7月23日 コトバ 黒崎夏海
「なつみんっおたおめー!!」
教室に入ると一番に聞こえてきたのは玲奈のそんな声だった。
「ありがと。」
「誕生日祝いってことで、今日の放課後、新しくオープンしたパンケーキ屋さんに行かない?」
ハイテンションな玲奈が尋ねてくる。
「いいねー!ていうかそれは玲奈が食べたいだけでしょ。」
笑いながら返事を返す。
「ばれたか…」
くっ…と流行りのアニメキャラのミームを交えてリアクションする玲奈。
玲奈はいわゆるインフルエンサーで、SNSのアカウント登録者数は30万人を超える。
圧倒的ビジュとスタイルの良さ、そして投稿する写真の構図や光などのセンスで絶大な人気を博している。
更に顔が良すぎて何をしていても可愛いのだ。
流石にチート過ぎる。
玲奈と他愛もない会話をして、区切りがついたところで私は「ちょっとごめん、」といって急ぎ足でお手洗いに向かった。
先ほどから腹痛を感じていたためトイレの個室に駆け込む。
うぅ…
誕生日だからって調子乗って朝ご飯食べすぎたからかな…。
「それでさぁ…」
ん?
トイレの外から玲奈の声が聞こえる。
誰かと話しているみたいだ。
トイレの鏡で前髪なんかを直したりしながら話す女子はよくいるから別に珍しくもない。
気にも留めずに腹痛と戦っていると、
「まじあいつウザいんだけどぉー。」
またも聞こえる玲奈の声。
いつもとは違う雰囲気。
「親同士が仲いいだけで私はべつにあいつみたいな芋くさい女とつるみたくないんですけどー。」
え…?
玲奈ってそんなこと言う子だっけ…。
アイツって誰の事…?
「やばー。いっつも仲良くしてるくせにぃ。そんなの聞いたら夏海ちゃん泣いちゃうよ?」
キャハッと笑いながら返事をするクラスメイト。
う、そでしょ…
玲奈、私の事そんな風に思ってたんだ…。
「私がこんなに絡んであげてるのにいっつもすました感じで自分が馬鹿みたいに思えてくるんだよね。」
「それは完全に夏海ちゃんが悪いわw」
嘲笑するクラスメイト達。
彼女たちと鉢合わせるのが嫌で私は結局その休み時間が終わるギリギリまで個室から出られなかった。