零日目:乙女の一大決心
「七日間!! 七日間であたしのことを好きにさせてみせる!!」
あたし椛沢美咲一六歳は、ぴしっと向き合った銀色のリムレス・フレームが光る青年へ両手で七の数字を表して言い切った。
――ああ、あたしの大ばか者!!
あたしが彼を好きになった事が全ての始まり。
彼の名前は鈴木 健一くん。
同じ学校で同じクラス。
眉目秀麗、成績優秀。
スポーツは……まあ、平均的。
どこぞに溢れかえってるお決まりプリンス的な要素を全て持っているわけではない。
性格もこれといって特に良いわけでも悪いわけでもなく……はっきり言ってパッとしない。
顔と成績以外はいたって普通の男子高校生だ。
彼の顔に一目惚れして誘蛾灯のように近寄って(友人に言ったら、蝶じゃなくて蛾かよと突っ込まれた)燃え尽きる少女たちを結構噂で聞くこともある。
あとは外見と中身のギャップに耐え切れなくて3日で破局とか……彼の噂は結構絶えない。
そんな彼をあたしも好きになり(面食いなんです、眼鏡好きなんです)同じクラスを好機に好印象を与えてから告白しよう!!
そう意気込んで迎えた告白。
「ずっと前から鈴木くんのこと好きだったんだ……」
あたしのその言葉に、鈴木くんは驚いたように目を見開いた。
そんな事を言われるとは思ってもいなかった……そんな表情。
でも、鈴木くんはその表情をすぐ困ったように曇らせた。
――あ、困らせちゃった……
「と、突然こんな事言われても困るよね、ごめんね、でも、どうしても、知って欲しかったから」
両手を顔の前で振って無理やり笑顔を作る。
だって、これ以上困らせたくなかったもの。
すると鈴木くんは「いや……いいけど」と、答えを返してくる。
そして眼鏡のブリッジ部分を人差し指と中指で持ち上げて、まっすぐあたしに向かって言った。
「あの……さ、悪いんだけど、オレ、お前の事知らない」
彼の言葉に、あたしの時間が一瞬凍る。
今……鈴木くんは何て言った?
「え……えと、同じクラスの椛沢……だけど」
震える声でそう返せば、彼はまた驚きに目を見開く。
「ご……ごめん。オレ……人の顔と名前覚えるの苦手で」
本当に申し訳なさそうにあたしから視線をそらすと、ザリザリと地面を片足で均し始める。
その彼をじっと見つめ、あたしは今までの自分の努力が全て音を立てて崩れていくのを感じた。
彼とできるだけ一緒にいられるように面倒な図書委員に挙手したり(彼が男子代表だったから……本当は、保健委員になりたかった)
彼と話が合うようにと、興味のないアクション物や歴史物の映画や本にも手を出した。(恋愛物とかファンタジーが好きなの)
他にも一緒に帰れるようにタイミングを考えて話しかけたりとか、一緒の掃除当番になれるように手回ししてもらったりとか。(賄賂にどれほどお小遣いが飛んでいったか……)
まだまだいろいろと細かい事もしてやっと仲良くなれたと思っての告白だったのに。
他に好きな人がいる……とか、そんな風に見たことなかったから……とか
そんな断りではなく。
「オレ、お前の事知らない」
ですってぇ!!
それはあんまりだ酷すぎる!! あたしの今まで返してよ!!
「……鈴木くん」
「な、なに?」
あたしの纏う空気が変わった事を敏感に察知してか、少し警戒した様子で答えが返ってくる。
その彼にあたしは右手でVを作り、それを左の手のひらに押し付けて彼に向かって突き出した。
「今の告白で、あたしのことは知ってもらったと思う」
知らないなんて言わせないわよ! と、睨みつけると、鈴木くんはこくりと頷く。
それを確認してから、あたしは一呼吸置いて、はっきりきっぱり公言して見せた。
「明日からの七日間!! 七日間であたしのことを好きにさせてみせる!!」
そしてそう言った次の瞬間。大後悔の渦に落ちているのであった。
この話は、全9話です。既に完結しているので途中切れの心配はありません。(バックアップも万全です)よろしければ、最後までお付き合いください。以降は、最終話まであとがきの様なものはありません。