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第十八話 新生活

 私の朝は早い。


 この世界には時計が無いが。時間は街に一つは必ずある鐘の音が知らせてくれる。

 首都であるこの街には五つの鐘が設置されていて、響き渡る綺麗な音が耳に心地良い。

 鐘は朝の6時から2時間ごとに晩の6時まで、合計7回鳴る。

 今は春で、日の出の後少ししてから最初の鐘が鳴るわけだ。

 で、私はというと、朝の鐘の1時間前、5時くらいには起きないといけない。


 早朝でもすっかり肌寒さが薄れたこの季節。空が白んで鳴き出す鳥たちの声で目覚め、私はズルリとベッドから這い出し洗面所へ向かう。

 この世界は素晴らしい。なにせ上下水道が整備されている。バシャバシャ顔を洗って歯を磨き、鏡で頭皮のチェック。まだ黒くない。


 それが終わったら衣装室(私専用)に向かい寝巻きを着替えてメイドスタイルへ。仕事着には奥さまの用意してくれた衣装の中から、結局紺色の地味なワンピースを選んだ。

 奥さまは最初は口を尖らせていたが、私がそれにフリルの付いたエプロンとカチューシャを足すとブラボーハラショーと絶賛してくれた。


 着替えが終わったら買い物だ。旦那さまから預かっている財布を片手に朝市へと繰り出す。

 中央街から商業区の商店街は結構距離があるので大変だ。道すがらご近所のメイドさんたちとよく一緒になる。

 ピルムさんと山菜取りに行ったことを思い出すな。思えばまともに料理の出来ない私にいろいろと教えてくれたのも彼女だった。師匠の精進料理みたいなレパートリーを食べ続けてたら今頃30歳は老けていたかもしれない。

 そういえばピルムさんにマヨネーズの製法を教えてあげたらすごく喜んでたな。今日はサラダにマヨネーズをかけよう。



 商業区に到着。この商店街はこの時間がいちばん賑わう。

 なにせこの大きな街中の人間が集まるのだ。東西南北の門近くに4つの商店街があるが、東側の商店街はよく利用するので私はすでに顔馴染みである。


 人が多い。仕入れ業者の大きな馬車も走っている。昼間よりもがやがやとうるさいメインストリートの両側に、新鮮な野菜や今朝獲れた魚など、いろいろな食材を売る露店が立ち並んでいる。

 私は馴染みの顔に挨拶をしながら小さい体でスルスルと人混みをすり抜け、買い物メモを確認して目当ての物を探す。

 えぇと、パンと果実酒と…、げっハムが高ぇ。最近肉が高いな。今日はいいや。あと葉野菜と果野菜と卵。…これ何の卵だ?いつものと違う。あぁあのダチョウみたいな鳥の卵か。それとあとハーブと調味料だな。マヨ用にビネガーと植物油を買い置きしておこう。それと業者に塩を頼んでおかないと。


 買い物が終わって邸に帰ると、ちょうど朝一の鐘が鳴る頃だ。

 買って来たものを冷蔵魔導器に全部入れ、お茶を淹れて寝室に向かい旦那さまと奥さまを起こす。二人とも寝起きはいい。だいたいは私が起こす前に鐘の音で起きてる。


 二人が食堂に来るまでの時間に朝食の準備。ちゃかちゃかマヨネーズをやっつけて適当に千切った野菜を皿に盛り遠慮なくマヨをぶっ掛ける。昨日煮込んでおいたスープも温め、買って来たパンとこの間作ったジャムを…ぎゃあ!カビてる!?

 数日前に蓋を開けっ放しにしてしまってたのがやはり不味かったか。……残念だが、捨てる。

 さてどうしようか。バターでも作るか? でもミルクがない。

 ……そうだ。マヨネーズの余りをパンに塗って火魔術で表面を炙ってみる。んん、いい色だ。いけるんじゃないか? さすが万能調味料。

 最後は主菜だ。買って来た卵を見る。白い表面に薄青い斑点模様。いつもの卵より一回り大きい。とりあえず割ってみると、中身はどこの世界でも同じ卵だ。これなら大丈夫そうか。

 オムレツが好きだと言われているのでよく作るが、いいかげん飽きてくると思う。まぁ作るんだけどね。

 だし巻き玉子でも作りたいところだが、この世界に鰹だしはない。海草(こんぶ)はあるが、鰹節が無いのだ。諦めて今日もオムレツを作る。料理の本とかもっと読んでおけばよかった。


 食卓に全員揃ったら皆で朝食。基本的に皆喋らない。たまにカトラスがぐずるくらいだ。

 まだ少し眠い私は、夕食は何にしようかなんてことをぼけーっと考えながら千切ったパンを口に放り込む。一応使用人がこんなことでいいのだろうか。


「…メイス。これはいったい何だ?」

「・・・・え?へあっ!?な、なんでしょうか??」

「このサラダに掛かっている黄色いソースだ。パンにも掛かっているようだが…」

「あ、ああそれですか。マヨネーズというものです。…お口に合いませんでしたか?」

「いや、美味い。初めて食べる味だが、また作って欲しい」

「それはよかった。簡単なのでいつでも作れますよ。奥さまはどうでしょう?」

「………メイス、恐ろしい子!」

 …どうやら気に入ってくれたようだ。


 朝食も終わると学園へ。

 ローブに着替えてとんがり帽子をかぶる。

 出掛ける前に執務室に寄り、剣に嫌がらせ。

『やめろ 消えにくい合成インクで落書きをするのをやめろ 何の用だというんだ』

 特に用は無い。



 旦那さまと奥さまに挨拶してから邸を出る。

 講義が始まるのは二つ目の鐘が鳴る頃だ。それまでのんびりお茶でも飲みたいところだが、私には学園でも仕事がある。


 学園までは徒歩5分。

 学園の門にいつも待機している騎士に挨拶。校舎に入り常在の管理人に鍵を借りて学園の倉庫へ。


 仕事というのは中庭の草木の手入れだ。この間の入学式の日、何者かによって混沌の花園にされた中庭の整備を学園長から直々に仰せつかった。

 なんで私がと抗議したが、現場の目撃者の証言が満場一致で犯人を挙げていた。正直私は嵌められたと思っている。


 倉庫から鋏や鎌、塵取りと箒など一式を持って来る。

 ここ数日、草花を刈っては適当に塵取りで集める作業を繰り返し、なんとか設置されたベンチの周りは全て片付いた。

 魔術で無理矢理育てた植物は短命な癖に頑丈だ。結構重労働。数日掛かってまだ全然終わりが見えない。これが全部片付いたら俺、邸の庭も手入れしなくちゃいけないんだ…。


 さて、今日はこの広葉樹だな。鬼灯みたいに赤い花が満開でそれなりに綺麗だが、剪定してやらないとこのままでは枯れてしまう。

「ふむ、やっとるようだね」

 あ、クソジジー…じゃなくて学園長。

「おはようございます学園長」

「うむ、おはよう。この中庭は皆の憩いの場だからね。出来るだけ早く頼むよ」

「りょーかいでーす」

 だったら専門の業者に頼めばいいんだよ。こんな幼女に一人でやらせんな。

「次にこんなことしたら。私も兄上のように君におしおきをしなくてはならない」

「………心得ております」

 学園長は髭を撫で、登校して来る生徒達に挨拶しながら校舎へ戻っていった。


 倉庫から出して置いた梯子を木に掛けて鋏を片手によじ登る。

 …手が届かねぇ。何度も梯子を掛け直して短い腕を伸ばして枝を切り落としていく。

「メイス。おはようございます」

 お、マスケットだ。

「おはようマスケット」

「今日もやってるんですね。あとどれくらい掛かりそうです?」

「……今月中に終わるといいなぁ」

「…て、手伝いましょうか?」

「ううん、梯子ひとつしかないし。これくらい何てことないよ」

「たしか、新商品の除草剤がうちに…」

「そんなもん撒いたら怒られる!!」

「ふぇっ!?」

「気持ちは嬉しいけど、薬は無し。あ、でも忌避剤は少し欲しいな」

「害虫用の忌避剤ですか。それなら余剰在庫があったはずです。明日にでも貰って持ってきますね」

「ありがとう。頼むよ。それじゃ後でね」

 校舎に入っていくマスケットを見送る。本当は手伝って欲しい所だが、彼女は早くも授業に遅れ気味だ。魔術の勉強を優先して欲しい。


 ふむ、この木はこんなもんでいいか。

 梯子を降りて落とした枝を集めて麻袋に集めてゴミ捨て場へ。

 道具一式も倉庫に仕舞うとちょうど2つ目の鐘が鳴る。

 おっと、急がねば。マスケットが待っている。



 学園の校舎は30階建て。一番上には学園長室がある。

 あの御老体がそんな階層への昇降に耐えられるはずもない。もちろん学園長は階段を使わない。

 校舎には昇降機があるのだ。

 講義室は11階。私も利用させて貰おう。


 大きな扉の横に付いた金属盤に触れる。程なくして昇降機が降りて来ると扉の錠が外れる音がする。

 中に入って扉を閉めようとすると、

「待ってー! メイス、待ってくれー!」

 と、声が聞こえてきた。


 急いでいるので構わず扉を閉める。

 昇降機の中は10畳ほどの部屋だ。小さな椅子とテーブルも備え付けられているが、短い時間なので座ることもない。

 部屋の奥には階層に振り分けられた宝石が30個並んでいる。宝石に触れて起動させれば、その宝石に対応した階層に運んでくれる仕組みである。いくら掛かっているのだこの装置は。

 だがしかし遅かった。

「ひぃ…ひぃ…ひどいじゃないかメイス。僕を置き去りにするつもりかい?」

「おはよう、ドク」

 私が宝石に触れるより早く。ドクは追い着いて入って来た。

 あらためて昇降機を起動。うぅ・・結構揺れるんだよなぁ。

「ふぅ…なんとか遅れずに済みそうだ」

「のんびりだなぁ。もっと早く来ればいいのに」

「む、そういう君だって、似たようなものだろう」

「私はもっと早く来たよ。中庭の手入れをしてたんだよ」

「まだやっていたのかい?アレ。意地を張らずに人を雇えばいいのに」

「そんなお金無いよ。私は貧乏なんだ。ドクが代わりに出してくれるなら話は別だけど」

「いいよ?そのくらい」

「いいの!?」

「他ならぬ友人である君の頼みなら、お安い御用さ」

「ああいや、やっぱいいよ。罰みたいなもんだし。私がやらないとまた怒られる」

 次は体罰に訴えられるかもしれない。痛いのは嫌だ。


 昇降機が停止する。

 十一階。初級科講義室です。

「あ、メイス。お疲れ様です」

 講義室に入るとマスケットが迎えてくれた。

 マスケットの隣の席に座ると、ちょうど講師が入ってきて授業が始まった。

 講義室には私たち3人を含め、100人ほどの生徒が講義を受けている。

 全員が今年の新入生だ。

 この授業では魔法を使う上での基礎の基礎。魔力の練り方などを実習で教えてくれる。担当はハチェット先生。

 ハチェット先生の授業は分かり易い。ドクなんかはすでに魔力操作を体得しつつある。マスケットは梃子摺っているようだが。まぁこればかりは感覚もあるし、反復練習が必要だ。


 そして私は暇だ。いまさら基礎なんてやってられない。

 一応やってみるが。ドクがたっぷり10分掛けて練る量の魔力なら秒単位で呼吸をするように練れる。

 私が練れる魔力の限界に挑戦してみると、途中でハチェット先生に「恐いからやめて」と言われた。

 覚悟はしていたが、しばらくは退屈しそうだ。



 三つ目の鐘が鳴り響く。

 次は詠唱についての授業。担当はアネラス先生。

 こちらも私は暇で仕方がない。

 睡魔と戦う日々が続くことになりそうだ。さすがに見咎めたのか、アネラス先生は図書館で本でも借りてきて読んでていいと言ってくれた。



 四つ目、お昼の鐘が鳴った! ひゃっほおおおおう!!!

 学園は午後に授業は無い。昼食の後には自習に励む人がほとんどだが、別に帰ってもOKだ。

 とにもかくにもまずは昼食(ランチ)!!

 ランチ! 素晴らしい響きだ!! くしゃみ一つで性格まで変わっちまいそうだぜ!!

「マスケット何食べる?今日は何食べたい??」

「えぇっと私は別に何でも…」

「どうせなら高いもん食べよう! どうせドクの奢りだ!」

「待ちたまえメイス。なんで今日も僕が奢ることになってるのかな? まあ構わないが」

「すまないねえ。また魔術のこと教えるよ」

「うん、それはありがたい。是非頼むよ」

「わ、私は何も返せてません。ごめんなさい」

「はぁ…はぁ…じ、じゃあどんなパンツ履いてるのか教えてへぇ…」

「……メイス、気持ち悪いです」

「マスケットは気にすることはないさ。美しい女性に奉仕するのは男の義務だからね」

「おい私とは態度が違うじゃないか。どういうことだ」


 楽しい楽しいランチタイム。



 楽しい時間は長くは続かない。

 昼食後、実習室で簡単な魔術の実演を二人に見せていると五つ目の鐘が聴こえてきた。もうそんな時間か。

 二人は図書館に寄っていくようだが、私は仕事があるので帰らなければならない。


 邸に帰ってメイド服に着替えると、奥さまにまずお茶を淹れて欲しいと頼まれた。早めの午後のティータイム。旦那さまにもついでに淹れてあげよう。

 お茶を運んで執務室の扉をノック。中から許しを貰って入ると、旦那さまは書類の山と戦う手を止め、鋭い眼光を私に向けた。


「メイス。この落書きは君の仕業かね?」

 後ろの壁に掛かった剣の落書きに対する糾弾が始まった。

 …消すの忘れてた。


「この剣は大切なものだ。君も知っているだろう」

「……はい」

「すぐに消したまえ。二度とこのようなことが無いように」

「………はい」

 そう言い残して執務室を後にする旦那さま。


 言われた通り、剣を磨く。しかし私は何故こんな馬鹿なことをしたのだろうか。次はもっとバレないようにやらないと…。

『もっと丁寧に拭くのだ 鏡のように磨いてくれ』

「……黙ってろ」

 …いつか致命的なヒビを入れてやる。



 ついでなので執務室を掃除。

 そのまま邸内の掃除ミッションに入る。


 邸はとても広いが、住んでいるのは4人。その内1人は赤子だ。3人分の生活範囲は限られているので私の手でもなんとか足りる。

 執務室から始まって廊下の窓を拭いていく。床は絨毯なので苦労するが、これも慣れだ。

 あとは旦那さまと奥さまの寝室と、それぞれの私室、3つある衣装室、応接間や談話室などのサロン、応接間は念入りにと言われている。

 食堂やキッチンは私の持ち場だ。普段から綺麗にしているので特に問題はない。

 問題は私の部屋だ。


 私の部屋は邸の一階南東角、日当たりのいい部屋を選ばせて貰った。

 家具は一通り揃っていて、ベッドといくつかの棚と姿見鏡とクローゼットに小さな机と椅子。

 30畳ほどの部屋はそれらが並んでもまだガラリと広い。小市民な私が住むにはいささか広すぎる。

 ……はずだった。


 突然だが、私のお給料はひと月金貨15枚である。

 その内10枚は借金の返済に充てている。純金貨で1枚。4年と2ヶ月ローン。

 手取りは円計算で5万円だが、実はこれはいい給料なんてものではない。

 平均月収なんてデータはこの世界には無いが、たとえばフレイルの給料は金貨8枚である。東の街の酒場のマスターならたぶん5枚くらい。

 だいたいの一般層の人の給金の3倍以上だ。手取りでも1倍。

 断っておくが、私はそんな給料を貰うほどの働きは決してしていない。

 3食昼寝付き、学校まで行かせて貰っている身分だ。

 昼間学校に行ってるメイドの代わりに、洗濯は奥さまがやっているのだ。

 その上食費や光熱費など、生活の費用は銅貨1枚だって引かれない。実は昼食代だって貰っているのだ。

 奥さまには大量の服も買って貰っているのだ。ほとんど着ないが。


 何不自由無い生活の上、サラリーマンの平均月収と同じ額をお小遣いとして貰っていると考えて欲しい。

 だからということを言い訳にさせてもらいたい。

 私の金銭感覚は、狂ってしまった。


 あれよあれよと私の部屋は物で溢れ返り、手の付けようも無い。

 今日こそは掃除しなければと毎日のように思うのだが、ついつい後回しにしては、

「メイス。買い物に行くわ。着いて来て頂戴」

 奥さまに呼ばれてしまい、全然片付かないのだ。



 奥さまの買い物は早々に終わり、2号衣装室。別名着せ替えメイスちゃんドレッサー。

 私の最重要業務は、この部屋で奥さまの着せ替え人形となることだ。

 ほぼ毎日のことなのだが、これだけはどうにも慣れない。私はぐったりしながらどこかの歩く教会みたいな衣装を着替え、メイドスタイルに戻る。

 もう七つ目の鐘が鳴ってしまった。日が暮れる前に邸中の明かりを点けないと。食事の準備もしなくては。


 冷蔵庫の中を確認する。夕食は魚料理だ。

 旅の商人が売ってくれる珍しい調味料の中に味噌に酷似したものがある。大きな魚を漬けてみたので、西京焼きにしてみたいと思う。味噌汁も作ろう。


 出汁用に作った乾物は失敗も多かったが、炒り子にした小魚は成功だった。またピルムさんに教えてあげたい。頭と腹を千切って鍋に放り込んで放置。

 しかし米が無いんだよなぁ。一応あるらしいがなかなか手に入らない。大麦は手に入るので蒸してみるが、米と比べるとどうしても見劣りしてしまう。

 あと色々な野菜を麦糠で漬けてみたが、成果は上々だ。瓜科に似た野菜は2日でもう深い。この調子なら根野菜もすぐ…ぎゃあ、鉄片が爪の間に刺さった。

 コンロに特注の網をセットして換気に気をつけて魚を焼く。この匂いが近所で噂になっているらしく、お隣の邸のメイドさんにレシピを聞かれたのはちょっと自慢である。


 魚が焼けたら味噌汁もすぐだ。おもいっきり和食に偏ったメニューだな。

 師匠には好評だったのだが、初めて作ったときは旦那さまも奥さまも「変わった味だな、コレは…」と、眉をしかめていた。

 が、クセになるらしく「また作ってくれ」と言ってくれた。

 やはり料理本をたくさん読んでおくべきだった。



 夕食も終わると順番に入浴。

 この世界は素晴らしい。何せ蛇口を捻ればお湯も出るのだ。

 私はお風呂は最後に入ることにしている。作業の後で入った方がいい。

 作業というのはもちろん魔道具製作だ。


 首都に来るときの馬車で一緒になったお姉さん。

 地球の知識を持つ者を探していた。

 私が作る玩具は、地球の物をパクったものばかりだ。アシが付いてしまう。

 なのでちょっと玩具製作は自重している。

 といっても私のアイデアなんてどうしても地球産になってしまう。

 今作っているのは刈払機だ。風の魔道具をエンジンにした草刈機である。


 学園の中庭の手入れは、おそらく今月中には終わらない。しかし私はいつまでも草木と戯れる趣味は無い。なので今月中に作業を終わらせるための秘密兵器がコレだ。

 今、腕のいい鍛冶屋に設計図を見せ、必要なパーツを作ってもらっているところだ。私が作っているのはエンジン部分。

 風魔法を発動させて内蔵のプロペラを回すことで、ギア比を調節して丸ノコを駆動させ、憎っくき雑草どもを根絶やしにする。

 すでに鍛冶屋の親父とは量産ラインの検討が始まっている。計画が進行すれば量産が始まり、三国全ての園芸シェアを独占する予定だ。

 夢が広がるな。借金完済も近いかもしれない。



 時計が無いので時間ははっきりしないが、10時を過ぎたくらいだろうか。

 お風呂に入って部屋に戻ると、もう眠くて仕方がない。

 明日も早い。もう寝よう。


 私の一日の最後の仕事は、消灯である。

 魔道具の照明はこの世界では一般的な灯りだ。

 内蔵魔力を効果時間に絞った照明はそのまま点けていると、物によるがだいたい朝まで持つ。そうなると修理が必要なので気をつけないといけないが。

 火の魔法の照明はそのもの火が灯っているので、水をかけるなり酸素を遮断するなりすれば簡単に消える。魔力を燃料にしているので湿気ることもない。

 私ももう慣れたもので、専用に魔法式を組んだ水の魔術を詠唱して廊下の照明を一度に消す。巧いこと魔道具に出来ないものか。


 それが終わったら、私の一日が終わる。

 自分の部屋の明かりも消してベッドに潜り込むと、疲れた意識がストンと眠りに落ちた。

 明日もいい日でありますように。

 おやすみなさい。

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