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月に騙し

作者: niboshi

 由緒も何も特にあったものではないが、陽をたっぷり浴びた西の山の一族には、たまに化けるものがでる。

「それでも、尻尾が二股に分かれるまでは、力が十分に足りていない証拠なんだから、里に下りてはいけないのよ」

「姉さん、」

「いいこと」

 ごわごわとした焦げ茶の毛並みを執拗になめて、仕上げに頬ずりを一つ貰う。うっとりするような黒い毛並みにぴんとしたひげ、全身の毛が逆立つほどの愛らしさがある、極上の美猫。

 ぞっとするほど無邪気な瞳に鋭い瞳孔をきらめかせて、牙のある口で器用に人の言葉をほろほろとこぼす。

「里に下りてはいけないのよ」



 とはいわれても、まあまだ血気盛んな年頃ではあるし、月に酔ってはふらりらと、里の方へと転がりだした。一番楽なやりかたで人に変ずる。自身の毛並みに合わせてごわごわとした頭髪はざんばらに粗く、服には土ぼこりがついていた。軽く身震いをして水溜りを覗く。目の周りの模様を両の手の平でぎゅうと押さえた。離すと、朴訥とした無害そうな青年の顔と、鼻の上にちょこんとのった丸い眼鏡。ようし、と水辺から立ち上がると視線の高さにくらりとした。いやはや。


 飲み友達の大将は、頭に葉っぱをつけたまま現れた俺を見てかかと笑った。「やあ、お前はいつも薄汚れているな」「そいつはどうも、今日も犬と喧嘩してきたもんで」「馬鹿め」

 大将と知り合ったのは夏の終わり、花火大会のころに転がっていたビールを舐めてしたたかに酔い、近所の飼い犬と大喧嘩していたところに水をかけられ、大いに説教されたのが始まりだ。とはいえかけられたのがコップ一杯の日本酒だったせいで説教の内容はとんと覚えていない。


 月の見える縁側に座って、差し出される干し肉を遠慮なくつまんだ。彼の趣味であるらしい手製の料理は、いつか連れていかれた店のものより塩気が薄くて丁度いい。

 手も洗わずに更に手を伸ばした自分をぴしゃりと箸で叩き、大将は鼻に皺を寄せてくしゃりと笑う。

「育ちがわるいもんで、どうも」

「相変わらずだよなあ。ところで、そいつはお前さんの娘っこか?」

 は、と口を開けた瞬間に、良く冷ました芋煮が一つ放り込まれる。膝の上の重みに、慣れ親しんだ温度。

 芋を飲み下すまでの間は喋らずとも不自然ではない。膝の上にかじりつくようにして眠っているツインテールの美少女を見下ろして、俺は一つため息をついた。恐ろしくつやのある黒の髪に、黒の簡素なワンピース。消し忘れている髭を指でなでると、それは夢のように掻き消えた。

 いやはや、ついてきたのか。やんちゃな弟分を叱るためか、自身の好奇心を満たすためにか。

「いえ、姉です。猫は化けるのに時間がかかるので」

「おてんばなやつだなあ」

 しかし、肝が冷えたようだな? にやりと笑いながら、大将が顔を指差して見せる。もらった椀に顔を移すと、目の周りの変化が解けて、狸の隈が浮き出ていた。両の手でぎゅうとそれを押さえた。離すと、眼鏡をつけた青年の顔が現れる。


「化け狸の尾は割れないんですよ、姉さん」


 疲れはてて眠った黒猫を膝に乗せて、人の形をした手でつるりと髪をなでる。肉球と同じピンク色の頬が月明かりにつやつやと揺れて、まあ愛らしいことだった。



**

診断メーカーより

「姉」「メガネ」「ツインテール」の3つの言葉を含め、9ツイート以内で得意ジャンルの話を書きなさい。 http://shindanmaker.com/5279

という訳でツインテールの美少女の話というと語弊があります。ちなみに1300字なので若干超過。



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