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1 薬師見習いになった。

 フレデリカは帝国との国境に近い町サフラーンにいた。


 一年ほど前に「魔法都市」エテルナで働いた時、優秀な建築技師の手で作られた地下下水道をじっくりと見る機会があり、感銘を受けた。知識も技術力もなくただ魔法を使って作ったものは、その時はすごいことができたように見えてもすぐにぼろが出る。所詮は子供の遊び程度に過ぎない。

 魔法は人が紡ぐもの。生半可な想像で構成した魔法は浅くもろく、得られる成果はちょっと長い夢程度。理にかない、理を従えた魔法、それが今フレデリカが求めているものだ。


 住んでいた街のギルドでは、魔法使いとしてはその後も大した仕事は巡って来なかった。

 この際職種を変えてみるかと思っていたところへ、たまたまサフラーンの薬屋で薬師見習いを募集しているのを見かけた。

 魔道具や薬を作るのは嫌いではなかった。怪しいのやら、危ないのやら、面白くしたのやら、魔法薬なら古今東西のレシピを使いいろいろと作ったことがあるが、街の薬屋に並ぶ普通の人間が手に取って使う薬を作った経験はさほど多くない。

 人に優しい安全な薬の作り方を基本から学んでおきたい。薬師になるには資格試験がある訳ではない。師匠について学び、師匠にお墨付きをもらえれば「薬師」で通るのがこの世界。

 よし、薬師を目指そう。

 フレデリカはサフラーンの仕事を申し込み、引き受けていた仕事を終えると借りていた家を片付け街を離れた。




 三年ほど前にサフラーンの近くに魔物の巣窟が見つかった。

 魔物を倒せば貴重な魔核が手に入り、牙や角、毛皮などは高く売れる。おかげで冒険者達がこの街に集まるようになった。冒険者達は出発前にも戻ってからも薬を調達する。一流の冒険者なら一流の薬屋に行くが、駆け出しの冒険者には手が届かない金額だ。かといって薬も持たずに魔物と対峙するのは悪手で、それなりの質でそれなりの料金のものにも需要はある。


 そして残念なことにフレデリカが師についた先は「それなり」に部類する薬を売っている店だった。そこそこ売り上げはありそれなりに忙しい中、先日弟子が引き抜かれ、代わりを求めていてやって来たのがフレデリカと言う訳だ。

 フレデリカはサフラーンでは自分が魔法使いであることを隠し、創薬には魔法を使わないことにした。


 店の薬は店主で薬師のトバイアスが作っていた。品揃えはよくある痛み止め、解熱剤、傷薬、下痢止め、胃薬など、冒険者が常備する薬が中心だ。リクエストに応じた薬も作れるが、効き目はほどほどで、割高で時間もかかる。貧乏な冒険者ほど時間を惜しみ、客は皆棚に並んでいる出来合いの薬を買っていった。


 弟子の仕事は店番に、素材の下準備、瓶や鍋の洗浄、薬のラベル張り、鍋を焦がさないように混ぜておくなど、いわゆる雑用中心だった。

 店の裏手に素材置き場があり、一応品ごとに置かれてはいるが棚にごちゃごちゃと積まれていて、入荷順さえ管理されてるか怪しい。薬草の洗い方にちぎり方、切り方、どの部分を使うか、乾燥の仕方など、ざっくりと教えてもらいはしたが、大ざっぱで薬の効果を考えているようには見えなかった。自分が師匠なら落第点をつけるところだ。


 薬草はギルドから買い付けているが、誰がどこで採ってきたたものかなどこだわりはない。注文した材料であれば構わず、質を確認することもなく一束いくらで仕入れてそのまま素材置き場へ。自分で素材を採取に行くことはない。店の裏には小さな畑があったものの、雑草の隙間に薬草が見え隠れしている有様で、世話しているとは言い難い。


 鍋も道具も手入れが悪い。まずはそこからだ。

 鍋の周りには焦げがついていて、頑固な汚れにはちょっとだけ魔法を使って焦げを取った。魔法はあくまで鍋の手入れだけ。薬には魔法を使っていないのでセーフだ。

 古い小さな鍋の内側には文字が彫ってあるものもあったが、削れて読めない。興味はあったがとりあえずそのままにしておいた。

 洗浄が不十分で使い回しさえ疑われる杓子やへら、トングもきれいに洗って竈の近くに吊り下げた。ひびが入っている乳鉢は買い直しを勧めたら買っておけとのこと。切れ味の悪い包丁を研ぎ、まな板代わりの石板も磨いた。

 一日がかりで道具はきれいになり、フレデリカは満足した。


 前の弟子よりまじめに働くフレデリカを見てトバイアスは満足し、正式に弟子と認定すると、フレデリカに店の準備も素材の手配も薬の下ごしらえも任せ、自分は薬作りだけをするようになった。


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