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即興小説  作者: 談儀祀
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不可視の幼き悪魔

お題:幼い悪人 必須要素:うまい棒

 僕らは僕らの世界で、誰にも邪魔されることのない幼い悪人たちだった。

 この世の中で、大人たちがろくな知恵を持たないことにはすぐに気が付いた。小さなモバイル端末を手にぶつぶつと囁きあう彼らは僕たちのことなど何も見えていないようだった。彼らは僕たちの姿をGPSの位置情報で、その日何があったかを逐一報告する教師の言葉からで見ていた。

 そんな大人たちを、もちろん僕らの企みになど気づかない教師も含めてだますというのは、想像以上に簡単なことだった。

 始まりはうまい棒だった。

 店の中に老夫婦がいたりすることもない、監視カメラと無人レジだけが備え付けてある駄菓子屋で、僕らは盗みを働いた。学生時代にやんちゃをしていた大人たちならだれでもやっていたであろう、万引きだ。今ではそんなことができる店の方が少なくなってしまったけれど、その点僕らは狡猾だった。

 人物特定用の情報を保存しているチップの偽装、カメラに映らない死角の研究、もちろん何度も足を運んだし、見つからないようにするためにかなりの時間をかけた。

 僕らはうまい棒が欲しかったわけじゃなかった。大人たちを見返してやりたかった。

 そして僕らはうまい棒を盗んだ。拍子抜けするぐらいあっさりと。盗んだうまい棒は分解して僕ら5人で分けた。

 それからは僕たち、幼い悪人たちはやりたい放題だった。一度覚えてしまったテクニックを繰り返して、何でもやった。テストの問題を盗み出したり、賽銭箱をこじ開けたり。その中で僕らは一度として見つかることはなかったし、見つかるようなへまも犯さなかった。

 誰も僕らがやったことに気付かない。僕らはこの機械化された社会の中で、機械たちの視認を潜り抜けることに成功したのだ。

 うまい棒から始まった僕たちの悪行は、どこまで行っても誰にもばれなかった。

 成人するまでに、僕らは何人もの人を不幸にした。お金を盗んだ。人を傷つけた。時にはばれそうになったときに人に罪をなすりつけた。最終的に、人を殺したこともあった。

 そして僕らは成人した。誰にも悪事は気づかれなかった。何食わぬ顔で同級生と歓談した。みな、楽しそうに生きていた。

 僕らは気づいてしまった。幼かった悪人は今でも幼い悪人のままだったのだと。

 僕らにほかに生きる道はもう残っていなかった。


 そして僕らは今日、あの日盗んだうまい棒をもって駄菓子屋を訪れている。これからどうなるのかはわからない。許されはしないだろう。

 それでも僕らは、幼いままではいたくなかったのだ。

4作目まで書いた現在、なんだかんだ一番うまく書けた気がする。

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