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ロケット団に入らないか?

カスミは怒りで震えていた。こんなにも風変わりな(あるいは図々しい)奴に出会うなんて! 「この泥棒! 今日あたしの自転車を盗んだでしょ!」 彼女は正義感たっぷりに詰め寄った。


「人違いだ……」 サトシ(の中のレッド)は一瞥しただけで、彼女の腕を振り払い、一人で歩き続け。 (ただの当たり屋か……) レッドは自分の世界のことを思い出していた。かつて、コラッタを繰り出して自分のリザードンに突っ込ませるトレーナーが数多くいた。攻撃もしていないのに、勝手にリザードンの腹に頭をぶつけて戦闘不能になり、挙句の果てに治療費を請求してくるのだ。 そういえば、この少女も自分の世界のハナダジムのリーダーに少し似ている気がする。数年若返ったようだが。 しかし、レッドは重度の相貌失格(顔を覚えるのが苦手)だった。水着でも着ていなければ、彼女が誰なのか判別がつかない。 さらに言えば、今の自分の体がただの新米トレーナーであることも忘れていた。わざわざ新米に当たり屋をする者などいないというのに。


「あんた……っ!」 カスミはあまりの言い草に言葉を失い、去っていく背中を指差してプルプルと震えていた。彼が遠くへ行ってからようやく我に返り、慌てて後を追った。 (警察に突き出してやるんだから! すぐ隣にジュンサーさんがいるんだからね!)


…… 夜のポケモンセンターには、トレーナーの姿はまばらだった。サトシがロビーに着くと、入り口に焼け焦げた自転車が転がっているのが見えた。 「誰だ、こんなところに魚の干物を置いたのは?」 サトシは首を振ってそれを跨ぎ、近くにあるパソコンへと視線を向けた。それが彼の本当の目的だった。


「頼む……」 静かな声の中に、わずかな祈りが混じっていた。 サトシの額からは汗が滴り、震える手でパソコンを開き、ポケモンの預かりシステムを選択する。


『サトシのパソコン』 『レッドのパソコン』


二つ目の名前を見た瞬間、サトシの魂が昇華するかのような感覚に陥った。これほど興奮したのはいつ以来だろうか。 セキエイ高原のチャンピオンルームで、たった3分間だけチャンピオンだったグリーンを叩きのめした時以来かもしれない。 彼がその項目をクリックし、見慣れたポケモンたちが整然と並んでいるのを見た時、サトシは歓喜で叫びそうになった。


「……」 しかし今の彼は寡黙なレッドだ。言葉もなく画面を見つめるその瞳は、すでに潤んでいた。 自分がゲームのキャラクターに過ぎないと知っても、これらのポケモンたちは最も大切な仲間であり、彼らへの想いは本物だったからだ。 もし自分が不可解な転生を遂げ、仲間たちが別世界で永遠に消えてしまうというのなら、彼はその場で「だいばくはつ」して消えてしまいたいほどだった。


「……よし」 迷いなく、彼はその中から一匹のポケモンを選んだ。転送装置の電流が走り、サトシの手の中に一個のモンスターボールが現れた。


「来い……」 肩に乗っているピカチュウと瓜二つのポケモンがロビーに現れた。しかし、こちらの個体は毛色がわずかに濃く、その体からは熟練者特有の圧倒的なオーラが漏れ出していた。 百戦錬磨の「電気ネズミ」だ。 ベテランのピカチュウは目を開け、新しい環境に適応するかのように周囲を興味深く見渡した。


「ピカ?」 それを見たサトシのピカチュウが飛び降り、新しいピカチュウと視線を交わすと、背を向けて尻尾をコツンと合わせた。 (こいつ、めちゃくちゃ強い先輩だ……!) 尻尾を合わせただけで、サトシのピカチュウは目の前の個体が「とんでもない大物」であることを理解した。


そこへ、遅れてカスミが到着した。ロビーの光景を見て、彼女は思わず目をこすった。 「えっ、なんでピカチュウが二匹いるの……?」 それとも、もう「かげぶんしん」のような高度な技を覚えたのだろうか? だとしても、自転車泥棒の罪が消えるわけではない。カスミは怒りに任せて足を踏み鳴らし、正義の三段活用を叩き込もうと歩み寄った。


…… 「ガシャーン!!」 その時、ガラスの割れる音が響き渡った。ポケモンセンターの天井を突き破り、三つの影が空から舞い降りた。着地と同時にキメポーズをとる。 一人は赤い髪の女、一人は青い髪の男。胸に「R」の文字が刻まれた制服を着た、どこかの大企業の優秀な社員(?)のようだ。 そして、二本足で立つ奇妙なニャース。


「何者よ!?」カスミが反射的に叫んだ。 すると、その言葉がスイッチとなったかのように、三人組が即座に起動した。機関銃のように、どこかで聞いたような口上が飛び出す。


「なんだかんだと聞かれたら!」 「答えてあげるが世の情け!」 「世界の破壊を防ぐため!」 「世界の平和を守るため!」 「愛と真実の悪を貫く!」 「ラブリー・チャーミーな敵役!」 「ムサシ!」 「コジロウ!」 「銀河を駆けるロケット団の二人には!」 「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」 「にゃーんてな!」


広いポケモンセンターに、沈黙が流れた。空気が凍りついたかのようだった。 全員が黙り込む中、サトシ(レッド)が「パチ、パチ、パチ」と手を叩き、その気まずさを破った。 (この世界の人間はみんなこうなのか? 誰かに会うたびにパフォーマンスアートを披露する決まりでもあるのか?) ならば自分も郷に入っては郷に従い、登場シーンのセリフでも考えるべきだろうか。さもなければ、自分が「無知なよそ者」だとバレてしまうかもしれない。 レッドは真剣にそんなことを考えていた。


「坊や、なかなか見どころがあるじゃない!」 「どうだ、我らロケット団に入らないか?」 ムサシとコジロウの中で、この少年の評価が爆上がりした。


「ロケット団……?」 サトシは独り言を漏らした。彼のゲーム世界において、ロケット団は彼がたった一人で壊滅させた悪の組織だった。ボスのサカキでさえ、彼の敗北者の一人に過ぎない。 (この世界にもロケット団があるのか? 別の世界にまでチェーン展開しているというのか?)


「やっぱりあんたたちね! 人のポケモンを盗んで回る泥棒グループ!」 カスミが正義感あふれる表情で糾弾した。ロケット団の指名手配書は、入り口に貼ってあったのだ。彼女はさらに皮肉を込めて付け加えた。 「自転車泥棒よりタチが悪いわ! そう思わない、ピカチュウのトレーナーさん?」


サトシ:「???」 (自転車が盗まれたならジュンサーさんのところへ行けばいいだろう。なぜ自分を当たり屋に巻き込もうとするんだ……) (やはり、よそ者だということがバレているのか……?)


サトシが沈黙していると、ロケット団が会話を引き継いだ。 ムサシは胸を張り、誇らしげに言った。 「我らロケット団を、その辺のケチな泥棒と一緒にしないでちょうだい!」 コジロウも筋肉を見せつけるように胸をさすりながら、からかうように言った。 「くすくす、この黄色い髪の小娘は、まだ体も出来上がっていないくせに、我ら偉大なるロケット団を侮辱するとはね!」 ニャースも爪を立て、威嚇するような表情を浮かべた。 「俺たちをなめるなよニャ、小娘!」


「あんたたち……っ!」カスミの顔は再び怒りで赤くなった。口喧嘩では少し分が悪い。 それにしても、あのコジロウという男は変態なのだろうか? なぜさっきから胸の筋肉を揉んでいるんだ?


「さあさあ、大人の仕事の邪魔をしないでちょうだい」 「ここにはたくさんのポケモンがいるはずだ。全部捕まえて、ロケット団の戦力にさせてもらうぜ」 ロケット団の面々は、モンスターボールが保管されている場所を探して周囲を見回し始めた。


カスミは素早くサトシの背中を押した。 「ピカチュウのトレーナー! 早くあいつらをやっつけなさいよ!」


サトシ:「???」 正直、彼はただの傍観者でいたかった。他人の体を借りている身としては、観察するのが最も適切なはずだ。


「おや、見どころのある坊やが邪魔をする気か?」 「気に入っていたが、邪魔をするなら容赦はしないぜ」 「たかが二匹の電気ネズミだニャ。電気ネズミに何ができるってんだニャ?」


元々、レッドは関わらないつもりだった。しかし、ピカチュウを馬鹿にされることだけは許せなかった。 彼の眉間にしわが寄り、静かな怒りが込み上げてきた。 何と言っても、彼は筋金入りのピカチュウファンなのだ。


(……なら、試してみるとするか。この世界のバトルがどんなものか)


(一度きりだ)

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