05 変身、じゃなかったけど・・・
やっぱりダメか、まったく姿が変わらない。
しかし、瑠理香に迫っているはずのゴーレムの姿が見当たらない。それどころか、その向こうの2体のゴーレムも森の木々も視界から綺麗さっぱり消え去っていた。
何が起こったのか整理しよう。そう思った矢先、左足のつま先に何かが当たった感触がした。なんだろう?と思って下を向くが何もない。いや、なにか小さいものが足先に転がっているようだ。
(なに?これ・・・石ころが勝手に動く?)
ゆっくりとしゃがみながら手を伸ばし、その小さなものをそっと摘まんで、目の前まで上げてみる。
色や形が何かに似ている気がする。なんだっけ?思いを巡らせていると、その小さなものがもがくように動こうとしている感触がした。
「へ?生きてる?ってことはこれって・・・」
左掌にそれを落として目の前まで上げて観察してみると、たぶん横たわっていたはずのそれがむっくりと起き上がろうとしていた。
サイズは2cmといったところだろうか。でも、これは間違いなくゴーレムだ。なんでこんなに小さいのだろう?変身だってしていないのに・・・ひょっとして、まさか・・・
瑠理香は視線を足元の少し先に移してみた。そこにあったのは掌に乗せているものと同じものがふたつ並んでいて、その近くには黒くて小さな粒々がたくさんあり、左側には芝生が一面に広がっていた。
芝生?いや、これはたぶん森だ。ということは・・・
「巨大化だけしたってこと?」
視線を村の先に移すと、ところどころくぼんでいるところがあり、それは足跡のようにも見える。つまり、夜中に変身できるか試した時に巨大化だけしていたということだ。
それにしても、どれだけでかくなったんだろう?普通に変身できたとしてもせいぜいゴーレムの3倍程度のはずだが、どう見てもゴーレムの100倍はでかい。
「考える前に片付けるか。」
瑠理香は右手の人差し指を丸めて左手の上のゴーレムに近づけ、ビシィッ!弾き飛ばすと、哀れなゴーレムは瞬時に木端微塵になって破片を周囲にまき散らした。
そのまま、右手を伸ばして2体を摘まみ上げると、クシャッ!と一瞬で捻り潰して粉砕した。
(あとは盗賊だね)
しかし、眼下の黒い小さな粒は混戦状態で見分けがつかない。どうしようか考えていると、やがて黒い粒が森の方に移動していく様子が見えた。
(勝ち目無しとみて逃げ出したか)
だが、どう見ても森に向かっている数が多い。村人が追撃してる?そう思ってそっと声をかけてみた。
「村の人、追いかけないであとは私に任せて。じゃないと一緒に踏み潰しちゃうよ。」
ちょっと脅してみたが効果はてきめんだったようだ。黒い粒の一部の動きが止まり、村の方に引き返していくのが見えた。
バキバキバキバキィッ!!!
ズゥッズゥゥゥンッ!!!
瑠理香はでか足で、森の中の盗賊が逃げ込んだあたりを踏みつける。
森の木々数十本を纏めて踏み砕き、さらに地面まで踏みつけた衝撃は周囲に巨大地震を引き起こす。
たった1歩でとんでもない大破壊だ。
(まあ、そうなるよねぇ・・・)
恐らくゴーレムがあの大きさということは、少なくともいつもの変身のさらに30倍は巨大化しているはずだ。ってことは900倍に巨大化していることになる。
(身長2000mオーバー、足のサイズは300mオーバーかぁ、そりゃこのくらい余裕で踏み潰せるわ。)
妙に納得して、左足も右足の横に揃えて森を踏み潰し、さっきと同程度の被害をもたらしていく。
これで幅200m以上が綺麗に整地された訳だ。
瑠理香はそのまま悠然と森を見下ろすと恐ろしい宣言をした。
「このまままっすぐすり潰してくからね。死にたくなかったら必死に逃げなさい。」
さらに冗談などでは無いことをわからせるために、右足を半歩分前に出して踏み潰し、次いで左足も同じように半歩分前に出した。
これで、敵の一団が潜んでいてもうっかり跨ぎ越してしまうことは無いだろう。
(さて、後はどうすっかなぁ。このまま歩くだけでオーバーキルだし・・・ん?)
足元で何かがチカチカ光っているように見える。
何だろう?と思って、瑠理香はしゃがみながら右手を伸ばして、右足のつま先付近で光っていた辺りを指で囲うようにして地面に突き刺すと、そのまま地面ごと摘まみ上げてみた。
「これって、魔導士とかそんな感じのやつ?」
目の前まで上げると、地面や爪楊枝にもなりそうにない倒れた大木に塗れて何匹かこびとが居ることに気がついた。
耳をそばだてると、「物理障壁が、」とか、「火炎魔法が、」とか聞こえる。
摘まみ取った数十m四方にもなる広大な地面を左手の上に乗せて、もう少し注意深く観察すると、やはり敵のこびとのようだ。結構な人数がちまちましている。
なんだかとっても小さな火球やら矢やらを瑠理香に向けて飛ばしているようだが、全く届かない。
「懲りないなぁ。逃げれば助けてやろうと思ったのに。」
瑠理香が左手に向かってフッ!と軽く息を吹きかけると、小さな塵のようなものが飛び散って、手のひらからの攻撃がピタリと止んだ。
(吐息だけで全滅とか・・・やっぱ、オーバーキルだわ。)
少し呆れてしまった瑠理香は、左手に持っていたただの土くれをポイッと投げ捨てた。
(こうやってても仕方ないしなぁ。踏み潰すか。)
瑠理香は右足を少し上げて、足のサイズ分移動させて軽く踏み下ろす。
バキバキバキッ!ズゥッズゥゥゥンッ!!
木々をへし折り踏み砕き、地面を踏みしめて地響きを起こすが人間を踏み潰した感覚は無い。
たぶん、あまりにも小さすぎるのだろう。
左足でも同様に森を踏み潰し、それを交互に何回か繰り返すと森の反対側の端まで到達した。
森が切れたところから、沢山の砂粒が出てきてちまちましている。
(なんだぁ、やっぱ逃げてたのか。さて、どうするかなぁ。)
こびとたちが逃げていく方を見ると3歩ほど先に小さな街のようなものが見えた。
(あれが、占領された村かな?)
瑠理香は逃げまどっている小さな砂粒を数十単位で踏み潰しながら、小さな集落に近づいていった。
目の前で立ち止まりゆっくりとしゃがみ込み、しばし観察してみる。
村の中から大量の砂粒が外に出ていくのが見える。しかし、大量の砂粒とは違う方へ逃げているものもある。これはひょっとして・・・
「村の人は村に帰ってくれるかなぁ。」
声をかけると案の定、別方向に動いている砂粒の動きが緩くなった。
「私、コオリヤ村から来たの。だから、村の人の味方だよ。」
しばらく待っていると、砂粒の動きが変わって来た。村に戻っていくようだ。
敵もあらかた逃げ去ったようだ。
(今日はこれくらいで勘弁してやるか。あとは、簡単に攻めて来れないようにしとくかなぁ。)
瑠理香はもうひと仕事を簡単に済ませると、コオリヤ村に戻っていった。




