右肩のババァ
右肩にずっと重りがのしかかっているような、そんな朝だった。
昨日友人とキャッチボールをしたせいだろうか、なれない運動で筋肉がどうしようもない悲鳴を上げていた。まともに肩をあげることもできず、これではキータッチもままならない。仕事は休むしかなさそうだと早々に諦めて会社に電話を入れた。
右肩の調子がおかしいと言うと、怠慢な課長はあっさりと病院行って来いと休みを認めてくれた。
これ以上無意味に有給を使うこともないので大人しく病院に行こう。
「筋肉痛ですね」
医師はわかりきっていることをわかりきっているようにすっぱりと言い切った。看護師もなんとなく笑っているように見える。
「湿布と、それから痛むようなら痛み止めを出しておきますか?」
「いえ、それは結構です」
実際、それほど痛みはなく、がっつりと押さえつけられているようなそんな雰囲気であったから痛み止めは必要なかった。
「それにしても、筋肉痛にしては珍しい症状ですね」
「やっぱり、そうなんですか?」
「私は初めて見ました。もしかしたらこの病院でも見たことある医者はほとんどいないんじゃないでしょうか」
そんなに珍しいものだったのかと、素直に驚く。
「今後も続くようなら、私たちにできることはあまり多くないかもしれませんね」
医者はさらっと重要そうなことを言った気がしたが、考え事に夢中になっている間に診察は終わりと決断を下したらしい。その言葉の真意を問う前に、込み合った診察室へと押し流されていった。
「うーん、痛いな」
翌日の朝になっても痛みは引かなかった。それどころかますます重さは増しているようにも思える。右利きだから、箸を持つのにも一苦労である。
「仕方がない、今日も一日休むか」
会社に電話を入れると、課長が「ちゃんと病院に行ったのか」とまるで一日サボっていたような口ぶりで言うので、しっかりと診察を受けたことを念押ししておいた。診断書をもらっておいた方がいいかもしれない。
そこまで考えたところで、医者に行ってもだめかもなぁということを思い出した。ならいっそ、祓い屋などの方がいいのだろうか。
あっさりと考えを翻すと近所の神社に電話をかける。
「ええ、いらしてください。見るだけでも見て差し上げましょう」
人のよさそうな男性はそういうといつごろ来るかなどの詳細を手際よく聞いてくる。すぐに行く旨をこたえて電話を切ると、さっそく出かける準備をした。
「素晴らしいババァですね」
自分のことを指して素晴らしいババァというとはどういうことだと言いたくなるのを堪えて、素敵なババァこと祓い屋に質問する。それはどういう意味かと。
「お前さんの右肩に憑いてるものじゃよ」
ババァはそういって、護符のようなものを取り出すと右肩にぺたりと貼り付ける。
「まぁそれを付けておけば大丈夫じゃろう。それから、ちゃんと墓参りにはいくんじゃぞ?」
神社でそういうことを言われるとは思わなかった、と言いかけて。
そういえば今年はまだ墓参り行ってなかったな。
「ありがとうございます。午後にでも行ってきます」
こういうのは信じることが大事なのだ。うん。
「そうそう、それでいいんじゃ」
墓参りに行くとべったりと張り付いていた護符も力を失ったように剥がれ落ち、そして右肩の重さもなくなった。
あぁ、素晴らしいババァだったなぁ。右肩に憑いていたのは。




