08 ヴァレリアのこと その1
「ルリカ様、おはようございます。」
「ふにゃっ?・・・のぅわっ!」
聞きなれない声をかけられて目を開けた瑠理香の眼前に、ブロンド美少女の顔面ドアップが飛び込んできた。
「ちょ・・・ビックリさせないでよぉ・・・」
「申し訳ありません。何度かお声がけしたのですがまったく起きず、至近距離で囁いてみようかと思いまして・・・」
巨体をメイド服に包んだヴァレリアがポッと頬を赤らめた。
それにしても朝から凄い量が食卓の上に鎮座している。
山積みになった大量のロールパン、特大サラダボールふたつ分の野菜サラダに、ソーセージとベーコンまでてんこ盛りになっている。さらにおばちゃんが『ごった煮スープ』と呼んでいるミネストローネっぽいスープまである。ざっと30人前分くらいはありそうだ。
「ねぇ、おばちゃん、いっぱい食べられるのは嬉しいけどお金とか大丈夫なの?」
昨日まではせいぜい2人前くらいの量だったが、それでも食費を渡さないとだよなぁ。と思っていたのだ。
「大丈夫だよ。騎士団からヴァレリアちゃんの分も一緒にたんまり頂いたから。」
「はぁ、まあそういうことなら遠慮なく。いただきま~す!」
ふたりの体格に見合った豪快な朝食の時間が始まった。
瑠理香はヴァレリアの食いっぷりの良さを見て、少し意地悪をしたくなった。
「ねぇヴァレリア、ここにはメイドとして来たんだよね。」
「はい。」
ヴァレリアは早くもサラダを平らげようとしていた。
「なんで、食事の支度も手伝わずに私と一緒になって食べてるの?」
「ちょ、朝食の支度は私の仕事です。わかってます。やろうとしたんです。本当です!でも・・・」
ヴァレリアの目が思い切り泳いでいる。
「あ~、あたしが作っちまってたからね~。あたしから見たらヴァレリアちゃんもお客さんだからね。」
おばちゃんが援護射撃をしてくれたが、瑠理香は容赦ない。
「じゃあ、明日から早起きして手伝いなさい。あなたは『お手伝いさん』として来たんだから」
「はいぃ・・・申し訳ありません。」
それでもヴァレリアはロールパンを3つほど纏めて口に放り込んでいたが。
朝食後、瑠理香は色々と考えるところがあり出かけることにした。
「付いて来たかったら付いて来なさい。」
とヴァレリアに言ったら、「もちろん付いて行きます。」と即答したので同行している。
それにしてもでかいなぁ。と思ったのでちょっと聞いてみた。
「ねぇ、ヴァレリア。身長、体重、スリーサイズを教えてくれる?」
「え?なっ、なんでですかぁ?」
自分のでかい胸を抱きしめて、ジト目で瑠理香を見つめてくる。
「エロいおっさん見るような目で見ないでくれる?私と同じくらいでかい子って珍しいから聞いてみただけよ。」
「身長は、226cmです。体重は・・・ひゃくはちじゅう、キロです・・・」
「身長は2cm差だけど体重は20kgも重いんだぁ。」
瑠理香が少しニヤッと笑ったのをヴァレリアは見逃さなかったらしい。
「あ~、笑いましたよね。私のことデブって思いましたよね!それ、セクハラですよ!言っときますけど重たいのは胸にいっぱい肉がついてるからですっ!バスト160cmありますから!」
「私より20cmもでかいのかぁ!凄いなっ!」
瑠理香の顔つきが完全にエロいおっさんそのものになる。
「女神様ってもっとこう、毅然としているという感じだと思ってたのに、ずいぶん違うんですね。」
「だから、女神じゃないって。まあいいや、後で教えてあげる。お、そろそろ森だね。」
ふたりはそのまま、一部の木々が不自然に消えている森に近づいて行った。
「ほぇ~っ!すっごい崖ですねっ!これってルリカ様の足跡ですよね。どんだけ重いんですか?」
さっきの意趣返しとばかり、ヴァレリアがにやけ顔で訪ねてきた。
「どんくらいだろ?鎧つけてても踏んだらペッチャンコになると思うよ。それよりちょっと実験するから待っててくれる?」
瑠理香はそう言うと断崖絶壁を飛び降りた。
「ちょっと離れててね~っ!」
ヴァレリアに声をかけて瑠理香は大きく深呼吸をした。
ウルトラヒロインの変身には種類がある。通常時からの変身は30倍の巨体になる巨大変身と身体のサイズは変えずにウルトラヒロインの恥ずかしいコスチュームになる通常変身の2種類だ。
通常変身と言っても早着替えだけではない。身体能力がかなりアップするのだ。
「通常変身だとどうなるかな?」
そう呟いて、変身ポーズを取る。
『変身っ!』
巨大変身と同じように斜めに下げた両腕を同時に上げて胸の前でクロスさせる。ポーズに違いはなく、ただ変身時の脳内イメージが違うだけだ。
通常変身なのに視線がどんどん上がっていくのがわかった。
瞬く間に崖の頂上を通り過ぎ、間抜けな顔で呆けているヴァレリアを見下ろしていく。
終わったかな?そう思って瑠理香は下を向いてみた。
崖の高さは腰のあたりくらいだ。そこに指の長さほどの身長のヴァレリアが突っ立っている。
「なるほどねぇ。」
巨大変身すると900倍の大巨人になり、通常変身で30倍の巨人になってしまうみたいだ。
「る・・・ルリカ様って、やっぱり女神様なんですね。」
瑠理香を見上げてヴァレリアがなぜかうっとりした顔で見上げている。
「巨大化できるだけだよ。」
「その能力だけで立派な女神様です。私なんかこっちの世界に来ても魔力が強いくらいだし・・・」
ん?今なんて言った?こっちの世界?
瑠理香はヴァレリアを軽く掴んで目の前まで上げてみた。
軽く握った拳から首から上が生えているように見えるほど小さくて可愛い。
「どういうこと?ヴァレリアも異世界から来たの?」
ヴァレリアの目が泳ぐ。わかりやすい子だなぁ。
「えっとぉ・・・」
「言わないとこうしちゃうぞ!」
軽く手を開いて掌の上にヴァレリアを横たえ、可愛く盛り上がった胸元に親指を軽く押し付けて少し揉み回してやった。
「あ・・・ひゃうっ・・・る、ルリカひゃま・・・ちょ・・・やめ・・・」
必死に身体をよじって悶えているけど瑠理香の親指はビクともしない。
「やっぱでかいんだねぇ。このサイズ差でもよくわかるもん。」
と瑠理香はさらに圧を強めて全身を揉みしだき始めた。
数分後、崖下に座っている瑠理香の掌の上では、ヴァレリアが四つん這いで肩で息をしていた。
「ひっ、ひどいれすぅ・・・揉み潰されるかと思いましたぁ。」
「じゃあ、正直に答えなさい。さもないとぉ!」
瑠理香が笑顔で、ヴァレリアに向かって親指を折り曲げた。
「いっ、言いますよぉ!そうです。私も転生者ですぅ!」
ヴァレリアの話を要約するとこんな感じだ。
ヴァレリアが転生したのは、8歳の時だった。前の世界はこの世界とあまり変わらなかったので、意外とすんなりなじんだらしい。
王都の近くのそれなりに大きな街の孤児院に保護されたのだがそこでそのまま成長し、14歳の時に魔導士として騎士団に入団して2年になる。
「ってことは今16?ってことは同い年?」
「え?ルリカ様って16なんですか?年下かと思ってました。」
「いやいや、ヴァレリアが色っぽすぎるんだけど・・・でもさぁ、そのガタイでなんで魔導士なの?」
「そこなんですよねぇ・・・」
実はこの巨体にとんでもない怪力なので、ヴァレリア自身も戦士か格闘家なら採用してもらえると思って応募したのだが、魔力量がとんでもなく多かったらしい。
「なんか、賢者の魔力量を軽く超えるらしいです。確かに威力は凄いんですよね。森を消し炭にしちゃったり湖を丸ごと凍らせちゃったりして怒られますけど。調節が苦手なんです・・・」
私のチートが巨大化だとするとヴァレリアのチートは魔力かなぁ。
瑠理香はそう思わないではいられなかった。
「まだ聞きたいことあるけど、今日はそろそろ戻ろうか。」
瑠理香はヴァレリアを崖の上に戻すと、自身も変身解除してヴァレリアの横に降り立った。
「あの、ルリカ様?」
「なに?」
歩き出した瑠理香が振り返ると、ヴァレリアがモジモジしている。
「あの、また・・・弄んでください、ませんか?」
「はぁ?な~に?感じちゃったの?」
ヴァレリアが恥ずかしそうに頷いた。
「あんな、おもちゃにされるの、初めてで・・・」
そりゃこの巨体だもんなぁ、人間をおもちゃにすることはあってもなかなかおもちゃにはされないよね。
「いいけど、私、スイッチはいると責任持てないよ。」
そうは言ったが、瑠理香の顔は結構面白いおもちゃが手に入ったと少し嬉しそうだった。




