しけったメロンパン
お題:男同士のにわか雨 必須要素:メロンパン
メロンパンがしけってしまう。
むさくるしい教室でそれもメロンパンなんてものを持ってきてしまった俺は激しく後悔していた。これがせめてコッペパンであればよかった。たとえしけってしまってもコッペパンはコッペパンだ。問題なく食べられるし食べられなかったところで購買か何かで買えばいい。
でもメロンパンではそうはいかない。
もともとメロンパンは上に乗ったカリカリしたクッキー生地とふわふわのパン生地を楽しむための食品だ。味はほとんどの場合は砂糖で整えられている。場合によってはチョコチップを入れてみたりメロン果汁を入れてみたりといろいろあるようだが、基本はどれも変わらない。
だが考えてみてもほしい。それはメロンパンが焼きたての時の話だ。時間が経つごとに生地のカリカリさ、ふわふわさは損なわれ、ただパンを噛みしめるという行為でさえ飽きという苦痛が伴うようになる。
だからメロンパンは焼き立てを食べるべきなのだ。少なくとも俺はそう思っている。
なのにである。快晴の天気につい浮かれてパン屋でメロンパンを買った時の俺は、この後学校に行くことも、天気予報がにわか雨を告げていたことさえも忘れていた。つまるところ、完全に馬鹿なことをしてしまったのである。
授業が進む中、雨が降りそうだなどという理由でメロンパンをかじるわけにもいかない。蒸し暑さとクーラーのない教室が災いして窓は空いているし、小さなパン屋さんで買ったメロンパンだ。気密包装がされているとも思えない。雨でも降りだそうものならすぐにだめになってしまうだろう。しかも、だめになってしまった場合、今日の昼食は抜きになってしまう。
そんなことを考えていたからだろうか。外では暗い雲が姿を増やし続け、そしてしまいには降り出してしまったではないか。
俺は絶望した。今朝の自分に絶望し、メロンパンが食べられないことに絶望し、夕方までの憂鬱さに絶望した。
「はい、じゃあ今日はここまで」
教師が無慈悲な宣告をする。雨が降ったというのに昼休みに何の意味があるのだろう。
しかし、空腹で午後を迎えたくなかった俺は仕方なしにメロンパンを取り出す。一口食べる。しけっていてまずい。
ほかの男どもが肉がぎっしり詰まった弁当を食べる中、俺はしけったメロンパンを食べていることに涙が出た。
見かねたのか、前の席に座った某が自分の弁当箱を差し出す。
「肉でも食うか?」
俺は某に感謝した。あぁ、男同士とはいえ、こんなイベントができるなんて!
それをただ、にわか雨だけが見ていた。
ホモ臭くなってしまったがホモォ……ではない。青春に飢えているんだよ彼らは。