あるゲッシーの追加装備
まだお昼にはちょっと早い時間、私は宿屋のベッドでゴロゴロしていた。
朝食は食堂で済ませたが、戻ってからずっとこうである。
だってやること無いんだもの。
屋外講習は合格を貰ったし、初級魔法の講義はまだだし、武器取扱の授業も終了。
講習で採取した物は精算待ちだし、雨降ってるから街に行くのもちょっと面倒。
こっちに来てからのことをぼんやり思い出していたら、大事なことに気づいた。
なんで私がゲッシーになってるのか、聞くのを忘れてる…。
いや、今となっては不満は無いんだけどね。
この体は予想以上に動くし、よく食べてよく寝れるし。
ハーレム物とかに興味無いから人間じゃなくて良いんだけど。
後から「間違ってたから交換しますね、テヘッ」とか言われたら困るし。
そう言えば連絡方法が無いから聞きようが無いのよね。貰える約束なんだけど。
係長さん達はまだ忙しいだろうし、私も別に困ってないんだよなぁ、うーん。
どうしよっかなー、いやどうしようもないよなーと思いながらゴロゴロしている。
さすがにお昼にはまだ早い。でももう食堂に行っちゃおうかしら。
限りなく自堕落な思考をしていると、窓の外で何かが動いた気がした。
目を向けると、窓の外に小さい影が二つ。見覚えのあるシルエット。
白猫は軽く頭を下げ、黒猫は右前足を上げて挨拶している。
「係長さんに主任さん…」何というグッドタイミング。
私はベッドから飛び降りると、窓を開けて2人(?)を招き入れた。
2人とも全く濡れた様子が無い。これも謎の超技術だろうか。
とりあえず向かい合ったベッドに腰掛ける。
黒猫=主任さんは私の膝に座ろうとして白猫=係長さんに怒られていたけど。
「まだ、お忙しいんですか?」私は小皿にクッキーを用意しながら尋ねる。
「いえ、それほどではありませんが…」係長さんはクッキーにお礼を言う。
「前例の無いことですから、油断は禁物、と言うところでしょうか」
早速クッキーに手を出す主任さんを見てため息をつきながら、係長さんが答える。
この世界の観察者、乱暴に例えると神様みたいな存在が色々やらかした。
係長さん達はその後始末をして、それは一段落したはずなんだけど…。
「全く予想がつかない、と言うより何が起きてもおかしく無いというのが…」
結構気疲れするんですよねと白猫さん。ふむ、お茶も貰ってきましょうか。
「いえ、今日はお約束のものをお渡ししようと…」係長さんが軽くて首を振る。
目の前の空間が淡く光ると、手の上に何かが落ちてくる。
「えーと、これは…」私はそれを見る。なんかどこかで見たことあるな?
細くて少し大きめの金属の腕輪?十字の星みたいな飾りが下がっている。
「えー、忘れちゃったんすかぁ?ホントにぃ?」と主任さん。
「結構こだわって作ったのに、悲しいっす」猫の姿で泣き真似はやめて下さい。
私はリングの部分を持ってそれを見る。十字の星形が揺れている。
「あ、これは…」私はリングを掲げると、右耳にそっとそれを掛けた。
例のスマホゲームで、私のプレイキャラのゲッシーが付けていた耳飾りだ。
「お似合いですよ」と係長さん。主任さんはどうだ!という顔をしている。
「あ、有難うございます…」少し、いや結構恥ずかしいのはなんでだろ。
首を振るとかすかにチリンという金属音がする。涼しげな音だ。
「お2人が持ってきたということは、ただの飾りでは…ないですよね?」
「はぁい!説明するニャン!」と主任さん。なんですか、ニャンって。
「お察しの通り、こちらは我々との通信機です…ニャン」
主任さんは自慢げなんだけど…そのニャンって会話にデフォルトで付くの?
係長さんがため息をつく。「どうやらこの体を気に入ったらしくて…」
あれからずっとこの姿なんだって。言葉にまで影響出てるんですけど?
係長さんによると、十字飾りの中心にある宝石が通話ボタンだそうだ。
後は念じるだけで会話というか念話?が可能だそう。説明書いらずですな。
後は健康状態もモニターしていて、そちらの管理もしてくれるらしい。
至れり尽くせりですね。ちょっと最近食べ過ぎなんでありがたいです。
「激しく動くと落ちちゃいそうなのが心配かな…」掛けてあるだけだからね。
「フフッ、その心配はありません…ニャ!」主任さんが誇らしげに言う。
なんでもリングの本体は、こちらと重なる別次元に存在するらしい。
私を座標として登録してあるので、私から大きく離れることは無いそうだ。
うん、理解不能。ニャンニャン言いながらそんな難解な話をされても困る。
とりあえず大丈夫ということは理解したから良しとしましょ。
しかし通信機2台になっちゃったんですけど、大丈夫かな?
スマホを複数持ってる営業マンとか、こんな気分なのかしら。
夜中の呼び出しとかやめてよね、と思う私なのであった。
その後係長さんと、調査の進捗について話をした。
やはりというか、新たに分かったことは無いみたいだ。
異世界召喚マニュアルがどこかに残ってるのは間違いないはず。
それでヒヨリちゃんも、勇者専用装備の回収を急いでると思うんだけど。
自称魔王とか自称神なんていうおっかない噂もあるし、あんまり気を抜けない。
まぁ今後はみんなと連絡取れるようになったし、多少安心かな。
「定期的に連絡差し上げますが、非常時は遠慮せず呼んでください」と係長さん。
「隠し機能もあるニャン、探してくださいねー」主任さん、相変わらずですね。
「了解です。冒険者としての準備はもうすぐ終わりますから…」私は答える。
「旅立つ時にご連絡差し上げますね、きっとです」
2人(?)は前足を振って窓から去っていった。
お世話になってばっかりだね、私も頑張らなくちゃ。
お昼にちょうど良い時間だし、主任さんが言ってた隠し機能も気になる。
定食を食べながら調べてみよう。私は鼻歌を歌いながら部屋から出る。
…なんか忘れてる気がするのは気のせいだろうか。
まぁいいや、食事すれば思い出しでしょ、うん。




