一日目:勝負開始!!
勇気を出して告白し、衝撃の返答を頂いた次の日の朝。
宣戦布告をしたことに対して、とても、とても、とっても後悔しつつ……私は教室の自分の机に突っ伏していた。
「ああ~……どうしよう。どうしよう」
「モーションかけまくるしかないでしょ。自分で撒いた種は腐ろうがどうなろうが自分で収穫しなくちゃ」
私の前の席に着いて、そう冷たく言い放つ明海ちゃん。
彼女は中学から付き合いのある友人の一人で、大人っぽい雰囲気を持った美人さん。
彼女にかかれば落ちない男はいないとか……その勝率を少しでも分けてもらいたいと常々思っているのだけど今のところ貰えた事はない。
「明海ちゃん……冷たい」
そう口を尖らせて友人を見ると、私の視線を真っ向から受け止めた明海ちゃんは極上の笑顔を作って止めの一言。
「めいっぱい振られてきなさい。爆笑してあげるから。ね?」
最後の「ね」だけ半音上がってて、ハートマークが付けられそうな勢いだった。
ダメだ……この人。
振られるって決め付けてさらに笑いのネタにする気だ……。
明海ちゃんの思い通りに行きそうなくらい勝算が見えない今、憂鬱で仕方がない。
「鈴木君……こなければいいな……」
「早速逃げ腰かよ」
「だってぇ~」
あんだけ大きな事を言っちゃったけど、何も思い浮かばないんだもん……作戦を立てる時間をもう少し貰いたいのよ!
「まぁ……あんたって底抜けに運悪いからその願いは叶わないわね……ほら」
「う?」
そう言って綺麗な顔を教室の後ろの出入り口へと向ける。
あたしも倣って視線を向けると、そこにはクラスメートに挨拶をしてこちらに向かってくる鈴木君の姿。
「あ……あう……あけ……あけみっ…………みっちゃん!」
「誰がみっちゃんよ。まあ、がんばれ、んじゃあ、そろそろ私も自分の席に戻るね」
ええええええええ……置いてかないでよ!!
「だって、私関係ないもん」
ああ、非情。
あたしのSOSをあっさりと無視して自分の席へと戻って行く明海ちゃんと入れ替わりに、隣に鈴木君が到着し机の上に鞄を置いていた。
せめて挨拶だけはした方がいいよね……それくらいはいいよね……てか、むしろしないとダメよね?
一呼吸置いて、あたしは席について鞄の中身を机の中に入れている鈴木君へ「おはよう」と笑顔で挨拶をしてみた。
すると鈴木君は、机に物を入れていた動作をいったん止めて、あたしへと顔を向け……目を見開いた。
え? 何その表情。
「隣の席だったのか……」
びき。
彼のその言葉に、あたしの笑顔が凍りつく。
この男は……この男は!
しかし、ここでまた暴走したら昨日と同じ様に墓穴を掘るだけ……落ち着け、落ち着くの……そう自分に言い聞かせ、心の中でも深呼吸を繰り返す。
そして再び驚きに体を強張らせている鈴木君へと今まで以上の満面の笑顔を向けた。
って、ちょっと、なんでびくっと肩震わせるのよ、失礼じゃない? 鈴木君。
「そうだよ、今学期に入ってからずっと、鈴木君の隣にいたよ」
あ、今ちょっと……いや、凄くストーカーチックな発言だったかも……うん、鈴木君凄い勢いで引いてる。
暴走しなくても更なる深みにはまってしまったわ……どこまで馬鹿なのあたしってば……ああ、もう! ここまで来ちゃったらもう開き直ったほうが良いわよね!
そうと決めたら、ちょっと引いてる鈴木君へさらに拍車をかけるようにポツリと「一日目」と呟いた。
ちゃんと彼にも聞こえるように……それでいて、思わず口から出た風を装って。
すると鈴木君はちゃんと聞き取ってくれたようで「え?」と声を漏らした。
「今日から七日間、よろしくね? 鈴木君」
貼り付けたままの笑顔でそう言えば、鈴木君の方頬が、ひくりと引きつった。
そして、そう言ったあたしは内心恐慌状態。
(って……違うでしょ、あたし!! 怖がらせてどおすんの~~~~~~~~)
明らかにドン引いている鈴木君を見て、あたしは泣きたい気持ちで一杯だった。
それでも引くに引けないこの勝負。
あたしは意地にでも彼を攻略しなくちゃならないのだ!
そう意気込み頭の中に戦闘開始のゴングが鳴り響いた一日目が終了。