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第一話 森の伝説っぽい剣


「――――ぎゃっ!!」


背中を強かに打ちつけ、激痛と自分の変な悲鳴で目が覚める。

いままでの人生でも最悪の寝覚めだ。あまりの痛みにちょっと呼吸ができない。

一体何が起こった!?


 背中をさすりながら辺りを見渡し、

「ここどこ?」


 そこは森の中だった。

鬱蒼とした森。木々の葉と枝の隙間から日の光が差し込んでいる。

自分はいままでこんなところで寝てたのだろうか。


「…あれ?寝ぼけてんのか??」


 昨日はそんなに呑んだのだったか?

ちょっと記憶がない。

ここはどこ? 私はだれ?


 それとも夢か。ベタだが頬をつねってみる。背中よりは痛くない。

やはり夢だろうか? というか背中? こんなところでどこにぶつけるというのか。


「……て、うっわ!?」

自分が寝ているところに目をやると、どうやら僕は地面が抉れたような、小さなクレーターで寝ていたようだ。

落ちてきたのだろうか。空から??


 改めて周りを見渡す。前方には森。左右も緑一色。


 そして後ろには、石の台座に刺さった剣があった。


3m四方の整形された石の台座。上に立つと姿が反射するほどに磨き抜かれた平らな大理石だ。中央の部分が一段盛り上がっててそこに剣が一本鎮座するように刺さっていた。


「これは……、

 マスターソード? エクスカリバーか?」

 見るからに曰くのありそうな剣だ。

柄は貴金属や宝石でいやらしくない程度に装飾されていて、刀身は、これはセラミックだろうか? ホームセンターの白い包丁みたいな刀身に幾何学的な金のラインとよくわからない文字が彫られている。

綺麗な剣だ。素直にそう思った。


 やっぱりここは夢の中なのかもしれない。

森で目覚めてすぐそばに伝説っぽい剣がある。一体どんな深層心理が働いているのか。


 せっかくなので抜いてみよう。

寝巻きの袖を捲くり腕を2・3度回していざ剣の柄に手をかけた。

その時、


『願いを言え』


頭の中に、声が響いた。


「うぇ!?」

いきなりの声にびっくりしてしまった。

今のはいったい?


 辺りを再三見回してみるが、もちろん誰もいない。

鳥の鳴き声が聞こえるが見えるところにはネズミ一匹いやしない。


 ならばやはりこの剣だ。

こんな見た目でこんなところに刺さっているんだ、やはり曰くアリということだろう。

まさか喋るとは思わなかったが。


落ち着いてもう一度剣に触れてみる。


『願いを言え 私は願いを叶える剣 どんな願いをも叶えてやろう さぁ願いを言え』


「えっと……」

 なんだこれ?


自分にこんな子供のような夢を見る心理があったとは驚きだ。

どんな願いでも叶うというなら何を願おう。そんな他愛もない妄想をいままで一度も抱かなかったわけではないが、いざそう言われてみると迷ってしまう。

地位か。名誉か。はたまた金か。


「叶えられる願いってのは、もちろん1つだけ?」

『そうだ』

「ですよねー」


 ギャルのパンティーはお約束。王様になってみるのもいいんじゃなイカ? より強力な武器を手に入れる? それは違うか。全人類の恒久的平和とか? いやいや……


「まーいいや、保留で」

『ふむ』


 なかなかおもしろい夢だ。もう少し楽しんでみようと思う。


 とりあえずこの剣を抜いてしまおう。

両手で柄を握りこみ力をこめる。

…すっぽん、なんて間抜けな音を立てて剣は抜けた。


 さて、今度は森を探索してみよう。

見た目より軽い喋る剣を携え、深い深い森に入っていった。





 とんでもないことになった。


 今の状況を説明すると、とにかく全速力で走っている。

すでに体力の限界で心臓が破裂しそうだ。

ついでにわき腹も痛い。


 そしてたぶんこれ夢と違う。

 とどめに僕はもうすぐ死ぬ。


 あれから森の中を獣道のようなものを頼りに進んでいくと、一本のへし折れた木があった。

大人3人分くらいの太い幹は、ちょうどその大人の頭のあたりできれいにポッキリ折れていた。


 問題なのはそれ以外の木にはまったく損傷がないこと。風に倒されたとか、近くの川が氾濫して洪水に押し倒されたとか、そんなちゃちな自然現象じゃねえ。もっと恐ろしい大型動物の仕業だぜ。


 折れた木の切り口はまだ新しい。

熊やなんかの動物は自分の縄張りを示すマーキングとして木に爪で傷をつけたりするらしい。

 ……折れた木の切り口はまだ新しい。


『グァオオオオゥ!!!!』

そこまでの考えに至ったあたりで彼が登場。

信じられない。まさか恐い夢だったとは。いや夢じゃなかったんだけど。


 現れたのは全長3mはある大きな熊さん。ただし腕は四本ある。

天津飯みたいだ。目も4つあるが。

べつにキングレオでもいいしカイリキーでもいい。

どうでもいい。


 それから今までひたすら走ってるわけです。

まだ追いつかれていないのは彼の巨体が木々の間をすり抜けられず、いちいち引っかかってくれるからだ。


後ろを振り返る余裕も無くなってきたが、バキバキという破壊音が鳴り止まないので諦めるつもりはないのだろう。誰しも諦めが肝心だというのに。


『私にそう願えばあのようなもの、すぐに消してやることも出来るぞ』

 奇跡の剣が神の御使いか、助けを申し出てきてくれた!

「……ぜっっ!? ……ぜぇっ!! ………ぜへぇっっっ!!!!」

 しかしHPが足りない!!


 あぁ、こりゃダメかもわからんね。


 天国に行ったら神さまに提出する抗議文書の書き方を調べないとな。

などと考えて足を木の根に引っ掛けて盛大に転ぶ。

神さまは冗談の通じない人らしい。

地獄に落ちろ。


 僕の身体は転がりながら、開けた場所に躍り出た。

しまった。足止めの木が無い場所だと追いつかれる。


車輪と蹄に踏み固められた道。おそらく街道だろう。呼吸もままならない僕は脳に酸素が足りず、それ以上何も考えられない。


 が、もう動けないと閉じかけた眼が、道行く1人の人間を捉えた。

助かった! そこの人! 僕を助けて!!


「たっ!…たすk『グガァアアアアアァ!!!!!』


 追いつかれたようだ。終わった……。


 目を瞑るといままでの僕が走馬灯として見れた。

とくに何の変哲もない凡庸な人生のダイジェストが浮かんでは消えていき、その中で僕は時に笑い、時に泣き、仲間達とともに様々な困難を乗り越え、盛大な鐘の音と共にグランドフィナーレ。ついに僕は誰よりも幸福な未来を手に入れ、観客動員数過去最大の喝采を浴びながら感動のエンディング。テーマソングとテロップも流れ切り、fin...の文字までブラックアウトしたところでやっと疑問を感じて目を開ける。

…あれ? まだ生きてる。


 ……恐る恐る身を起こして見ると、4つ腕の熊は、紫色の煙に包まれてタタラを踏んでいた。

心底堪らないといった感じで、腕を振り回して煙を叩くも暖簾に腕押し糠に釘。

ついには目を回し、音を立てて倒れた。

ちょっと地面も揺れた気がした。

鳥達も逃げた。

……た、助かった?


 さっきの人が煙玉か何かを投げて助けてくれたらしい。

迅速な対応だ。さては慣れてやがるな。


 とにもかくにも、死ぬところだった。めちゃくちゃ恐かった。助かってよかった。

命の恩人にお礼を言おう。そしてこの夢が覚めたら全て忘れよう。

夢だったらだけど。


 あ、やばい。ホッとしたら腰が抜けた。

尻餅ついて頭と視界がグラリと揺れる。

すごいスピードで景色が遠くなっていって、


……ぼくのいしきはそこでとぎれた。


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