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即興小説  作者: 談儀祀
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今度の道

お題:今度の道 必須要素:イヤホン

 昔から、道を選ぶのが苦手だった。

 探検に出かけるときは必ず分かれ道で立ち止まって、どちらに進むのがいいかずっと迷っていた。時には一本道さえこのまま進んでいいのかと思い、進むか引き返すかで迷うこともあった。進路を選ぶのなどはとても苦痛で、模試の結果やら親や教師の意見に相反しないように適当に選んで進んできた。

「なんでだよ……ッ」

 そんな僕は今、走っていた。道ならぬ道を。草をかき分け、木々の隙間を通り、ぬかるみに足を取られながら走っていた。

「なんで僕が……っ、あんなのに追われなきゃいけないんだよ……ッ!」

 後ろからはじりじりと近づいてくる気配。全力疾走しているのに、どうしても引き離せない。それどころか近づいてすらいるようにも思える。

 僕は耳元からぶらんと中途半端に垂れ下がるイヤホンを外すと近くの茂みに放り投げた。結構高いものだったんだけどな、あれ。でもどれだけ高いイヤホンだろうが、命には代えられない。

「くそっ……、はぁ……ッ、はぁ……ッ」

 もはや僕には今まで走ってきた道を戻れと言われても戻れないだろうと、そう直感が囁きかけた。後ろの気配が逃がしてくれるとも思えない。仮に見逃してくれたとして、どうやって戻ればいいというのだろう。

 夕闇に包まれていた景色はやがて、次第に暗を帯びてくる。木々の隙間から遠くに見える海が、深い奈落のように感じた。

「……」

 声はない。だけどすぐそこまで迫っている気配が僕を急かす。慣れない長距離疾走に、脚はパンパンになり、息を吸い込むたびに肺が悲鳴を上げた。目元に垂れる汗をぬぐい取る。

 そしてやがて僕は森を抜けた。そして抜けた先で、僕は膝をついてしまった。


 道がなかったのだ。


 あれだけ僕を苦しませた道が、どこにもなかった。簡潔に言うならば、そこは断崖絶壁の上に位置していた。日の沈みかけた海の闇が目の前にぽっこりと、僕を飲み込もうとしている。どこまでも深く、深く。落ちれば命は……、ないだろう。

 背後に迫っていた気配はしかし、そんな僕を焦らすかのように森の出口で足を止めた。

「……」

 気配は何も言わない。だけど僕にはわかってしまった。気配は僕を待っているのだ。僕がどういう道を選ぶのかを。

 進めば死ぬ。崖から落ちて。

 戻ればどうなるかはわからない。気配は僕を急かしている。

 このままここに残れば? どちらにしてもやがて死ぬだろう。

 そう、僕にはもう、分かれ道など残っていないのだ。進むしかない、そういわれているのだ。

 気配は僕に気付くとこういった。

「……今度の道で後悔はしないかい?」

 僕は悲鳴を上げた。

誤字あったね、修正修正。

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