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即興小説  作者: 談儀祀
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秘密の園

お題:平和と湖 必須要素:どんでん返し

 今日も湖は平和だった。

 あたり一帯を山脈に囲まれ、広がる大きな湖には波紋の一つもなかった。水は鏡のように澄んでいて、水中を優雅に泳ぐ魚がまばらに散見される以外に生物がいる様子は微塵もなかった。


「相変わらず、暇だな」

「暇ね」


 岩陰に二人の男女がいた。植物で編んだ簡素な服を着た、やや長身な男女だ。背は高く色白で、長く伸ばした髪は抜けるように白く、ぱっちりと開かれた眼は血のように赤かった。


「何か面白いことはないだろうか」

「昨日と同じでしょう、何もないわよ」


 二人の一番特徴的な点は耳だろうか。エルフ、といえばいいのだろうか。耳は先端に至るにつれ尖り、顔に対して垂直にピンと張っている。きょろきょろとあたりを見回すたびにその耳はぴこぴこと動き回り、見ていて微笑ましい。


「いやちょっと待て、何か聞こえないか?」

「あらそうね、確かに何か聞こえるわ」


 見つかってしまったのだろうか、だてに耳が大きいわけではないのだろうか。咄嗟に見つからないように隠れたものの、エルフたちはきょろきょろとあたりを見回し続けている。

 やがて音の原因に思い当ったのは男性の方だった。


「あぁ、なるほど。さっきのは犬がこの辺りまで来ていたせいだったらしい」

「犬? 珍しいわね」


 男性はここから少し離れた茂みに入ると、そこから犬のような生物を連れて帰ってきた。犬のような生物である。犬ではない。なにせ、顔が三つもある。どう見ても地獄の番犬にしか見えなかった。


「こんなところまで出てきて、いったいどうしたというのだ」

「バウワウ!」

「あらあら、すっかりあなたに懐いているのね」


 男女は犬とひとしきり遊ぶと、やがて元来た茂みの方に犬を返した。犬は名残惜しそうにしていたものの、そのまま帰って行った。


「ふむ、やっぱり暇だなあ」

「暇ねえ……」


 見つからなかったようなのでこのまま観察を続ける。というかなぜ今日に限ってこんな二人がいるのだろう。いつもは自分以外誰もいないものなのだが。

 やがてエルフは唐突に思い当ったように耳をぴくぴくさせ始める。


「やっぱりほかに何かがいるみたいだ。今日は飽きなくていいねえ」

「あら、たまにはいいじゃない」


 今度こそ見つかったのかと思ったが、おそらくまずいことにはならないだろう。そのまま観察を続けると、やはり今度こそエルフの女性がこちらに近づいてきた。


「ほら、いたわ」

「あぁなんだ、こんなところにいたんですか、神様」


「え、私って神様だったの?」


 びっくりするほどどんでん返しである。


 こうして湖に、エルフ二人と神が住み始めた。

 やがてそこはエデンと呼ばれることになる。

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