あるゲッシーのプロローグfinal
「大変だったんですねぇ」
「そうっすね、手の空いている者は全員呼び出されて大騒動っした」
軍曹さんは「やっぱ主任で」と言って新しくお茶を煎れてくれた。
今は2人でのんびり話をしながらお茶を飲んでいる。もちろんコーヒーカップで。
部長さんを介抱している係長さんが、時々恨めしそうにこちらを見ている。
主任さんはそれを完全スルーで、件の顛末を話してくれた。
問題の観察者達は全員拘束、今後は真っ当な観察者の元で研修を受けるそうだ。
希望すればその後に観察者に戻れるが、監視付きで別の世界に送られるとのこと。
「まぁ、早くて五万年後くらいっすかね、でもそれより面倒なのが」
異世界召喚の乱発により、世界を構成する物質の偏りが起きているのだそうだ。
「召喚された者にくっついてきちゃった物質が結構あるんすよねぇ」
世界を構成する物質の割合というのは結構シビアで、偏ると世界の安定に影響が出るらしい。
「大急ぎで作業して、大まか安定は確保出来たんすけどね」
主任さんは大きく伸びをする。「いや疲れましたわー」
「あくまでも大まかよ、大まか」あ、部長さんが復活した。
「該当世界の監視は継続するわ、それであなたにお願いしたいことなのだけど」
いきなりというか、やっと私の番になったらしい。
「直近の調査で判明した、不足分の物質を届けて欲しいの」
ちょっと現場に不足の資材届けて、って感じで言われると違和感がスゴイ。
そんなので異世界行っちゃって良いの?私世界を救うほど荷物持てないよね?
「あくまでも不足分だけですから」係長さんがファイルをめくりながら言う。
「それと…地球の方には認識出来ないモノがほとんどですので、問題無いかと」
なんだろう、愛と勇気とか、夢と希望とかを運ぶんだろうか。
もしそうなら、少し分けてくれないだろうか。
「あなたが向こうに到着した時点で、自然に物資の拡散が始まるから心配無いわ」
部長さんはちょっと考えてから「動き回ってくれた方が効率が良いかしらね」
部長さんはため息を吐いた。「今回のことで痛感したのよね…」
「私たちだけじゃなく、第三者の視点も必要だって、だからね」
私の感覚であちらのの世界を見て欲しいそうだ、連絡手段も用意するって。
真面目だなぁ。
「一応お聞きしますけど、お断りしたらどうなるんでしょう?」
話の流れ的に私は死んでるっぽいし、特に断る理由も無いのだけれど。
「希望があれば新たに体を作って地球で転生も可能ですよ」係長さんが言う。
「適正のある方は少数なので残念ですが…ここまでお話を聞いていただきましたので」
アフターケアも万全なんですね、じゃあ私が選ばれた理由も聞いちゃっていいかな?
「直近で亡くなった地球人で、適正のある方だったからね」
彼女達が接触を認められた知的生命体は、この世界ではまだまだ少数なのだそうだ。
ちゃんと話が出来て、これくらいの用事を頼むのにぴったりなのが地球人なんだって。
「私の神はーとか、この悪魔めーとか言わない方が適正持ちってことですかね…」
主任さんが疲れた顔で言う。なんか地球人が色々と申し訳ない。
「あくまでも強制では無いのよ?なんなら他の生命体に転生してもらっても良いし」
部長さんはこちらを気遣ってくれる。その気持ちだけでもありがたい。
「そうそう地球には将来有望な生命体がいたわよね、確かゴキブ…」
「わぁ行きます!ご依頼お受けします!むしろこちらからお願いしますぅ!」
「一応お約束ですけど、転生後の体はお気に入りのゲームキャラで良いっすね」
机の上にでかいノートパソコンをドン!と置いた主任さん、急にノリノリだな。
「そうですね、お願いします」私は苦笑する。
異世界モノ、結構読んでるんですね。一度じっくりお話ししたいなぁ。
私は大手メーカーの、いわゆる死にゲーを何年もやってきている。
あれならどこに行っても生き残れるでしょ。
一応スマホのソシャゲもやってたけど、あれも結構長かったかな?
隙間時間にやるだけだし、無課金だから関係ないよね。
…ん?なんでゲームの記憶は残ってるんだ?
「ああ、転生のために記憶の整理をしたんだけど…」部長さんは言いにくそうだ。
「ごめんなさいね、あくまでも私達の感覚なんだけど、思い出さない方が…」
え、何?なんで3人とも目をそらすの?…怖いんですけど?
「あなたの、いわゆる人生の記憶を目立たないところに片付けたというか…」
部長さんは慌てて付け加える「勝手に消去したり、改変したりはしてないのよ」
「ご希望があれば、思い出すことは可能です」係長さんが言い添える。
「落ち着いた場所で、心を強く持てば大丈夫。大丈夫ですよ、…多分」
これ以上詮索するのは危険のようだ、気にはなるが先送りでいいでしょ。
「続き、確認いきますねー」主任さんの明るい声がありがたい。
「ちょい失礼しまーす」主任さんが両手で私のこめかみに触れる。
「ふむ、1番長くプレイしたキャラはこれですね、成長と戦闘のシステムは…」
後はサクサクと進んでいった。
「よし、完了。こんなとこでしょう」主任さんは、やり遂げた!という表情だ。
場にホッとしたような空気が流れる。皆さんも同じようだ。
最後に皆でお茶を飲むことになり、四人でテーブルを囲んだ。事務机だけど。
「無理を聞いてくれてありがとう、辛くなったら言ってちょうだいね」
「いえいえ、こちらこそ。お心遣い感謝します」私は部長さんに答える。
「これから長いお付き合いになります、直接お会いできませんがよろしくお願いします」
「一緒にゲームとかしたかったけどなー、あっちには無いもんなー」
ひとしきりワイワイと話が弾む、なんか別れるのが惜しい気分なんですけど。
「愚痴っぽい話までしちゃってごめんなさいね、そろそろ時間みたいだし」
全員が立ち上がる、これでいったんお別れなんですねぇ名残惜しいなぁ。
まぁ湿っぽい別れは苦手なので、これで良いのかもしれない。
周囲が柔らかな光に包まれる、それに応じて応接室の風景がぼやけ始めた。
「本当にありがとう、あなたには感謝のしようも無いわ…」
そんな大袈裟なって…、なんで涙ぐんでるの?え、みんな泣いてる?
え、待って、それほどの依頼受けたつもり無いけど?そんな話無かったよね?
周囲が眩しいほどの光に包まれる。もう何も見えない。
「あなたのことは決して忘れない、どうかあちらで心安らかに…」
いやちょっと待って、もう一回説明を、おーい!




