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第八話 説明回

 弟子入りしてから1年がたった。

 私の身体は6才になったことになる。

 あれから師匠に色々なことを習った。


 これからいろいろ教えるにあたって、まず一人称を矯正された。

 礼儀作法は大事だと教えられるが、いまのところ男口調は直ってない。



 まずこの世界のことを教えられた。

 ここは青の国の東の大森林で、首都からは真東に位置している。

 首都は青の国の中央にあり、そこから東西南北に4つの街がある。東の街はここから近所だ。

 この大陸は南北の二つの国で分かれていて、青の国は大陸の南側。北側には赤の国がある。

 中央大陸は広い。西側に青と赤の国、東側は小さな国々が散見するらしいが、東西を分けるように巨大な山脈があるため、東側とは国交が無い。山脈には大型で危険な魔物が棲んでいるらしく、たまに人里まで降りてきては街の冒険者ギルドに討伐依頼が出される。

 一方、中央大陸から西の海を越えてほど近い島には白の国がある。

 この三つの国は古くから国交が盛んで、夜空の三つの月になぞらえて語られることもあるのだとか。


 地図を見ていると国境に沿って川が流れているのに気付く。

 川をあらわす線の途中に街がある。青の国の北の街。

 奴隷だったとき、エッジと脱走を計画したあの街だ。

 線を西に辿っていくと海に出る。西の街。海沿いの街も地図に載っていた。

 エッジは今もこの街にいるだろうか。いつか会いに行かねば。



 魔力に関しても教えられた。

 まず、魔法を使うには魔力が必要である。

 魔力は誰もが持っているものだが、たいていの者は魔法を扱うには至らない。

 これは才能のようなもので、魔法を使う者の子孫には魔力の高い者が多いが、必ず使えるものでもないらしい。

 貴族にその例が多のだが、魔法を使えない者の子孫でも、稀に魔力が高い者が生まれることもあるそうだ。

 また、黒い髪の者は、なぜか一切の魔力を持たない。

 黒髪は魔族と呼ばれ、奴隷になることが生まれたときに決定するらしい。

 ひどい話だ。

 滅多に無いことだが、貴族の家にも黒髪が生まれることがあるという。そういう子供はすぐに捨てられるか、ある程度成長するまで隠されても結局家を追い出される運命になる。

 私はというと、なぜか黒髪なのに魔力が高い。

 それはたぶん私が異世界人だからだろう。この世界の理の外から来たのだ。当然と言えば当然である。

 とりあえず、このままでは困るので魔術で金髪にされた。

 スーパーサ○ヤ人の真似をしておいた。

 師匠は微妙な顔でそれを見ていた。



 そして肝心の魔術。

 魔術に関しては特に念入りに叩き込まれた。

 当然のことだが、私は生まれてこのかた魔法も魔術も使ったことは無い。

 魔力を使って魔法を作る、その為の術を魔術というのだそうだ。

 まぁ大した違いはない。

 初めて小さな火の玉を出せたときは、かなりうれしかった。

 森を燃やすつもりかと師匠に殴られが、いまではたいていの下級魔術は自在に使えるようにまで上達した。


 よく練った魔力に、詠唱によって形を持たせる。

 魔力を練るという表現には最初首を傾げたが、思いのほか上手くいった。

 ようは集中とイメージだ。体中に流れる血液を手に集めて大きくしていく感じ。感覚の話なのでうまく説明できないが、コツさえつかめば上達はすぐだ。

 魔力は目には見えないが、魔術の鍛錬によって、しだいに感覚で魔力を捉えることができるようになっていった。

 また、当然大きな魔術には相応の魔力が必要になる。師匠は雷を生んだり嵐を起こしたり出来るらしいが、そのためには効率よく魔力を練る技術が必要だ。

 いまの私で同じことをしようと思ったら、魔力切れで貧血に似た症状になり、最悪死ぬだろう。


 一方詠唱というのはいろいろだ。別に言葉にする必要は必ずしもないらしい。

 師匠は口で呪文を唱えるオーソドックスなものだが、地面や紙に記号を組み合わせた魔方の式を描いて魔力を通してもいいし、手で印を組んでもいい。変わったところだと特別な衣装で踊るというようなものもあるそうだ。

 手で印を組めば口が塞がれていても魔術が使えるが、文字を並べて口で言えばいいならその方が簡単だ。

 紙に書いておけば咄嗟の時にもすぐ使えるので便利だが、頼りすぎると弾切れを起こす。

 ようは自分がやりやすい方法でいいのだそうだ。

 私も師匠に習って呪文を唱えるやり方だが、魔方式の描き方も習った。


 そして詠唱で魔法に持たせる形。

 これがまぁだいたい魔法の全てといってもいい。属性、威力、効果、様々なものを詠唱の組み合わせで決定し、魔法を完成させ、手から放つ。尻から出なくてよかった。

 主な属性は火、水、風、土。覚えやすくていい。

 が、これはあくまで基本の属性で、上級魔術師ならば2つ以上の属性を混ぜるものだと教えられた。

 師匠はどの属性も使えるが、特に得意なのは火と風。

 火と風を混ぜると雷の属性になる。いつも私におしおきするアレだ。

 私も基本の4属性はすべて使えるように教えられたが、師匠の魔術をよく見ているせいか、やはり火と風がイメージしやすい。


 まぁ詠唱については座学である。覚えればいいだけのことなのだ。

 だがそれだけのことでまずつまづいた。

 文字が読めないのだ。



 それまで気にもしていなかったが、異世界に来てから自分は何語を話しているのだろう?

 もちろん日本語である。

 英語の成績は赤点だった。

 ではこの世界の人たちは何語を喋っているのだろう。

 私には日本語に聞こえる。

 なので何の疑問も不自由も無かった。


 しかし師匠がよこした教本には私が見たこともないような文字がびっしり書かれていた。

 こんなもん読めるかと早々に諦めたものだったが、師匠は根気よく私に文字を教えてくれたものだ。


 この世界の識字率はけっこう高い。

 製紙印刷の技術があるからだ。書物というものの相場が低く。日本ほどではないが、一般市民が手にしやすい。

 何度か街に出たときに、印刷所のような所があったので覗いて見たら、ものすごい魔導器ががっしょんがっしょん動いて次々と紙に文字を写していた。

 私としては紙が安価なのが助かる。トイレとかで。

 そうそう、魔道具のことも習った。



 魔法を込める物は、別になんでもいい。

 単純に物が大きければ、それだけ多くの魔力を込めることができる。

 純度の高い貴金属や、透明度の高い宝石なら複雑な魔法式を付与しやすいが、当然そういった素材は高価だ。


 最初はその辺の石ころで練習した。

 要は紙に魔法式を描いて詠唱を行うやり方の応用だ。

 ただし石に直接インクで描くのではない。

 魔力を練る要領で、魔力自体をインクの代わりにして石に描き込むのだ。

 機械で言えば、魔力自体が回路であり、バッテリーでもあるわけである。

 これがとんでもなく難しい。

 かなりの集中力が必要で、特に魔力を定着させる工程でどうしても魔力が霧散してしまう。

 やってられるかと投げ出したものだが、師匠は根気よく教えてくれた。

 初めて石にハゲと描けた時はとてもうれしかった。

 もちろんそれを見た師匠に殴られたが。


 それでも練習を重ね魔力を巧く石に定着できても、そこから先がまた難しい。

 小さな火や風を出すくらいなら単純な記号で済むのでまだいいのだが、可視光を遮断するだとか、あるいは特定のパターンの音を出すだとかいう魔法になると、魔法式が複雑になって更に集中力が必要になる。

 あまり複雑で大きくなりすぎると、小さな石には描き切れないようになってくる。

 まぁただ光るような魔法を付けてビンにでも入れれば照明にはなるから、小石程度で十分だ。

 小さな魔道具をいくつも組み合わせて便利な道具を作ることもできる。

 熱を出す魔道具に風を起こす魔道具を組み合わせれば暖房になる。といった具合だ。

 一般には大掛かりなものや複雑なものは魔導器と呼ばれる。この世界の機械であり、この世界の文明レベルを底上げするのに一役買っているというわけだ。


 そういえばサイもこんなものを持ってたな、あの女にもいつか会いにいかなければ。今の私には復讐を行うだけの力もある。

 魔族は魔力を持たないが、魔道具には魔力が内蔵されているので、魔族でも一応使うことは出来る。最低限の力しか出ないが。

 物によっては内蔵された魔力では足りない魔法が付与されたものがある。その場合は魔族どころか、魔法を使えない人では扱うことは出来ない。

 当然だが魔道具となった石は内包した魔力が切れればただの石ころだ。そうなると魔道師が修理に呼ばれることになるが、完全に魔力が切れる前なら、普通の人でも魔力を補充出来る。というか使いながら補充しているようなもので、魔力切れを起こすのは魔族だけだ。



 こんな調子で、毎日さまざまなことを師匠に教えられた。

 いまではすっかりこの世界の住人である。

 思えばこの世界に来てから落ち着いてる暇が全然なかった。

 急転直下で奴隷幼女だったし。

 そういえば地球帰還の方法についても、それとなく聞いておいたんだった。



 まず、私の身体を元に戻す方法について。


 人間の身体を大掛かりに作り変える魔術は、師匠も聞いたこともないそうだ。

 若さを求める老人は多い。また、性別を変える魔術。欠損した四肢を再生する魔術。頭髪を生やす魔術。あるいは単純に身体能力を上げる魔術。この世界にも叶えることの出来ない人の夢は多々ある。

 髪を染めるくらいは簡単なのに。


 治癒魔術の分野であろうというのが師匠の見解。

 だが治癒魔術で出来ることは少ない。


 この世界の医者というのは治癒魔術専門の魔術師のことを言う。だがこの世界の治癒魔術は、とても陳腐と言わざるを得ない。

 傷を塞いでとりあえずの止血をしたり、少々の病を治したりする程度のものだ。私の怪我も、ほとんどが自然治癒任せだった。特に背中の傷跡はもう消えることはないと言われた。


 地球で医術と言えば、古くから薬学が研究され、人体構造の解析が進むと施術で患部を切り離す技術も発達していった。

 なのにこの世界には、そういう技術はほとんどない。

 人体にメスを入れる行為を治療とは言わない。文化体系が全然違うのだ。

 怪我をすれば治癒魔術をかけ、病気になれば治癒魔術をかける。

 あとはせいぜい魔法が使えない人が使う薬草や、魔物をやり過ごす手段のひとつとして使われる毒物程度の薬学だけだ。

 サイも煙薬なるものを使っていたな。またサイのことを思い出した。出てくるなよ腹が立つ。


 魔術があるから医療技術が発達しなかったのはいい。

 問題は魔術で行う医療に、けして高いといえない限界があることだ。

 おそらく、魔術を扱うことの出来る人間が少ないことが理由だと思う。医者が圧倒的に不足しているのだ。

 ことここにいたって、人体に働きかける魔術は発展途上である。



 次に、地球に帰還する方法について。


 召喚魔術というのは大昔に存在していたものだという。

 危険な魔術として封印されたらしい。


 何千年もの昔、この世界の人間は、魔法で出来ないことはなかったという。

 全ての人が魔法を使え、それこそ飢えも苦しみも無い楽園だった世界。

 異世界から生き物を召喚する魔術で呼び出されたのが魔物だ。


 それは粘土のような物体だった。と言われている。

 その粘土は、周りのものを見境なく食べた。

 人も、家畜も、家も森も、何でもだ。

 そして食べたものの姿を模しながら、次々と形を変えていった。

 人にも鳥にも木にも石にも姿を変えるそれを、人間はとうとう捕らえることが出来ず、たくさんの人や家畜が死んだという。


 そしてその頃から、それは世界中に現れだした。

 トカゲの鱗を持つ狼。

 鳥の翼をもつ魚。

 花を咲かせ実を付ける山羊。

 体が水で出来たカエル。

 人の形をした動きだす岩。等々。

 この世界のあらゆるものを混ぜたような、新種の生き物があちこちで発見されだしたのだ。

 そしてそれは、人を襲った。

 人だけではなく何でも食べたが、人を見ると何よりもまず襲い掛かるのだ。

 長い年月をかけて人はこれを駆逐し、いまでは人里に現れることは滅多に無いが、

 魔物というのは、そうして生まれたらしい。


 かくして召喚魔術は危険視され、その知識は永遠に葬られた。

 では私は誰にどうやって召喚されたのか。

 謎が増えただけだった。



 やはりあの剣が必要だな。

 いまは何処にあるのか。サイを探し出して捕まえて、ぼこぼこにして、泣いて謝らせて、何処で誰に売ったのか聞き出し、それを辿っていくしかないだろう。

 でも願い事はひとつだけだし、どちらか片方の問題を別の手段で解決できればいいのだが。


 最後に、剣のことも、一応師匠に聞いてみた。

 願いを叶える剣というのも存在するらしい。



 それは魔王が作った魔導器だと言われた。



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