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四日目:いたずら心に火がともる

 さて四日目となりました。

 昨日の朝の衝撃的な笑顔は殺人的な破壊力を持ってあたしを撃破してきたのですが……あれからの進展は何もなく、さっそく再びドン詰まってたり……はははは……はぁ~。

「どうした?」

 ため息が聞こえたのか、隣の席の鈴木君が次の教科の準備をしながら問いかけてきた。

 ちなみに今は2時限目の中休み。

「なんでもない」

 正直に言えたらどんだけ楽かしらね……本当にね!

 あたしも鈴木君に倣って机の中から次の教科に使う道具を出して、ベルが鳴ると同時に教室に入ってくる教科担任を待つ。

 時計を見たら少しだけ次の授業まで時間があるみたい……折角だから、好みのタイプとか聞いてみようかな。

「ねえ、鈴木君」

「何?」

「好きな子のタイプ教えてよ」

「……は?」

「どんな子が好きなの?」

「……いまさら?」

 驚きと心底呆れたような声で鈴木君が言う。

「う……」

「変な女」

 くっと喉で笑って一言。

「へ……へんって!」

 鈴木君にその言葉を訂正させようとした時、タイミングの悪い事に授業開始のベルが鳴って、黒板の前に立って教室の中をぐるっと見回す神経質そうな教科担任。

 性悪なこいつの教科では文句を言っている間に私がネチネチと言われてしまうわ!

 っく……くやしい!!

 そんな事を思いつつ、号令の声にあわせて教師へと頭を下げて再び席に着いた。

「よし、教科書開け! 昨日の続きからだ、一四五ページ」

 その先生の声に、静かな教室の中に教科書を開く音が響き渡る。

 あたしは先ほどの怒りの矛先をどうしようかと教室を見回して、それから思わずくすりと笑ってしまった。

 いやいや……凄いな。なんか。

 さっきまでの怒りはすっかり消し飛び感心していたら、ふと、ルーズリーフの上に紙切れが横からスッと乗せられた。

 なんだろう? 明海ちゃんからの手紙かな?

 そう思ったけどすぐにそれは打ち消した。

 結構几帳面なところがあるから、こんな紙切れを送ってきたりしないもの。

 とりあえず、読んでみてから判断すればいいかと思い直して裏返しの紙切れをぺラッと捲る。

『何笑ってんの?』

 ナニワラッテンノ?

 たった一行、かくかくした文字で書かれてた。

 その言葉をもう一度頭の中で復唱して、そこでやっとさっきの忍び笑いを誰かに見られていたんだと気がついた。

――誰!? 誰に見られてたの!!?

 あわてて辺りへと視線を巡らせようとして、顔だけは先生の立つ教卓へ向けて、視線だけをあたしに向けている彼とぴたりと目が合った。

 それからこっそりと手紙に書かれた単語を先生に気づかれないように呟いた。

 その彼に手紙を指差して彼が送ってきたものかと確認すると、小さくうなずかれ安堵の息を吐く。

 ホッとしたあたしの耳に届くシャーペンのノック音。

 それは鈴木君からの回答を催促する合図だったみたいで、彼の唇が「なんで?」と動いていた。

 あたしは、改めて手紙の返信を書き始める。

『いや、なんかね……少しのずれはあるけど、先生の掛け声で、みんながいっせいに開いた事に感動しちゃってね。何の示し合わせもなくここまで息を合わせて行動できるなんて凄いなぁって……』

 と、書いて鈴木君の机にそっと手紙を置いた。

 鈴木君は先生の目を盗みつつ手紙に目を落として、しばらくしてからもう一度、彼から一言だけ書かれた手紙が返された。

『変なヤツ』

 ………変なヤツって、ちょっと鈴木君。

 これ、どう歪曲して解釈しても褒めてないよね?

 先ほどの怒りも再熱。

 あたしはその返答に眉間に皺を寄せる。

 チラッと鈴木君を見るとどこか意地悪な笑みを浮かべている。

 なるほど、これは挑戦状ね!! いいじゃない、受けて立つわ!

 そう意気込んで、あたしはバインダーから新しくルーズリーフを取り出して、一筆入魂とばかりに面白話を書いて再び鈴木君へと手紙を渡した。

 あたしの手紙へと目を通して……そして、事件は起こった。

「ぶはっ!!」

 ガタンッ

「ごほっごほほ、げほっ」

 静かな教室に、鈴木君の咳き込みと椅子からずり落ちた音が響く。

 何事かとみんながいっせいに鈴木君へと振り返る。

「おい、鈴木~大丈夫か?」

「す……すみません、ごほ、大丈夫です」

 少し、目に涙を溜めた鈴木君。

 先生のちょっとピリピリした問いに謝って、クラスのみんなの視線が外れた事を確認後、ぎっと睨んできた。

 むぅ。何よ! 先に挑戦状叩き付けてきたの鈴木君じゃない!

 それからこの授業中、鈴木君は全くこっちを見ようとしなかった。

 時々黒板とルーズリーフの往復の間に鈴木君を盗み見ると、眉間に一杯皺を寄せて何かを耐える様な表情を浮かべてたりしていた。


 それから授業終了の鐘が鳴ると、鈴木君はあたしの名前を呼んできた。

「なぁに?」

「何じゃない! なんだよ、あの手紙!! 普通、あのタイミングで渡すか!?」

「あのタイミングだから渡したのよ! 笑っちゃいけない時って、通常時なら耐えられる笑いでも、笑っちゃう時ってあるじゃないの、それを狙ったんだもん」

「狙うな!」

 鈴木君は大変ご立腹な様子。

 けど、それでも避けるような事がなくて、着実に距離が縮んでいるんだと実感させられる。

 それが嬉しくて笑ったら「何笑ってるんだ!!」て、また怒鳴られた。

 こうやって冗談を受け止めてくれるくらいの距離に縮んだんだもの……焦る事はないよね?


 そう思い直した四日目終了。

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