あるゲッシーの状況説明
結果的に言うと、局地的なハルマゲドンは平和裡に収束した。
主にカレンさんのおかげで。
カレンさん膝から下ろしてくれないんだもの。
左手で私のお腹を、右手で顔を抱え込んじゃうし。
私の両耳の間から顔を出して、さあやってみろ的な発言をしていた。
ルシエルさんが冷静になるというか、辟易して場は収まった。
「ええ〜、記憶を無くした上に獣人で転生ってハード過ぎない?」
ヒヨリちゃん、獣人じゃなくてゲッシーね、そこ大事だから。
「…我も冷静さを欠いていたようだ、謝罪する」
ルシエルさん、謝る時はちゃんと相手の顔を見よう?私が言えた事じゃ無いけど。
「いえ、元はと言えば私が悪いんですが、お話して良いものかどうか…」
とりあえず、3人には無難な事だけを伝えた。主に私のことだけど。
一度は話そうと決めたことだけど、迷いはある。
それによって3人に迷惑がかかる可能性も、無いとは言えないからだ。
もう最初から説明しようかと考えた時、場の雰囲気が変わった。
ルシエルさんが再び細剣を抜く。今回は瞬時に大鎌に変化する。
ヒヨリちゃんの左腕が輝くと、青白い光の丸盾が現れる。
カレンさんは私を庇うように立つ。
手には何も無いが、全身がたわめたバネのように緊張しているのが分かる。
3人がここまで警戒するなんて…、ドラゴンの群れでも来てるのか?
…私は何も感じてないんですけど。
カレンさんの後ろからそっと顔を出してみる。
何もいない…ん?あの木の枝にいるのは…猫?
わあ、猫だ。こっちの世界にもいるんだ。
白猫と黒猫だ、可愛いなぁ。なんだか嬉しくなってしまう。
私が見ているのに気づくと、黒猫がニャ!という感じで前足を上げた。
人懐っこいなぁ、こっちの猫は頭もいいのかしら?
それを見た白猫が、黒猫の額に猫パンチを喰らわす。あ、落ちた。
下枝にぶつかりながら落ちていく。「にゃ、にゃぐっ、にゃうっ」
私は思わず飛び出す。後ろでヒヨリちゃんが何か叫んでいる。
ゲッシーの素早さのおかげか、地面にぶつかる前にキャッチ出来た。
「にゃう〜…」怪我は無いようだ。ていうか君、受け身出来ないの?
別の世界の猫だからかなぁと思っていると、足元に白猫が降りてきた。
「あなたは…体を作る時は手を抜かないようにといつも言ってるのに」
しゃべった!こっちの猫は知能高いな! ん?体を作るって…
「もしかして、係長さんですか…?」私は恐る恐る尋ねる。
「こんにちは…で、良いのかしら?先ほどぶりですね」
一緒に送れない荷物がありましたので、お持ちしましたと白猫さん。
それはそれは、ご丁寧にありがとうございますと私は頭を下げる。
ちょうど良いタイミングだから、お二人に相談しよう。
この体のことも聞きたいし。…主任さんは休んでからが良さそうだけど。
「なるほど、了解いたしました」白猫さん…もとい、係長さんは言う。
「後の説明はこちらで対応いたします」
「良いんですか?その…話しちゃって」
神様はいないとか、色々不穏なこともありますけど。
「そもそもこちらの不手際が原因ですので…」
立場のあるお二人には協力をお願いすることもあるでしょうしと係長さん。
そのお二人はさっきから固まって動かないみたいなんですけど。
カレンさんは小皿にミルクとか小さいクッションとか用意しているし。
「観察者…異世界召喚マニュアル…だと」
「研修に五万年…研修に、研修に…いやぁ」
係長さんの説明で、2人はそれなりにショックを受けたようだ。
…ヒヨリちゃんは何かのトラウマを再発してしまったみたいだけど。
私はカレンさんの膝の上で、クッキーを食べている。
主任さんは私の膝の上で、私があげるクッキーを食べている。平和だ。
私は責任をパス出来たので気楽だが、ルシエルさんとヒヨリちゃんは…
なんだかげっそり疲れた顔をしている。
この世界の不公平を無くそうと頑張って調べてたんだもんね。
知らない世界の観察者に原因がとか、神様はいないとか、理解不能だよなぁ。
「と言うわけで、皆さんにはご迷惑をおかけして大変申し訳ありません」
テーブルの上にある小さなクッション、それにに座った白猫が話している。
もしもの時は協力をお願いします、と白猫、いや係長さんが締めくくった。
ささ休憩しましょ、どうせ人生なんてトラブルの連続なんですから、ね。
流石にこれ以上のトラブルは…無いよね?




