07 専属メイド現る
第17騎士団長と名乗る男が瑠理香に面会を求めて来た。
面倒くさいなぁ・・・と思うが、わざわざ王都からお越しいただいたのだ。無下に断ることも出来ない。
面会場所は村長宅の応接室。仕方が無いという顔で、瑠理香は村長宅に向かって行った。
途中で見かけた騎馬兵たちが全員馬を降りて頭を下げているのを見かけて、もの凄く嫌な予感がした。
まさかだが、すでに国中が女神扱いなのだろうか。そして、その予感は応接室に入った瞬間に的中する。騎士団長殿がご丁寧にも跪いて出迎えてくれたのである。
「面会をご許可いただきありがとうございます。女神ルリカ様。」
やっぱりそう来たかぁ・・・
「いえ、私は女神などではなく、ですね。」
「いえいえ、道中で拝見した神々しいお姿は、一生の宝でございます。何卒、我が国に秩序と平和をもたらしていただきたく。」
もう面倒くさいから女神ってことでいいか。瑠理香は半分やけくそ気味である。
「で?私にご用というのは?」
「ははっ!これはまだ私の一存なのですが、王都にご降臨賜りたいのです。」
「あのさ、巨大な私の姿見たって言ったよね。あのでかさで王都に行ってうっかり足を滑らせたら何人死ぬと思う?数百、いや、数千人踏み潰しちゃってもいいの?」
団長は唸ってしまった。そりゃそうだ。事故というものは往々にして突然起きるのだ。1000倍に巨大化した超デカ女がこけそうになったのを見て、さっと手を伸ばして助けられる人間なんぞいるはずがない。
「で・・・では、王都から少し離れた場所でお披露目されるのはいかがでしょう。」
「はぁ?それって私に見世物になれって言ってる?お断りだわ。」
「ではっ、ではっ・・・」
「とにかく却下!私はこの村ととなり村を守る義務があるの。王都になんか行かないから。」
怒った(ふりをした)瑠理香は、早々に部屋を後にしてしまった。
瑠理香はそのまま長老のところへ今後のことを相談しに行った。のだが・・・
「ルリカ様の思し召しのままに。」
深々と頭を下げられてしまう。
これってアレだよね、好きにしていいってことだよね。瑠理香は少し考え込んでしまった。
(どうしたもんかなぁ・・・いっそのこと国境に近い村に移った方がいいのかな?でも、村の人、絶対ビビるよなぁ・・・しかも、みんな初対面だから打ち解けるのに時間がかかりそうだし・・・)
なんて考え事をしながら、瑠理香はあまり前をよく見ていないで歩いていた。
ゴツンッ・・・
「ふぇっ・・・」
おでこに何か当たってきたようだ。視線を上げる瑠理香の目の前には同じように額をさすっているブロンドヘアの女の子の顔が見える。目の前に顔があるということはほぼ同じ身長のでか女ってことか。
しかし、相手の方がダメージが大きかったようで、そのまましゃがんだはいいが、バランスを崩して尻もちをついてしまったようだ。
「ちょっとぉ!どこ見てんのよっ!痛いじゃないっ!」
騎士団所属の魔導士服に身を包んだ、瑠理香とあまり変わらない年頃のブロンドヘアの女の子が、地べたに座り込んで大声を張り上げていた。
「私もあんまり前見てなかったけどさ、貴女も見てなかったでしょ?お互い様じゃない?」
瑠理香が少し呆れた顔でしゃがんで手を差し伸べた。
「何言ってんのよ!図体がでかいんだからちょっとは気を使いなさ・・・い?って、でかい女?え?あれ?ってことは・・・」
何かに気付いたらしい。女の子は尻もちをついたままズルズルと数m後ずさり、正座の姿勢になる。
「申し訳ありませんでしたぁっ!」
あぁ、気が付いたか・・・瑠理香はそんな顔をして女の子を見下ろした。
「まぁ、お互いでかいし、不注意だったからね、気をつけましょうね。」
瑠理香が大人の対応でその場を収めようとしたのだが、そうもいかなかったようだ。
「女神様に対し奉り、大変失礼な言動。どうか、どうか罰をお与えくださいっ!」
「いやいや、罰とか与えるほどのことじゃないし・・・」
そこかしこから野次馬が集まって来た。
『女神様の天罰ってどんなのだ?』『またでっかくなって踏み潰すとかか?』『それ、村丸ごとペッチャンコだべ!』
とまあ、好き勝手言っているのが聞こえてきて、瑠理香はため息をつく。
「もう、騎士団に戻りなさい。罰は今度会った時までに考えておくから。」
メチャメチャ面倒臭そうな顔で、瑠理香はこの場を強制解散させた。
その日の晩、瑠理香が居候しているおばちゃんの家のドアをノックする音がした。
「はいは~いっ。」
おばちゃんがドアを開けると、メイド服を着た長身の女の子とその子の肩まで届かないほどの身長の騎士の格好をしたおっさんが立っている。おっさんが小さいというよりも女の子がでかいようだ。
ドア口が見える場所で呑気にお茶を飲んでいた瑠理香が吹き出しそうになった。
昼間会った騎士団長と、ぶつかった女魔導士だったからだ。
「女神ルリカ様に上奏いたしたいことがあって参った。失礼する。」
返事も聞かずにズカズカと入り込み、ふたり揃って瑠理香の前に跪いた。
「この度は、このヴァレリアめがルリカ様に対し奉り大変失礼なことを申し上げたと聞いております。どうか、ご寛恕いただきたくお願いに参上いたしました。」
あ~、きっと野次馬から騎士団にバレたんだね。それにこんなにでかい女なんかさすがに滅多にいないだろうし。
「気にしなくていいって、怒ってないし。それより、なんでこの子メイド服なんか着てるの?何かの罰ゲーム?」
「いえ、女神様の身の回りのお世話をする者を騎士団にて選抜しておりましたが、この者がお詫びも兼ねてお仕えしたいと申しまして連れてまいりました。どうかおそばに置いていただきたく。お前もご挨拶せんか!」
団長がヴァレリアに向かって叱責する。
「第17騎士団所属、魔導士のヴァレリアと申します。昼間は大変失礼いたしました。誠心誠意お仕えいたしますので何卒お願い申し上げます。」
「では、私はこれで、失礼いたします。」
団長は逃げるようにして足早におばちゃんの家を後にした。
とりあえずこのままじゃ、らちが明かないよなぁ。
「ヴァレリアちゃんだっけ?とりあえず座ったら?おばちゃんがお茶淹れてくれたしさ。」
「はい、失礼します。」
ヴァレリアが瑠理香の前に着席してお茶に手をつける。
(魔導士服の時も思ったけど、この子スタイルいいなぁ。しかも胸でっかいし美人だし)
なんてことを考えながら、瑠理香は全然違うことを口にする。
「で?騎士団の仕事はどうするの?」
「ルリカ様にお仕えするのがこれからの私の仕事でございます。」
キッと見つめられて答えられてしまった。
「とりあえず今夜はもう遅いし、寝ようか。仕事どうするかとかは明日話そ。」
「どうするかねぇ、余ってる寝床は無いんだけど。」
おばちゃんが少し困惑していた。
「問題ありません。床などで寝るのは慣れています。」
「いやいや、そうはいかないでしょ。何なら一緒に寝る?」
「ベッドが壊れるからそれはやめて頂戴。」
瑠理香の提案はおばちゃんによって秒で却下された。
それはそうだろう。瑠理香ひとりだってギシギシミシミシ言っているのに、同じくらいの体格の女がもうひとり寝たら間違いなくベッドが壊れてしまう。
「大丈夫です。お気になさらずに。」
そう言ってヴァレリアは平然とお茶をすすっている。騎士団に戻る気は無いようだ。
(とりあえず明日考えるかぁ。)
瑠理香は今夜のところはヴァレリアを追い返すことは諦めることにした。




