8月8日 本当の私 月岡朝陽
放課後。
私は茶道部の部室でただ無心にお茶を点てていた。
そんな時だった。
「大丈夫…?」
遠慮がちに尋ねてくる声にはっと我にかえる。
「あ、えっとごめん何…?」
慌てて返事を返す。
すると彼女_月島遥ちゃん、はほっとしたように可愛らしい笑みを浮かべて続けた。
「さっきからぼーっとしてたみたいだから心配になっちゃって…でも大丈夫そうだね。」
「うん、大丈夫。心配かけちゃってごめんね。」
そうして返すとにこっと控えめに笑い彼女は友達である深山凪ちゃんのところへ帰っていく。
「結局言えなかったの!?」
遠くで話す凪ちゃんの声が聞こえてくる。
「凪ちゃん…だってー…。」
続いて遥ちゃんの声も聞こえてくる。
「ちょっと私が代わりに聞いてあげるからついてきなさいよ!」
凪ちゃんが少し怒ったような口調でそう言い、私の方へ近づいてくる。
「えぇっちょっと待ってよー…」
遥ちゃんがてくてくとついていく。
私に何の用だろう…?
「月岡さん。最近部室に来る頻度下がってるよね。部活動の日は指定されてないし、いつきても自由だから別にいいんだけど、遥が何かあったのか心配だから集中できないって言ってるのよ!」
強い口調で私を問い詰める凪ちゃん。
「えぇっと、あの、違くて、最近運動部の助っ人に入ってるの、よく見かけるから、大変なのかなって、あの、分かってるんだけど、えっと…」
そうやってフォロー(?)を入れる遥ちゃん。
「あ…ごめん。最近試合立て込んでて。来週くらいからは前と同じ頻度で来れると思う。」
申し訳ないな…
「別に全然いいの!あの、バスケとかしてる朝陽ちゃんもかっこいいけど、お茶点ててるときの朝陽ちゃんが素敵だなって、勝手に思ってて、私が、茶道部の朝陽ちゃんを見たいなっていうだけ、だから。」
遥ちゃんが早口でまくしたてる。
「あ…ありがと。」
視界が滲む。
頰が熱くなり、涙が一滴流れるのを感じる。
茶道部では誰かの役に立ったりしない、自分1人でやってる…のに。
運動部の助っ人じゃない_誰かの役に立っているわけでもない私を、認めてくれる人が、いたんだ。
「わわっえっだ、大丈夫?ご、ごめん…」
「は!?別に責めたわけじゃないんだけど!」
2人が慌てているのが視界の端に映る。
「ごめん…嬉しくて…」
と言うと2人はほっとしたように笑みを浮かべた。
「まあ、よくわかんないけど良かったわね。」
辛辣にそう述べて去っていく凪ちゃんと、てくてくとついて行く遥ちゃん。
これからは私も、ちゃんと自分の気持ちに向き合おう。