第六十六話 氷と怠惰のユニコーン
本当は、
本当は私は、蒼の称号が欲しかった。
本当の本当は、お爺様の教えの下、蒼雷になりたかった。
だから私は本当は、白雪になんてなりたくなかったのだ。
とても煩わしいことだ。
人に期待され、位に当てはめられて責任を負わされることは。
私は好きなことだけをしていたい。
それはお爺様の後を追うこと。
想像するだに、素敵なことだ。
なによりも偉大な祖父に魔術を教わる。
退屈なことなんて、なんにもなくて、
私は毎日、好きなことだけをして、暮らしていける。
あぁ、それにくらべて今の私は、
なんと不自由な暮らしなのだろうか。
お前こそ、白雪に相応しい。
魔法士たちを導き、白の国の発展を。
世界のために、その身を尽くし、
成果を出して。
結果を出して。
面倒臭い。
あぁ、面倒臭い。
私が何をしたというのだ。
求められるまま、成果を出したじゃないか。
結果も出したじゃないか。
なのに、
気付けば私は、白の称号を与えられ、
好きなことも出来ず、面倒臭い日々。
白雪と呼ばれるたびに私は、
もう、お爺様のところへは行けないのだと、思い知る。
はぁ、けれどそれは、もういい。
お爺様には、すでに弟子がいた。
幼い少女だが、優秀な魔道師だ。
魔法式と属性力の理解が深く、魔道具の作成は天才的。
さすがはお爺様の弟子だ。
羨ましいと思ったけど、
お爺様は、すでにこの世には居ない。
だから私は、諦められた。
甘んじて白を受け、国に身を捧げられた。
けれど、
けれどその女の子が、お爺様の杖を持ってきた。
この杖にはお爺様の全てがある。
この杖を読み解けば、
それはきっと、素敵なことだ。
そう思うと、もう私はやってられない。
煩わしいことは全てうっちゃって、
ただ、この杖を読み解きたい。
ゆっくり、ゆっくりと、
いつまでも、この杖を読み解いて、
好きなことだけをして、暮らすのだ。
あの子には、悪いけれど、
一緒に解読をする約束だったけれど、
あの子はきっと、すぐにもこの杖を読み解いてしまう。
そうしたら、今度こそ私は、この国の礎だ。
ただ、それだけのために生きる、面倒臭い、一生だ。
はぁ、
思えば私は、断ることが苦手なのだ。
任されれば、すぐ請け負ってしまう。
いや、断ることすら、面倒臭いのだ。
だから、そっとしておいて欲しい。
はぁ、
ふぁ~~ぁ……、
面倒臭い。面倒臭い。
私のことを、
どうか、放っておいて。
お願い だから………
●
ん
んん
うん
zzzzz
んんぁ
なんやのんな メンド臭いな
ん? わし?
わしは あんたやで?
あんたの怠惰や
しゃぁから おやすみ
なにぃな? 眠いねん
知らんやん あんたが好きにしぃな
あんたはどないしたいんな
うん?
うん
えぇんちゃう?
ほなおやすみ
ちゃうやん わしはあんたなんやて
ここおるわしは あんたのやな
サボりたいなー とか
メンド臭いなー とか
そうゆう欲で かろうじて出来とんねん
しゃぁないやん
わし死んでもうて もう体無いもん
なんも出来ひんねん
なんもせぇへんで?
なんもしたないし メンド臭い
するんやったら自分でしぃや
いや しゃぁから知らんがな
今まで出て来ぇへんかったやのぉて
わしはあんたなんやて
あんたが思てんねやろ?
メンド臭いなーとか 寝ときたいなーとか
そうゆうた いつもは思てないんかなぁ?
そらご苦労さん
しゃぁけど今はいつもとちゃうんやろ?
わしの影響でそないなってるか知らんけど
その欲望だけは あんたのもんや
しんどいなーとか なんもしたないなーとか
しゃぁからわしの力も もうあんたのもんやよ
知らんけど
それで好きにしたええやん
寝ときたいんやったら寝てたえぇし
メンド臭いことせんでもええし
わかった わかった メンド臭いな
ちょぉ待ちや んん
んん ほぉ~ん
その杖眺める以外な~んもしたないんやね
うん わかるで
わしはあんたの怠惰やからな
せやったら
なんか気に入らんもんあったら 黙らせたったえぇねん
わしの力 もうあんたのもんなんやしな
ちょちょっと 凍らしたったえぇねん
静かなるで?
それで 好きにしたえぇんちゃう?
知らんけど
あーメンド臭いメンド臭い
ほな おやすみね
●
うぅん…?
少し、夢を見ていたのかしら?
夢、だと思うのだけれど、
うん。そう出来るなら、素敵なことかもしれない。
さっきも不思議なほど、力を使えた。
夢の誰かの言う通り、全て凍らせてしまえそう。
そうね。何もかも全て凍らせてしまおうかしら?
あぁ、けれどそれも面倒臭いわね。
まぁいいわ。
考えるのも、面倒臭い。
今は一先ず眠るとしましょう。
一眠りしたら、お爺様の杖を見るの。
ゆっくりと、ゆっくりと、
飴を舐めるように、味わうのよ。
あの子に、謝らないといけないわね。
杖を独り占めして、ごめんなさい。
ショテルにも、謝らないと。
放ったらかしで、悪い師で、ごめんなさい。
お爺様にも、
もう私は、この欲望に抗うことが、出来ない。
みんなに、謝らないと。
あぁ、けれど、
今はもう、それすら面倒臭い。