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第二話 盗賊サイ


「さて、お礼の話をしようか!」

「…イヤです」


目が覚めると包帯でぐるぐる巻きにされていた。

両腕と両足を。



 辺りは草原、小高い丘の上で周囲を見渡しやすい。少し離れて森が見える。それ以外は地平線くらいしか見えないが。

空はもう日が沈みかけ、赤と黒を混ぜた空に月が見えている。月が3つあるのに少々驚いたが、いまはどうでもいい。



 助けてくれた人は女性だった。

名前はサイというらしい。

砂漠の民みたいなだぶついた服を着てフードで頭を隠していたのでわからなかったが、結構美人だ。20代後半といったところだろうか。

大人の女性である。


 気を失った僕を身動きのとれない状態にしているのが気になったが、相手は命の恩人だ。

肯定的に、まぁ肯定的に考えて、この人なりの治療なのかもしれない。

僕はどこもケガしてないが。

それか警戒しているのかもしれないとも思ったが、もちろんどちらでもなかった。


「じゃぁお金の話をするかぃ?」

「それは同じ話でしょう!?」

「でもあの煙薬だってその包帯だって、タダじゃぁないんだよ」

「いやだからケガなんかしてないですって!! ちょホントこれほどいてくださいよ!!」


 つまりは恐喝(カツアゲ)である。

 ややこしいのに捕まってしまった。

恩人だと思って一瞬でも信じようとした僕が馬鹿だったよ。


 というかこの包帯、完全に僕の拘束のために使ってるよね? そっちの都合だよね? マジほどけ! 今スグに!! 違う追加すんな! 口を塞ぐように巻いてもなんの治療にもなりませんよ!! これじゃ猿轡(さるぐつわ)ですよ!!


 くそぅ…。どうにか逃げられないものか。縄抜けなんて出来ないし。そもそもここが何処なのかもわからない。

またあの熊みたいな化け物に襲われるかもしれないし……。


「ま~ぁ~? お礼って言っても、あんたお金は持ってないようだし?」

そう! そうだよ!! 僕今なんにも持ってないよ!! 寝巻き(スウェット)着てるだけで財布も何もないよ!!


「代わりにこの剣で許してやるよ」

ふざけんなし!!! いま許すって言った!! 上から目線か!! 僕が何をした!!! っていうか剣だよ。


 ………そう、剣だよ。


剣があったじゃん。忘れてたよ。剣に願えばいいじゃん。

こんなわけわからんところさっさとおさらばして、家に帰してもらえばいいじゃん。


 そうと決まれば話は簡単だ。剣に触ると聞こえてくるあの声にお願いしよう。すぐしよう。そうしよう。おい年増あんたが触んな。こっちよこせ。


「もがーー!!もがーー!!」

「何言ってんだかわかんないよ。そんなにいい剣なのかい? そうは見えないねぇ。こんな安っぽい剣でチャラにしてやろうってんだ。感謝しなよ」

そんな宝石やら金やらで装飾された剣が安いわけないだろ!!

ニヤニヤすんな!!

ていうか触んなって!!!


「おやおや? おやぁ?」

 剣に触れた途端に、みるみるオバハンの目が、輝きを増していく。

……最悪だ。


「こりゃぁ思わぬお宝が舞い込んだもんだね。なんでも願いが叶う魔道具ってかぃ? まるでおとぎ話みたいじゃないか。すぐに売っちまうには勿体無さそうだねぇ」

テンション上がってきやがったよ。

どうやらあの声はしっかり聞こえているようだ。

……誰の願いでも叶えるんだなあの剣。尻の軽い剣だ。


 オバハンはしばらく悩んでいたが、何か(確実に良からぬ事を)思いついたようで、そのふたつの輝く瞳を僕に向けてきた。

「いいこと思いついたよ。まずはこいつを小さな女の子に変えておくれ」


 ………、

 …………何言ってんのこのババア?


え、ちょっと意味がわからない。

なんで僕を幼女に変える必要があるの?

たった一つの願いがそれでいいのか?

あんた本当にそれでいいのか?

もっと他にやることがあるんじゃないのか?

テンション上がりすぎて頭ブレてんのか?

駄目だこいつ早くなんとかしないと。


「やめろくそばばー! あたまおかしーんじゃねーのか!」

 ダメだ遅かった。

すでに僕の声は、舌っ足らずな幼女ボイスに変わっていた。

 ちょ、コレどうすんだ?


「あっはっは!ホントに女の子になっちまったよ!あっはっはっはっ…!」

「…………」

 ……大ウケだ。何がそんなにおかしいんだよ。おかしいのはあんたの頭だよ。 

「うっくっくっ…、けっこうかわいいじゃないか。あんた美人になるよ」

 そいつはありがとうよ。全然うれしくないよ。


 身体が小さくなったことで、難なく包帯から開放される。

 スウェットからも開放されたくはなかったが。

……下は無理だな、上だけで膝下まで隠れるのでこれでがまんするしかない。

すーすーするが、とりあえず自由は素晴らしい。

「・・・いますぐもとにもどせ!」

「はぁ? 何言ってんだぃ!! こんなかわいいのに、ごめんだね!!」

 ババァは上機嫌に吐き捨ててから、せっせと火の準備を始める。

今夜はここで野宿ということか。


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