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第三話 剣と魔法の世界


 野営の準備を進めるサイ。

 森で集めていたのであろう枯れ枝を適当に組んで、ライターで火を点けようとして何度か失敗する。

……ライター?


 そういえば、と考えを廻らせる。

 空はすでに真っ暗で、月が大小3つ、スコープドッグのカメラのように並んで輝いている。色もそれぞれ違う。赤と青と白。

 全天を覆う星々はとても綺麗だが、天の川がない、今の季節は昼側か? 夜でも暖かいので春か夏だと思うのだが。

 天体観測の知識なんてないが、北斗七星くらいはわかる。だが、それも見つけることは出来なかった。

 北斗七星はないが、ちらほら赤い星は見える。あれはきっと死兆星じゃない。そう思いたい。

 以上の見解から言うと、確実にここは地球ではない。

 ……まぁ腕と目が四つの熊が出てきた時点でどうかと思っていたが。

 異世界ってやつだろうか?


「……これもそろそろ替え時かねぇ」

 ライターをよく見てみると、・・・違う。ライターじゃなかった。

なんだあれ? 小さな石、としか言いようがない。

オイルライターの類かと思ったが、どこかが開いたり、仕掛けで石を()るようでもない。

電気みたいな火花がパチン、パチン、と瞬くだけだ。

ライターが内蔵燃料に火をつけるための火花としてはちょっと大きいと思う。

どういう仕組みだろう?


 うん、わからないことは素直に聞いてみよう。

「ばばー、それなに?」

 あ、間違えた。

「おねーさん、それはなんですか?」

 おねーさんは青筋を浮かべてすごい目で睨みつけてきた。ちょっとおもしろい。

「・・まぁ聞き捨てておいてやるよ」

わーいおねーさんだいすきー。

けっかんきれてしねー。

「雷の下級魔法を封じた石だよ。珍しくもないだろう? でもあたしじゃ魔力を補充できないからねぇ、次の街ででも新しいの買わないとねぇ」


 魔法という言葉が出てきた。


 どうやら確定のようだ。剣と魔法のファンタジー世界に来てしまったらしい。

石やなんかに魔法をこめて道具として使うのか。そういえばさっき魔道具なんて言葉も聞いた気がするな。

サイの言い方からして一般に普及しているのか。文明レベルは高いかもしれない。


「……そうだよ!!」

 魔法の石と格闘していたサイは、急にあの剣を取り出して、

「この剣に火でもなんでも出してもらえばいいんじゃないか!」

 なんてバカみたいなことを言い出した。

「いやいや、けちけちするこたないよ。どーんと家でもひとつ出しておくれ!!」


 …………

 そんな気はしていたが、ひょっとしてこいつ……

「おいどーしたんだい? 返事のひとつでもしたらどうなんだい」


 ・・・あぁ、間違いない。

 ・・・・・バカなんだ。


「そのけんがかなえてくれるねがいはひとつだけですよ」

もうちょっとおバカさんを眺めていてもよかったが、親切な僕はさっさと教えてやる。魔法の石のことを教えてくれたお礼だ。


「なん・・・だって・・?」

 しかしコロコロとよく変わる顔だ。さっきまで人生の絶頂みたいなアホ面をきらきら輝かせていたというのに、今度は修復されたイエスの絵もかくやという混沌とした顔になってしまった。

こちらとしては見てて飽きない。


 サイは剣が願い事を何度でも叶えてくれると思っていたらしい。

 そういえば僕は最初にそこんところを剣に確認してたっけ。

 つまりこの剣は、こちらが確認しないと、願いを叶える以外のことは何も説明してこない。

 サイはテンション上がりすぎて、いっそもうテッペン獲った気になって、そこのところを失念していたというわけだ。

 天罰が下ったのだろう。いい気味だと思う。


「はぁ・・・、とんだヌカ喜びだったねぇ。詐欺にでもあった気分だよ・・」

 サイはそれ以上何も言わず、魔法石でようやく枯れ枝に火をつけると、近くの木に僕を縛り付けて、川に水を汲みに行ってしまった。

 落胆はしているが、案外それほど気にしてないようだ。なんというか、サバサバしている。



 そんなことより剣である。

荷物と一緒に剣も置いていったが、この剣は触れていないと声が聞こえないようだ。

縛り付けられてはいるが、距離が近い。幼い身体でも伸ばせばギリギリ足が届いた。


「おい、きこえてるか?」

『願いはきまったか?』

「それなんだけど、ねがいはひとつだけだったよな?」

『そうだ 私が叶える願いはひとりに一度 さぁ願いを言え』


 やっぱりそうだ。

 この剣は願いを叶えた相手には返事もしなくなるみたいだったな。

 尻も軽いが情も薄いようだ。

 まぁ剣だしね。


「ぼくのからだをもとにもどして、もとのせかいにかえるってのは?」

『二つの願いは駄目だ 身体を戻すか 元の世界に帰るか 選ぶがいい』

「…………」


 ……ダメだ、詰んだ。


 この身体を元に戻しても、地球に帰ることが出来ない。

 たぶん、時間を戻すとかしても無駄だろう。目が覚めたらもうこの世界にいたのだ。この世界に召喚されるという結果を、僕は回避できないだろう。

 残念ながら、願いがひとつでは解決できない。


 ・・・いやひょっとしたら、ひょっとしたら方法は別にあるかもしれない。

 このまま帰っても地球で幼女から人生やりなおしだ。なので×。

 だがここは剣と魔法のファンタジー世界。この剣以外にも、なんか魔法とかで元の姿に戻れるかもしれないし、元の世界に帰ることも出来るかもしれない。

 ・・だが、出来ないかもしれない。


 この世界のことは何も分からない。だから何の保障もないのだ。

 確かなことは、ここが地球じゃないってことと、ここは怪物と遭遇(エンカウント)する危険地帯だということと、この剣の力が本物だってことだけだ。


 このたったひとつ、願い事が叶う権利は、今僕が持っている唯一の財産だ。

 そしておそらく、僕の生命線になるかもしれない。

 なんにしても、簡単には使えない。使いどころはよく考えないと。


『どうした はやく願いを決めるがいい』

「ごめん。またほりゅーで」

『……ふむ』


 ……はぁ、なんでこんなことになってんだ。

 そもそも僕はなんでこんな世界に来てんだ。

 理由が知りたい。誰か説明してくれ。


 僕がいったい何をしたというんだ。

 不用意に森の中を歩かず、願いごとで帰ればよかった。

 そんでもってあんな変なのに助けられるんじゃなかった。

 あんなバカじゃなければ、もっと別のことに願いごとを使ったかもしれない。


「あのさー、ねがいがひとつだけなこと、さいしょにゆーよーにしたほうがいーよ?」

『それが願いか?』

「いや、ただのちゅーこく」

『・・・ふむ

 ・・・・私に願い以外のことを話す者は初めてだ』

 そいつはどーも。

 どんな人に使われてきたんだ。


「いままでどれくらいのひとのねがいをかなえたんだ?」

『さっきの願いが103番目になる』

 おぉ・・、けっこう多いな。

「あ! ねがいをふやすってのはアリ?」

『無しだ』

「ですよねー」

 ちぇっ、無機物め! 

 尻軽、薄情、愛想無し!!



 とりあえず剣を持って逃げようか、と考えて首をふる。

縄を切って抜け出して、その後どうするのか。

やはり土地勘ゼロでスタンドアローンは無謀だ。それで化け物に襲われることにもなった。

第一この身体では逃げられはしないだろう。子供の足ではすぐに追いつかれる。

こんな姿に変えたのは、そんな意味もあるのだろう。


 では何故、もう用もない僕を逃がさないのか。

たぶんその辺の理由もこの姿にあるのだ。

奴隷として売られるだとか、そんなところだろう。

・・・・あまり想像したくない。


「まぁとにかく、このけんとはなれないようにしないとなー」

「それは無理な話だねぇ」



 サイが戻ってきてた。

 僕は足を伸ばして変な姿勢で剣と話していたので、首根っこ掴まれて剣と離されてしまった。

「逃げようとしても無駄さ。どうせ逃げられやしないんだ」

 言いながら剣を布で包んでカバンの中に入れる。

 剣で縄を切って逃げようとしたと思われたのだろうか。まぁ考えはしたが。

 話を全部聞かれていたわけではなさそうだ。


「次の街であんたもその剣も売っちまうんだよ。あんたは奴隷商に。剣はうまいこと売れば、ひと財産になるかもしれないねぇ」

 くそ、やっぱり奴隷か。考えたくなかったってのに。用済みになれば捨てずに売る。吐き気を催す邪悪だというのに、リサイクル趣味の奥さんみたいだな。


 この世界の奴隷の扱いはわからないが、金で売り買いされるんだし、ロクなものではないだろう。

 奴隷は知らないが、なんでも願いが叶う剣の方は売ればいくらになるのか計り知れない。一生遊んで暮らせるかもしれない。

 僕を奴隷として売ろうとしてるこの人間のクズみたいな女は、僕がどんなブラック企業も真っ青な過酷な労働条件でこき使われてる間、一生左うちわでお城みたいな家に住んで、なんか肉とか果物とか食べてぶくぶく太って暮らすのだ。

 剣が無い僕は帰れないから、死ぬまでそのまんまだろう。

 地下帝国みたいなところなら、肺かどっかをやられて死ぬかもしれない。ペリカも外出権も無いだろう。

 ・・・冗談じゃない。


「あんたも、お茶飲むかぃ?」

 サイは皮袋に汲んできた水を、小さな鍋に移して火にかけている。

「…………」


 ・・・冗談じゃないが、何も出来ない。

 悔しいが、せめて街に到着するまでは、不本意だがサイと一緒にいないとどうしようもない。

 僕はサバイバルとは一番遠い国で育ったのだ。


「……いただきます」

 

 逃げるなら街に着いてからだ。

 大丈夫だ。チャンスはきっとある。


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