6月20日 自己犠牲 月岡朝陽
「朝陽ちゃん、今度の大会も出てくれない?」
「え、」
今うちが話してるのはバスケ部の香澄先輩。
バスケ部の、大会に出る予定だった部員の子がけがをしたから今回だけ代わりに出てほしい、と頼まれて先週の試合に出た。
その部員の子のけがはもう治っているとのことやったし私が出る理由はないはずやのに…
「お願い!うちの部はこの間朝陽ちゃんがいてくれたおかげで勝ち上がれたといっても過言ではないし」
両手を合わせて必死に頼んでくる香澄先輩。
「でも、うちがいなくても宮高のバスケ部は十分強いやないですか…」
宮高は何回か中体連でメダルを取ったこともあるくらいやし。
「ねえそれならいっそ、バスケ部に入らない?朝陽ちゃんならエース狙えるよ?」
な、なんでそうなる…
「うち、茶道部入ってるんです。いくら茶道部の活動頻度が低いって言っても兼部するのは流石に無理です。ごめんなさい。」
言いながら頭を下げる。
茶道部とバスケ部の兼部っていうのもアンバランスな感じやから。
このままずっと私が助っ人として出るのも違うだろうし。
断るのが正解のはず。
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「朝陽ー!パス!」
「はい!」
ちゃんと断ったはずなのになんでうちは今バスケの試合に出てるんやろうか…
あの後香澄先輩に「今回だけでいいから!」って長々と説得されて断れなかった。
断れなかったうちも悪いけど…
「ナイス!朝陽さすが!」
運動は嫌いじゃないし、いろいろ考えていてもいつの間にかシュートを決めていた。
うち茶道部なんやけどね…
「ハーフタイムだよ、休憩しよ。」
ぼーっとしてしまっていたうちに香澄先輩が話しかける。
自販機で買った栄養ドリンクを飲み、体育館に戻る。
うち、何をしてるんやろう…
何をしたいんやろう…
_
試合が終わり、もちろん宮高が勝って、そのまま解散になった。
「じゃあね、朝陽ちゃん。今回はありがとう。」
「はい。さようなら。」
鞄を背負い、家へ歩いていく。
ピコン♪
LINEの通知音が鳴る。
スマホの画面を確認すると、電話がかかってきてた。
「はい、月岡です。」
「あ、月岡ちゃん?」
電話の相手は里桜ちゃんだった。
「あのさ、もし月岡ちゃんが良ければ次の試合出てほしくて…」
また…
「はいっ、わかりました!何日ですか?」
にっこりと笑みを浮かべ、対応する。
_私は通話を続けながら、考える。
私は、誰かの「一番」になれたことがあるのかな。
いつも都合のいい「助っ人」で、試合の事とか以外でLINEがきたことってなんかいあるんだろう。
((だめだな、こんなこと考えるなんて。))
私のおかげでみんなが笑顔になれているんだから満足しないと。