09 ヴァレリアの強さ
翌日の村内での農作業の手伝いの時だ。
瑠理香とヴァレリアは互いに、巨体に見合った怪力ぶりを存分に発揮していた。
さしづめ人間重機と呼んでいいほどだ。
「ヴァレリアって凄いパワーよね。」
瑠理香が畑の隅に埋まっていた巨岩を掘り起こし、軽々と引き抜いた。
「ルリカ様こそ。」
そう言いながら、ヴァレリアは反対側の隅で巨木の切り株を抱えて根こそぎ引き抜いている。
どちらも、男衆が10人がかりでもビクともしなかった代物だ。
『ヴァレリアちゃんもルリカ様と同じくらいでかいけど、どっちがつええんだべな?』
この誰かのひとことで、瑠理香とヴァレリアが腕相撲対決をすることになった。
村の力自慢の男衆(この前瑠理香に5人がかりでぼろ負けしたが)や、騎士団の力自慢の団員も集まり、巨大な岩を挟んで向かい合ったふたりの巨女の周りに瞬く間に人だかりができる。
当然ヴァレリアも、騎士団の中でも無敵の怪力娘である。
「本気で来なさいよ。」
瑠理香が巨岩の上にズンッ!と肘を乗せる。
「当然です。負けそうになったらおっきくなってもいいですよ。」
ヴァレリアが笑顔で挑発しながら、巨岩の上に肘をズズンッ!と乗せる。
両者が手を握って、団長の合図で腕相撲が始まった。
「やるじゃない、さすが怪力自慢ね。」
「ルリカ様こそ、でも、まだまだこれからですよっ!」
ヴァレリアの肘がミシッ!と巨岩に食い込み、腕が瑠理香の方に傾き始める。
「フンッ!」
瑠理香が気合を入れて、また腕の位置が中立の位置に戻った。
一進一退の攻防がどのくらい続いたのだろう。
額に汗を滲ませながら瑠理香が笑顔を見せた。
「そろそろ勝負つけようか。」
「望むところですっ!」
ビシミシッ!!
ふたりの怪力巨女のパワーがお互いだけではなく、肘を乗せている巨岩にも襲い掛かり、巨岩が敢え無く悲鳴を上げてしまう。
ビキビキッ!!!
巨岩に複数の亀裂が入る。
と、次の瞬間、粉々に砕けてしまった。
支えを失ったふたりの腕は自身のパワーと重力に引かれ、巨体もそのまま前のめりになった。
ゴォッツゥゥンッ!!!
初めて会った時と同じ、いや、数十倍の破壊力でふたりの額が激突した。
「あたま割れるかと思ったよぉ・・・」
「私もですぅ・・・」
揃ってペタンと座りながら額をさすっているふたりの勝負は、結局つかなかった。
数日後、瑠理香とヴァレリアは超特大足跡の中を散策していた。
何回か見慣れたせいか、ヴァレリアも超巨大足跡の破壊力の凄まじさに慣れてきたようなので、この日は中を見て回ってみようということにしたのだ。
足跡の中には様々なものがペシャンコになって張り付いている。
殆どは森の木々がへし折られ、砕かれて地面にめり込むようになっているのだが、時折違うものを見つけることができる。
瑠理香とヴァレリアは赤黒く変色した地面を眺めていた。
「凄いですねぇ。ペッチャンコの鎧や兜が散乱してます。ざっと30人といったところですかね。」
「何が言いたいのかな?」
「いやぁ、さすがに私の体重じゃあ無理かと思いまして。」
ヴァレリアが可愛らしく舌を出した。
さらに歩みを進めると、何やら動くものを見つけた。
「動物?魔物?」
「魔物、みたいです。どうしますか?」
瑠理香の問いかけに、ヴァレリアは目を細めて動くものを見つめている。
オオカミのようなハイエナのような群れが30匹はいるだろうか?恐らく地面に張り付いた遺骸の臭いに釣られて集まったのだろう。
「ちょうどいいや、ヴァレリアの魔法の強さ見たかったんだよね。」
「わかりました。」
ヴァレリアが一歩進み出た。
ヴァレリアが両手を前に出して掌を上にすると、やがて火球が両掌の上に浮き上がった。
「初級魔法のファイアボールです。普通の魔力だと一匹を火だるまにするくらいの威力です。」
「へぇ、魔法ってそんな感じなんだ。」
まともに魔法を見るのが初めてだったので瑠理香が感心した声を上げる。何しろこの前はあまりにも魔導士が小さすぎて魔法とか全くわからなかったのだ。
それに、自分もウルトラヒロインに変身すれば光線技とか出せると思うけどでかくなるだけだもんなぁ。とでも思っていたかもしれない。
「じゃあ、いきますね。」
ヴァレリアが両手のひらの上に浮かせた火球を魔物の群れに投げつけた。
ヒュンッ!
・・・
ドォォォンッ!!!
「ふえっ!?うあっつぅっ!」
火球が落下した場所を中心に巨大な火柱がふたつ噴き上がり、熱風が瑠理香に襲い掛かった。
「こんな感じで魔力も馬鹿力なんですぅ。」
可愛い子ぶってしれっと言い放つヴァレリア。
いやいや、馬鹿力っていうレベルじゃないだろ!
「加減間違えると森とか焼き尽くしちゃうんですよね。」
「いや、それって充分にチートだと思うよ。私が巨大化してもやけどしちゃいそう。」
巨大火柱が収まった跡に動くものは何も残っていなかった。
その後何となくだが隣村の先にある、この前瑠理香が敵の侵入を阻止するために指一本で作った大峡谷まで行ってみることにした。
「ほえぇ~・・・これ、ルリカ様が指でなぞった跡なんですか?」
「そうだと思うけど・・・我ながら凄い破壊力だよねぇ・・・」
ふたりの目の前には、高さ10m以上あろうかという巨大な土手が見渡す限り伸びていた。
「私の魔法なんかショボいもんじゃないですか。」
「まあ、ここまででかくなったらね~。」
ふたりは土手を登って頂上に立ってみる。幅10m以上、深さも20m以上ありそうな巨大な溝がはるか向こうまで伸びていた。
「これなら歩兵はともかく騎馬は越えられないね。」
瑠理香は満足そうだ。
「でも、こちらからも攻め込めませんね。」
「ん?どういうことかな?」
ヴァレリアの『しまった!』という表情を瑠理香は見逃さない。
「い・・・いえ・・・なんでも・・・」
「ふぅん、じゃあここで巨大化しておもちゃにしてあげようか?今日はこれを作った時の大きさでいいかなぁ。」
そんなとんでもないサイズの大巨人におもちゃにされたら、100%擦り潰されるに決まっている。
「実は、団長からはどうにかルリカ様に隣国に攻め込んでもらえないか、工作するように言われてるんです。」
ああ、あの団長ね。
「守りはするけど攻めるのはちょっとなぁ。守るだけでも大虐殺だったじゃんかぁ。っていうか、団長って野心家なの?」
「はい、否定はしません。だからルリカ様を手元に置いておきたいんです。」
だよねぇ。で、ヴァレリアがメイド兼お目付け役としてくっついてるんだ。
「こっちから攻め込むことは無いよ。また来たら考えるけどね。騎士団で攻めるならご自由にどうぞ。止めないけど手伝わないから。」
「そう仰ると思ってました。」
「それよりさぁ、お腹すかない?」
「はい、ちょっと・・・」
「じゃあ、帰ろうか。」
ふたりは来た道を引き返していくことにした。
「ん?」
土手を降りて少し歩いたあたりで、土手の向こうから馬の蹄の音がかすかに聞こえる。
偶然かはわからないが、あちらさんも偵察を送り込んできているようだ。
「ねえ、ヴァレリア」
「何でしょう?」
「今の国境ってあの溝の向こう側?」
「はい、そうですけど、それが何か。。。」
「さっきの話、ちょっと考えとくわ。」
「本当ですか?団長が喜ぶだけですよ。ルリカ様って団長のこと鬱陶しがってるように見えましたけど違うんですか?」
「ウザいよ~。だから、内緒にしておいてくれる?行くんだったらヴァレリアだけ連れてくから。」
「はぁ・・・」
ヴァレリアは瑠理香の真意を図りかねてしまった。




