03 コオリヤ村にて
「お~いっ!おねえちゃんがめぇ覚ましたぞぉ!」
耳から微かに入るそんな声で瑠理香は目を覚ました。陽は高く昇っており、どこかの地面の上に横たわっている。
すると、突然視界に入った見知らぬおっさんの顔!しかも、西洋系の顔立ちのおっさんだ!しかし、話している言葉はなぜか日本語。
「へ?いっ・・・」
寝起きで全く状況が飲み込めない瑠理香におっさんが畳みかける。
「大丈夫かい、おねえちゃん。しっかし、あんなとこから落っこちてたから死んじまってたかと思ったよ。どっか、痛いとこはないかい?」
あんなとこ?座り込んだままで真上を見上げると、そこは断崖絶壁だ。しかも高さは30mはくだらない。ふつうの人間なら死んでるか運が良くても骨の2~3本は逝ってるだろう。
地球人離れした強靭な肉体だからかすり傷程度で済んだということか。
そんなことをボーっと考えているうちに、おっさんの呼びかけに応じたのか人がわらわらと集まってきた。老若男女種々雑多である。ただ、身なりは作業着というかそんな感じのもの。顔立ちは総じて西洋系。
ところが、話している言葉は翻訳装置を使わなくても理解できる。つまり日本語だ。
「あ・・・の・・・ここって、どこですか?」
一瞬の静けさ、そしてそれを打ち破るようなおばちゃんの豪快な笑い声が響く。
「な~に言ってんの?コオリヤ村に決まってるでしょ。」
コオリヤ村?聞いたことないし。ってか、日本じゃないの?海外まで吹っ飛ばされたってこと?
「そんなことよりアンタ、大丈夫なんかい?あっこから落ちたんだべ?」
「はあ、まあ何とか」
「頑丈だねぇ。魔物だって飛べない奴は大怪我すると思うけどねぇ。」
今なんつった?魔物?魔物ってなに?
だが、その質問をぶつける前に、瑠理香はおばちゃんの機関砲のような口撃を喰らってしまった。
「何にせよ村に戻ろうかね。おねえちゃんも歩けるんだったらついておいで。あっち側はそんなに深くなってないから登れるし、村もあっちの方が近いからね。」
言われるままに立ち上がると、周囲がどよめくのがわかった。
ああ、またでかい女と思われてるなぁ。という感覚はどこに行っても変わらないらしい。
窪地の中を歩くこと十数分、だんだんと傾斜が付いてきてほとんど段差が無くなって地上に到達した。が、昨夜みた景色と変わらない。違うのは目の前に村らしきものが見えているくらいだ。
「しっかしおねえちゃん、でっかいねぇ。どんくらいあるんだい?」
並んで歩くと肩まで届かないほどの身長差だ。でも、度量衡の単位ってどうなんだろう?
「えっと・・・7フィート6インチ、です。」
敢えて欧米式に答えてみた。が、おばちゃんの顔にはてなマークがいくつも浮かび上がる。
「7ヒート?6インキ?なんじゃ?それ。」
違うか、「いや、228cmって言ったらわかりますか?」
するとおばちゃんの顔からはてなマークが消えていく。
「お~っ!やっぱでかいねぇ。こう見えて私もかなり大きい方なんだけどね。171cmだからさ。」
確かに女性としては大きい方だが、馬鹿でかい瑠理香の肩にも届かない。学校でもそうだったから別にいいんだけど・・・
というより、なんか西洋風の顔でバリバリの日本語を話すギャップが・・・瑠理香が笑うのを我慢したのは言うまでもない。
村に着くなりおばちゃんの家に案内され、とりあえず食事と風呂に入るように促される。食事中はずっとおばちゃんの口撃の餌食だった。
だが、そのおかげで色々な情報を得ることができた。ここはシマナ王国という国の外れにあるコオリヤ村、ここから先は山の方に入ると山賊と魔物の巣窟がそれこそ履いて捨てるほどあるらしい。
「あ、それ。魔物ってなんですか?お化けみたいなもの?」
おばちゃんは一瞬キョトンとした顔になった。
「魔物も知らんのけ?ひょっとして、おねえちゃん、異世界から来なすった?」
異世界?そう考えれば辻褄が合う。でも、本当にそんなことがあるのだろうか?いやいや、ウルトラヒロインだって地球人から見たら異世界人みたいなもんだし。
「そうかも知れないですねぇ。」
それだけ答えると、おばちゃんはそんなことはどうでもいいとばかりに、今度はこの世界の話を嫌というほどしてくれた。王族のゴシップもひっくるめて。
どうも、おばちゃんという生き物はどんな世界であれ、この手の話は大好物なようだ。
村の人たちのご厚意で滞在すること3日。小さな村なので瑠理香のことを知らないものはいないほど有名人になってしまった。
何しろ228cmの身長は長身を通り越している。それはこの世界も同じらしい。村のほとんどのおばちゃんは瑠理香の巨大な胸と会話するようなものなのだから。
しかも、力の強さも並外れていた。元々がウルトラヒロインなのだから変身しなくても並みの男では全く歯が立たないほど強いのだが、この世界ではその差がさらに広がってしまったような気がする。
大の男が5人がかりで瑠理香と腕相撲をしても、瑠理香が軽く勝ってしまうのだ。
発端は瑠理香が畑仕事の手伝いを買って出た時の働きぶりが凄まじかったからだ。並みの男なら持ち上げるだけでも一苦労する一抱えもありそうな大きな根菜を簡単に地中から次々に引っこ抜く姿は、
村中の力自慢の男たちの目を丸くさせるのには充分だったらしい。
その中に、女には負けられないと力比べを挑む者がいても至極当然の成り行きだった。
瑠理香に挑むだけあって男の方も身長は190cm近くあり、鍛え抜いた肉体は筋肉の鎧をまとっているようにも見える。
勝負は腕相撲で行うことになった。
だが・・・男が必死に組んだ手を倒そうとしているのだが、瑠理香は平然とした顔で組んでいる手を眺めているだけだ。
「あのさ、それって本気?」
顔を真っ赤にして渾身の力を込めている男に辛辣なセリフを浴びせる。しかも、次のひと言で男のプライドはズタズタにされてしまった。
「もう、両手でもいいよ。」
それを聞いた男は顔をさらに真っ赤にして、「ざっけんなっ!」と叫びながら左手も使って瑠理香の腕を倒しにかかるが、それでもビクとも動かない。
やっぱり、向こうの世界より弱いんだ。そう思いながら瑠理香は違うことを周りで勝負の行方を見守っている男たちに声をかけた。
「もうさ、何人でもいいからかかってきなよ。」
そこまで馬鹿にされては黙ってられないとばかりにひとり、またひとりと瑠理香の腕に食らいついていくが状況は全く変わらない。
ようやく5人目が瑠理香の手にしがみついて必死に押し倒そうとしたあたりで、瑠理香も何となく力の差が分かったようだ。
「あと5人くらい平気かなぁ。じゃあ、力入れるから怪我しないようにね。」
笑顔でそう言った次の瞬間、瑠理香の腕がゆっくりと動き出した。5人の男たちが必死の形相で押し戻そうとするが、全く相手にされていないように女の子の腕が男たちをゆっくりと押し倒していく。
「はい、おしまい。」
笑顔のままで腕を完全に押し倒すと、しがみついていた全員が勢い余って投げ飛ばされてしまったのだった。




