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五日目:戦線離脱も視野に入れるべきなのか

「よし、鍵閉め終わり!」

 ふぅ。

 これで歴史教科担任のお仕置き兼お使いも終わりね!

 鍵がちゃんとかかっているか確認するために、何度か扉の取っ手に手をかけてがたがたと揺らす。

「後は帰るだけ! お疲れあたし!」

 るんるんとスキップ交じりに教室へと歩き始める。

「好きです。付き合ってください!」

 階段にたどり着いた時、左側から声がして顔を向けると茜色の空が見える開け放たれた窓があった。

――何! 告白!!?

 野次馬根性丸出しに、どきどきしながらその窓から顔を出す。

「あ……鈴木君だ」

 校舎の陰に隠れるように、向かい合って立つ女子生徒と男子生徒の姿を捉える。

 その向かい合う女の子は後姿しか見えず誰なのかわからなかったけど、対面してこちらに顔を向けていた男子生徒はすぐに鈴木君であるとわかった。

 後姿の女の子の姿を見て、先ほどまで好奇心に高鳴っていた心臓がどくんと一回大きく跳ねて静まる。

「ごめん……オレ、お前の事知らないから付き合えない」

 自分が言われたわけでも無いのに鈴木君の断る言葉が胸に突き刺さる。

「おんなじ断り方・・…・」

 背中しか見えない女の子の姿……だけど、どうしてか彼女がどんな顔をしているのか想像できた。

「じゃあ、今から知ってください!」

 震える声で言い募る。

 食い下がる女子生徒に、鈴木君は少し困った表情になる。

「あたしが告白した時もそんな顔してたよね……」

 彼女が言葉をつむぐ度に、あたしの心が凍っていくような感じがして頭もぼうっとしてきた。

 結末を知りたいけどなんだか怖い。

 早く教室に戻ろう……。

 そう思って、一歩後ろに足を引いた時。

「それも無理だから、ごめん」

 鈴木君の声が、先に届いてしまった。

 窓枠をぐっと握り締める。

 鈴木君は断ったのに・・・…なんで、こんなに胸が苦しくなっているんだろう……なんで、震えているんだろう……。

 理由を探しつつ窓際から動かずに外を覗いていたら、女子生徒が校舎の中に走って消えて、鈴木君はひとつため息を吐いて校舎へと足を向けて歩き始める。

 そしてふと彼の顔が私のいる2階の窓に向いた。

「え?」

 鈴木君はほんの少しの間、呆然とあたしの顔を見あげていた。

 たぶん頭が真っ白になっていたんじゃないかな? それからスイッチが入ったように顔を赤くして校舎の中に消え、彼の姿が見えなくなってあまり時間を置かずに、階段を駆け上がり肩で息をしながらあたしの前に立っていた。

「あ……椛沢っ」

「何も見て無いよ」

 鈴木君が視線をさまよわせ、彼の口が何かを言う前にあたしは微笑んだ。

「え、あ……っと……ありがとう」

 ちょっとだけぽかんとした顔をしてたけど、すぐにいつもの調子を戻して鈴木君は気まずそうにメガネのブリッジ部分を押し上げる。

 そんな彼にあたしは「教室一緒に戻ろう?」と呼びかけて、開け放たれた窓を閉めた。

 静かな廊下に二人の足音が反響する。

 あまりにも静か過ぎて、二人の呼吸する音さえも響いてきそうな感じがした。

「モテモテだね、鈴木君」

 沈黙に耐え切れず鈴木君に話しかけると、彼は少しびっくりした様に目を見開いてから苦笑を浮かべた。

「見てんじゃん」

「聞こえたんだもん」

「おなじだっつの」

 気まずかった空気が少しずつテンポのよい会話で解かれていく。

「毎日のように告白されてるの?」

「そんなにないよ」

「ふぅん。あんまりもてないんだね」

「まあね」

 ぴたりと再び沈黙が二人を包む。

 教室が見えた。後少しでこの空気から開放されるんだ……ホッとする反面どこか気持ちが陰る。

「可愛い子だったんだから、受ければよかったのに」

 冗談交じりにそう鈴木君へ笑う。

 この言葉に、鈴木君も冗談で返してくれると思った……けど……。

 凄く、凄く真剣な顔で、

「そうした方が良かったのか?」

 って、まっすぐ目を見つめて言った。

 その言葉と視線に、ぐっと胸が締められる。

「……そんなの……嫌に決まってるじゃん! 鈴木君の鈍・ニブチン!」

「なんだよ、どんにぶちんて……」

「鈴木君が、ケーワイで底抜けに鈍い人だって言ったの!!」

「な……椛沢がっ」

「知ってんじゃん!あたしの気持ちなんて!!」

「……っ!!」

「鈴木君の卑怯者!!」 

 悔しいのやら、悲しいのやら……なんだか気持ちがぐちゃぐちゃしてきて、言葉を吐くより嗚咽が溢れた。

 ぼろぼろと泣き出したあたしを見て、鈴木君がぎょっとする。 

「椛沢ご――いだっ」

「ごめんなんて聞きたくない!」

 鈴木君の脛を蹴ってそのまま振り掛けることなく教室へと駆け込んだ。




――ごめん。


 鈴木君の声が頭に響く。

 どくんと胸が跳ねる。


――ごめん。


 じわじわと不安を煽る様に、鈴木君の声がエコーしてさっきの告白場面がフラッシュバックされる。

 そして先ほどの女子生徒の姿が、ゆっくりと形を変えて……あたしになった。

『ああ、そうか……これ二日後のあたしかもしれないんだ』

 ライバルが減って嬉しいはずの場面で襲ってきた恐怖心。

 その答えが分かって納得する反面、更に胸を締め付けた……。


 告白する前よりもずっと距離が縮まった今。

 断られた時この関係が崩れ去るかもしれないと思うと七日目が怖く感じた五日目が終わった。

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