あるゲッシーと食堂の喧騒
「冒険者登録ですか?」
私は定食を頬張りながらシーリルさんに答える。夕方の食堂である。
「ああ、前に話した初級魔法の講師なんだが…」
シーリルさん、さっきから私の皿を見てるんだけど…お腹すいてる?
「…攻撃魔法の実習のために、登録をしておいてくれとのことだ」
魔法の講習のために登録必要なの?私は蒸した芋を齧る。
シーリルさんの話では、魔法の授業が進むと屋外で実践になるそうだ。
で、屋外で攻撃魔法を使用するには、基本騎士団の許可が必要らしい。
例外的に冒険者は、その制限から除外されているんだって。
うん、この腸詰めも美味しい。まだ熱々だし肉汁がすごい。
「まぁ卒業試験として何かクエストを受けてもらう予定だったし…」
まだ見てる。ダメですよ?この揚げ鶏の腿はお気に入りなんですから。
「でも、基本の講習全部終わってませんけど…いいんですか?」
確か野外活動の講習がまだなんだよね。うん、野菜炒めは安定の美味しさ。
「ああ、卒業見込みとして受験出来る。新人達と一緒だな」
自動車の仮免許みたいなものかな?お、この串焼きもイケる。
「……」
「…あげませんよ、自分で注文してくださいね」
「…マリベル」ちょうど通りかかった店員さんに、シーリルさんが問う。
「彼は毎回こんなに食べているのか…?」
マリベルさんていうお名前だったのね。食事に夢中で聞くの忘れてた。
「えーと。そのですね…」明らかに挙動不審です。どうしたんでしょ?
「毎回綺麗に食べてくれるので、量が足りないんじゃ無いかって父が…」
そっか、少しずつ量が増えてる気がしたけど、気のせいじゃなかったのね。
「充分食べれば大きくなるんじゃないかって言い出して…」
そりゃグレイルさんと比べれば小さいですよ。あなた大きすぎなんですから。
シーリルさんがため息をつく。「オーク並みに食べてるんだが…」
ちゃんとよく噛んでますよ?残すのは失礼ですしね。
「この体で食べすぎだろう…君も自分の体のことを考えたまえ」
それを聞いて周囲の冒険者達がざわめき出す。なんだなんだ?
「えー、串焼き完食に賭けてたんだけどなぁ」
「俺は次のシチュー完食に、今夜の酒代突っ込んでるぞ」
何してるんですかあなた達は。最近食事時賑やかだったのはそれが理由?
「こいつらは…」シーリルさんの額に青筋が浮く。ちょっと怖い。
「ま、まぁまぁシーリルさん落ち着いて、父も頑張って調理してますし…」
マリベルさん、なんか挙動不審が増してますが。気のせいじゃないよね?
「マリベルちゃん頑張れー、賭け金のためにー」
「シチュー完食しないと、君の掛け金もパーだぞー」
君も賭けてるの?!思わず彼女を見ると、超高速で顔をそらされた。
シーリルさんがブルブル震えている。あ、マズイ、これ爆発するヤツだ。
「全員そこに正座!グレイル!お前もこっちに来ぉい!」
あーあ、これは長くなるぞー。私は串焼きの最後の一本を頬張る。
「串焼き完食した!」、「腸詰め一個残ってるじゃねーか!」うるさいです。
「お前らぁ!!」シーリルさんは完全にキレたな。
私は腸詰めの最後の一個を手に取り、食堂から避難するのだった。




