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お前は誰だ?

誰だ!?」 突然響いた声にサトシは飛び起きた。しかし、あたりをいくら見渡しても自分一人しかいない。 あ、それと隣には、まるで魚の干物のように無残に焼け焦げた自転車が一台転がっていた。


「そうだ、これ誰の自転車だっけ?」 サトシは、緊急事態でその辺にあった自転車を勝手に拝借したことは覚えていたが、元の持ち主が誰だったかについては……。 全く心当たりがなかった。 そういえば、川の近くで凄くかっこいいギャラドスを見た気がする。戻って確認してみようか?


一方、レッドは霧がかかったような不思議な空間の中にいた。そこからは、この奇跡のような少年の思考が手に取るように伝わってくる。 しかし、次々と湧き出る突拍子もない考えに、レッドは頭が痛くなるのを感じた。普通の人間は、こんなにも思考が二転三転するものなのだろうか? 放っておけばこの少年の思考はどこまで迷走するか分からない。レッドはついに口を開いた。


「ポケモンセンターだ」


その声にサトシは再びビクッとした。能天気な彼も、ようやく我に返った。ホウオウの癒やしは万能ではない。今一番すべきことは、ポケモンセンターへ行くことだ。 もし将来、ピカチュウがリウマチのような後遺症に悩まされることになったら大変だ。 幽霊に憑りつかれたかどうかはさておき、サトシは**「虹色の羽根」**を懐にしまい、ピカチュウを抱え上げると、がむしゃらに走り出した。 目的地は分からない。ただ、ホウオウが飛び去った方向へと突き進んだ。


…… ……


トキワシティのポケモンセンター。サトシはピカチュウをジョーイさんに預けた。 当てずっぽうに走っていただけなのに、いつの間にか森を抜け、大都会にたどり着いていたのだ。 その後、ジョーイさんの案内で、サトシはポケモン図鑑を使ってトレーナー登録を行った。これで、ポケモン連盟が提供する「ポケモンセンターの施設利用無料」「治療費無料」「宿泊無料」といった、トレーナー限定の無限の恩恵を受けられるようになる。 ポケモンセンターは全国、いや全世界に展開する一大チェーンブランドなのだ。


ほどなくして、包帯を巻かれたピカチュウが運ばれてきた。幸い、大きな怪我はなかったようだ。 ジョーイさんいわく、あのまま連れてくるのが遅れていたら、ピカチュウが「自力で治る」のを待つしかなかったという……。


「ピカッ!」 ピカチュウがサトシの肩に飛び乗ると、サトシの胸に誇らしさがこみ上げてきた。ようやく本物のトレーナーになれた気がして、彼はニヤニヤしながらピカチュウの頭を撫でた。 泥だらけの自分の姿を見て、サトシはポケモンセンターの裏にある宿泊部屋で一風呂浴びることにした。 しかし、ふと近くの公衆電話が目に入り、彼はそこへ歩み寄った。


…… 「はいはい、サトシのママよ」 電話が繋がり、ハナコの声が聞こえてきた。 サトシは自慢げに言った。「母ちゃん、俺、トキワシティにいるんだぜ」 「あらサトシ、なんでそんなに泥だらけなの?」 「あ、ああ、トキワシティはさっきまで大雨でさ、通りかかった車に泥を跳ね飛ばされたんだよ」


サトシは正直に話さなかった。包帯だらけのピカチュウも素早く隠した。もしハナコに見つかれば、また小言が始まるに決まっているからだ。 「あんたは本当におっちょこちょいなんだから、気をつけなさいって……」 案の定、ハナコの説教が始まった。しかし、ふと思い出したように彼女の顔に誇らしげな笑みが浮かんだ。


「でも、一日でトキワシティに着くなんて本当に凄いわね。昔、あんたのお父さんはトキワシティに着くのに何日もかかったのよ」 サトシはきょとんとした。父親の記憶なんて、もう長いこと頭の隅にもなかった。 「とにかく、お父さんやおじいちゃんを超える立派なトレーナーになりなさい。頑張って、サトシ!」 そう言って、ハナコは電話を切った。


サトシは受話器を置き、風呂へ向かおうとした。振り向くと、ポケモンセンターの壁紙に4体のポケモンのレリーフが彫られているのが見えた。 3体は鳥ポケモンで、そのうちの1体が、先ほど出会った極彩色の鳥に少し似ていた。 (あのオニドリル、外の世界じゃそんなに有名なのか?)


「プルルル……」 隣の電話が突然鳴り出した。あたりを見渡しても誰もいないので、サトシは恐る恐る受話器を取った。 画面に映し出されたのは、白衣を着た白髪の老人。真面目そうな表情の中に、どこか抜けたような雰囲気がある。 サトシに最初のポケモン、ピカチュウを授けたオーキド博士だ。


「おお、サトシ君か。お母さんからもうトキワシティに着いたと聞いて、電話したんじゃよ」 サトシは得意げに頷いた。 「ふむ、元々あまり期待はしておらんかったが、数打ちゃ当たるというものか。とにかく、君が活躍すればするほどワシの顔も立つというものだ……」 相変わらずのオーキド節に、サトシは電話を切りたい衝動に駆られた。


「ところで、ポケモンは何匹捕まえたかね?」 サトシはギクッとして、何とか絞り出した。「今のところ、一匹……かな?」 オーキド博士の表情は一瞬で、驚くほどの速さで落胆の色に染まった。 「やはり君はただの小物だったか……」


サトシは慌てて反論した。「でも、不思議なオニドリルを見たんだ! この壁にあるマークにそっくりなやつを!」 「ただのオニドリルじゃろ……。ここに描かれているのは超特別なポケモンだ。君のような初心者が遭遇するなど、あり得な……」 言い終わる前に、オーキド博士は目を見開き、口をあんぐりと開けた。目玉が画面から飛び出しそうな勢いだ。 サトシが、証明するためにあの虹色の羽根を取り出したからだ。


「本当に凄くかっこいいオニドリルだったんだ。ちょっとハゲてたけど。これはそいつが落とした羽根だよ」 オーキド博士:「!!!」 画面越しにでも、その神聖な輝きが伝わってくる。極彩色の光を放つその羽根は、普通のポケモンのものとは比べ物にならないほど特別だった。 (この小僧、本当に伝説のポケモンに出会ったというのか!?)


オーキド博士の表情が再び、さっきの3倍の速さで変わった。 「サトシ君、君はいい子だねぇ。どうだ、その羽根をワシのところに郵送して見せてくれんか……」 「あ、あー、電波が悪いみたいだ! 先に切るぜ!」 サトシは空を仰いで話し中のふりをして、そのまま電話を切った。 このサトシ様を甘く見るなよ! そう思いながら、彼は虹色の羽根をしまい込み、今度こそ風呂へと向かった。


…… ……


彼が去った直後、オレンジ色のショートヘアの少女が、魚の干物のような自転車を抱えて入ってきた。彼女はあたりをきょろきょろと見渡したが、目的の人物が見当たらない。廃車同然の自転車を床に投げ捨てると、憤怒の表情で奥の扉へと向かった。 理由も分からず自転車を奪われ、干物のようにボロボロにされたとなれば、仏の顔も三度までだ。 「ピカチュウを連れたあのトレーナー、絶対に許さないんだから!」 カスミという名のその少女は、心の中で固く誓った。


…… 夜。サトシとピカチュウは泥のように眠っていた。 トレーナーとしての最初の夜。彼は崩れ落ちるように眠りにつき、実に行儀の悪い姿勢で幸せそうに眠っている。隣のピカチュウも同じだ。絆を結んだばかりの二人は、寝相までそっくりだった。


突然、サトシがゾンビのようにムクッと起き上がり、虚ろな表情で自分の手を見つめた。 「ピカッ!」 隣にいたピカチュウが小さな頭を上げ、警戒心むき出しでトレーナーを見つめた。頬からは黄色い電気火花が散っている。 ポケモンは人間とは違う鋭い感覚を持っている。サトシの外見は変わっていなくても、ピカチュウは鋭く察知していた。 (この人間は、いつもの能天気な飼い主じゃない!)


レッド:「……」 その時、サトシの体に不可解にも取り込まれ、その肉体を制御していたのは、レッドだった。レッドは目を閉じ、周囲のすべてを感じ取り、肌をなでる空気の感触を確かめた。以前とは違う感覚。自分がかつて「架空のキャラクター」に過ぎなかったことを、改めて実感させる。 だが、このサトシという少年もまた架空の存在であり、自分はより高次元のフィクションの世界に来ただけなのだろうか?


「ピカッ!」 隣からの唸り声が、レッドの思考を現実に引き戻した。目を開けると、ピカチュウが牙を剥いて彼を睨みつけていた。 レッドもピカチュウを連れていた。このポーズをするとき、ピカチュウは攻撃態勢に入っていることを彼は知っている。


「害はない……」 動じることなく、レッドは微笑み、ゆっくりと手を伸ばしてピカチュウの頬に触れた。ピカチュウの敵意は、その手の下で次第に消えていき、そっとレッドの手のひらを舐めた。 ポケモンには特別な感覚がある。人間の善悪を察知できるのだ。少なくともこの人間には、悪意はない。 レッドは「電気ネズミ」の扱いには慣れていたが、本物のポケモンに触れるこの魔法のような感覚は、彼にとって新鮮だった。


「これが、本物のポケモンか」 そう言って、レッドはピカチュウを抱き上げた。 もしサトシが突然目を覚ましてこの光景を見たら、血を吐くかもしれない。彼は命がけでピカチュウの信頼を勝ち取ったというのに、見知らぬ他人が一瞬でピカチュウを「寝取って」しまったのだから。


「少し歩こう」 レッドがピカチュウの顎の下をくすぐると、ピカチュウは理解したように彼の肩に飛び乗った。二人は静かに部屋を出た。 この状態がいつまで続くか分からない。今のうちに、本物の世界をしっかりと見ておきたかった。


不運にも、部屋を出た瞬間に向かいの扉も開き、オレンジ色のショートヘアの少女が出てきた。 二人の目が合う。カスミは一瞬で爆発し、虎のような鋭い目で睨みつけ、大声で怒鳴った。


「あたしの自転車を盗んだ泥棒、ついに捕まえたわよ!」


しかし、相手は自分に一瞥もくれず、そのままポケモンセンターの出口へと歩いていく。カスミはその光景を呆然と見送った。


「ちょっと! 待ちなさいよ!」 目の前で自転車を盗まれたことよりも腹が立つのは、盗んだ本人が平然と自分を無視したことだ。 カスミは素早く追いかけ、レッドの服を掴もうと手を伸ばした。


「カチッ!」 だが、彼女が触れる前に、レッドは片手を伸ばして彼女の手首を掴んでいた。 レッドが首を巡らせる。その瞳には感情がほとんど宿っておらず、ただ近寄りがたいほどの強烈な冷気が漂っていた。彼は淡々と問いかけた。


「お前は、誰だ?」


カスミ:「???」 (24時間も経ってないのに、しらばっくれようっていうの!?)

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