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「し、しっかりして下さい、だめ、だめだよ、ねえ、目を開けてー」
名前も知らないスーツの男性に呼び掛ける
返事が返ってくる事はなかった
「やっと、やっと、生きてる人に会えたのに」
蓮華の頬から涙が落ちた
梨々花にしろ、他の人にしろ、蓮華が目を覚ました時には既に亡くなっていた
目の前で誰かの命が尽きたのは、はじめてだった
「私、何も、出来なかった・・・」
無力感が襲ってくる
「なのに、私に“ありがとう”って」
お水のお礼だったのかもしれないが、最期の言葉に胸が詰まる
「助けられなくて、ごめんなさい」
傷の手当ても、痛みをやわらげてあげることも、何一つ出来ない
ただ水を飲ませてあげただけだった
名前も知らない男性の最期に心が痛くなった




