあるんです!!



 広場の木によりかかって飴をぺろぺろ食べる。銅貨1枚ナリ。

 ぐぅ…とお腹が鳴った。寒さが堪えるぜ……。

 お金があっても一人じゃまともに使えないじゃないか。この姿ではお菓子くらいしか買えないとは。我ながら幼さが憎い。

 はやく大人になりたい。育ち盛りのお子様なんだ。飴じゃ腹の足しにもならないよ。


 はぁ・・・と溜め息をつく。脇に置いた酒瓶がコロンと倒れた。


 …………、

 …………そういえばお菓子以外にも、お酒が買えたんだった。いや貰ったんだけど。

 思えば長いこと呑んでいない。師匠は私に一滴の酒も飲ませてくれないのだ。

曰く、お前にはまだ早い。

・・・ごもっとも。お酒は二十歳になってから。この世界では15歳からだったか。

 しかし私は元来お酒が大好きである。それがもう何ヶ月も口にしていない。


 ……ちょっと味見してみようか?

 私の中の悪魔がそう囁く。囁くのよ。私のゴーストが。


大恩ある師匠に変な物は飲ませられないよな。この悪魔とは仲良くしていきたいと思う。

幼女がなんだ。そうと決まれば天使(だれか)が来る前に栓を抜いてしまおう。心の悪魔と握手を交わし、その手を瓶にかけた。


 ぽんっ、小気味良い音とともに抜けたコルクを追って芳醇なピートの香りが・・・、

 ・・・・これアイラか?


 なんということだ。異世界に来て数ヶ月。まさか地球帰還を待たずして見慣れたお酒にありつけるとは。

くぴり、と一口やってみる。


・・・喉を焼きながら落ちていくそれの香りが鼻を抜けていった。

・・・・・キツっっ


 もう一口呑む。さすがにすきっ腹にストレートはちょっとキツいが、ひさしぶりの感覚だ。目から脳汁が出おるわ。

 もう一口。もう一口。こんなうまいもの私には呑ませずひトりでタノしんでいタノダあのジジー!

 ゆル すまじ っ!  !    

        !

     !





「……………っぺくし!」

 うお、おぅ・・あ・・・あたまいたっっっ・・・!

「目が覚めたか、このバカ弟子が……もう夜じゃぞ」


 目が覚めると横に師匠がいた。

 記憶がない・・あ、頭が、割れるようだ・・・!!

「お前は街の広場で酒を呑んで倒れていたのだ」

半分も呑みおって・・・と呟きながら水をくれる師匠。あぁ・・ありがとうございます。


 周りを見ると、私がいるのは自分の部屋のベッドの上だった。

 どうやら私は調子に乗って潰れてしまい、家まで運ばれたようだ。

 そんなに弱いつもりはなかったが、この身体になってアルコールの耐性が無くなってしまっていたようだ。やはりお酒は十五歳になってからということか。


「酒場の者から聞いたぞ。まったく・・ワシに謝るための酒を自分で呑んでどうする」

 マスターと奥さんが師匠を呼んでくれたのか。タダでお酒をくれたことと言い、今度お礼をしないと。


「腹が減っているだろう。スープを温めるから今日はもうそのまま休みなさい。明日は今日の分もみっちり教えてやるから覚悟するように」

 うぅ・・・頭痛い。

 わかったから大きな声を出さないで欲しいです。


「ししょう・・・ふつかよいをなおすまほうをおしえてください・・」

「そんなもんあったらワシが教えて欲しいわ!!」


 あぁぁあぁ頭に響くうぅぅうぅ・・・

 ごめんなさい。明日はちゃんと鍛錬します。



「できるわけないのんじゃぁぁ!!!やってられるかぁぁぁ!!!!」

「始めたばかりで諦めるでない!!!!忍耐を覚えろ!!!集中せい!!!」


 今日も今日とて魔術の鍛錬である。

 最近では魔力の扱いも慣れてきて、我ながら上達したものだと自分で自分を褒めてあげたい。


「ハーゲ!!ハーゲ!!肝硬変!!!」

「こ・・の、もう勘弁ならん!!!・・・・召雷(サンダーボルト)!!!!」

「ぎゃあああああ!!!!!」


 私なりにがんばってはいるのだが、あいかわらず師匠は厳しい。

こう毎日毎日鍛錬ばかりだと息がつまる。たまには息抜きも必要だと思う。


「だっっっしゅつ!!!!!」

「待てコラ!!これももう効かんのか!!抗魔術ばかり覚えおってこのバカ弟子がぁ!!!」


 なにがサンダーボルトだよ。カードゲームなら即墓地行きだ。コントだったらアフロになるほどの電流を流しやがって。

 サイフを確認する。

 ひぃ…ふぅ…、・・・バカな、大銅貨3枚だと?

 円でいうと三百円足らず。


「師匠、お金がない」

「お前はどのツラ下げて・・・、そうやって何度も逃げるたびに無駄遣いしておるからじゃ。反省せい!」

「お小遣い頂戴!!」きゃぴるん☆

「・・・・・また雷をくれてやろうか?」


 そろそろお前にもワシの秘奥の雷魔術を見せてやろうかのぅ。などとのたまう師匠。こわやこわや。

 ちぇ、次の収入まで我慢するしかないか。私はお酒も好きだが無駄遣いも大好きである。

そのためならば仕事もする。仕事と給料をください。給料だけでもいいです。


「お前のそういうところは、ワシが矯正してやらんととんでもないダメ人間になりそうじゃのぅ・・・」

 いやぁ、それほどでも?

 とりあえずお金もないし、外は寒いし、今日のところは真面目に勉強するか。


「師匠、お金を作る魔道具の作り方を教えてください」

「犯罪じゃっ!!!!」





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