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番さんいらっしゃーい

君が僕の番なんだと言いながらサンバカーニバル。

作者: あかね

出オチです。討ち死にしてます。

 世に獣人は多数いる。今の日本国内の人口比で言えば、30%程度。残りの20%に妖精種がいる。その残りの30%が純人。その他、混血種やら単一種などを含めて20%を埋める。

 獣人と純人の人口分布はほぼ同じなのだが、その立ち位置は違う。獣人は人類発祥の最初から暴虐と知恵で成り上がり世界の支配者を長くやっており、人口を著しく減らした時点でそこまでの圧倒的権力は手放したものの今もって権力者であることは変わらない。さらに人口も増えて盛り返してきてるし。

 純人はその下で増殖力だけで残っていたので現在も結構底辺となっている。

 人権が強化されている昨今でも、


「君が僕の番なんだ」


 と言われた瞬間に純人は人生終了のお知らせが発生する。番、お断り無理。囲われて一生そこにいる感じ。自由意志認められない、どころか、まあ、幸運ねと獣人にねたまれる。わぁ、たのしいなぁという……。


 獣人すべてが番を見つけられるというわけでもなく交通事故にあう程度の事故っぷりである。……そう、意外とあるんだ。親戚の誰かがさーという話が。

 狭い地域で生きているうちは、番も見つからず平穏に暮らすらしいけど、世の中が発達しすぎて、テレビやらネットの向こうやらで、見つけてしまったりするらしい。


 世界のどこにでも行けるようになって発生したある種不幸である。


 そんな降って湧いたような不幸が、私に訪れるとは思っていなかったのである。


 早朝、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。ここ玄関が施錠されているタイプのマンション。一階でインターフォンを鳴らさず入るのはできない。他人が開けたのに便乗することも可能ではあるので緩いセキュリティなのだが。

 宅急便でも頼んだっけ?

 なんて思いながら、玄関あけたら、いた。

 でっかい羽根つきのお兄さんが、にこやかな笑顔で。


 え、誰?

 見たことのない男性が玄関に。


「おはようございます。

 遼子さんですね?」


「は、はい」


 見知らぬ男が私の名前を知っている。

 え、ホラー?

 いきなりのホラー展開?


 面倒で玄関のスコープ確認しなかった私が悪かったのか。


「テレビで拝見しました。

 あなたこそが僕の番なんです」


 ……。

 そう言えば、半月前くらいにインタビュー受けたなぁと遠い目をした。


 早朝パジャマということで、着替えに一度引っ込んだ。そういういいわけで、窓から逃げて……。無駄な努力だけど時間稼ぎ……。

 と虚ろな目で三階から外を見た。

 窓の下には人だかりがあった。

 なんか朝日にキラキラしてる。ラメだ。ラメな衣装がキラキラしている。


「はぁ!?」


 住宅地に忽然と姿を現したのはサンバの一団だった。


 え、なに? なんで? とぐるぐる回る疑問符。手元にあったスマホで検索する。

 鳥系獣人、サンバ、と。

 意外と簡単に出てきた。


 求愛行動。


 先ほど、番で、と言われた。

 つまり、マジな、求愛のための準備が、サンバである。なんなら、カーニバルでもやるのかという人数で!


 純人の感覚で言うとあり得ない。狂気の沙汰。だけど、鳥系獣人の普通らしい。愛情表現、激しめだから注意しろ、やつらはすぐに脱いで踊りたがる! 意味が分からないが、それがいつしか可愛く見えてくる謎の中毒性が!

 他、歌うヤツいる、光る石貢がれた、突っつくのが愛情と思っている、など多種多様な求愛行動が羅列されている。

 そして、最終的にそれが可愛く見えてくるので安心しろ、で締められていた。


 なんなんだお前ら。抗えよ! 運命に!


 その中で、一つ異彩を放つコメントがあった。

 鶏むね肉すごいです。


 とりむね。おいしーよねーとふと思って、頭を振った。ダイエットと筋肉のお友達を思い出している場合ではない。

 逃げ場なし、先達はなんか絆されている、謎の胸筋推し……。


 私の人生、詰んでると諦めて着替える。そして、ふと思い出して、実家に連絡した。拉致監禁よくあるらしいし、今のうちに連絡しとかねば。


「あー、お母さん? あのなんか番に選ばれたって」


「ああ、なんかさっき、相手方のご両親がご丁寧にごあいさつにきたわよぉ」


 ……すでに、手を打たれていた。愕然とする私に、母が言うには普通に挨拶だけだったらしい。そのうえでうちの息子が迷惑をかけるのですみませんと。

 私にも、求愛するまで落ち着かないので、聞くだけ聞いてやってください、と伝えてほしいと。


 普通に良い人かと思ったけど、テレビで見かけただけの私の家を見つけ、実家にまで行きと考えるとぞっとする。やっぱりホラーだ。

 実家を押さえられているというと逃げ先もなく。


 つむつむ。

 現実が。

 かわいそう、私。と言ったところで何も変わらないので、根性入れて外に出る。


 やっぱり、サンバカーニバルだった。


「あなたのそばに置いていただきたい」


「ん?」


「飼ってください」


「んん!?」


 なんか、違くないか? 首をかしげる私を放って、彼は上着を脱ぎ棄てた。

 ……。

 むねにく。

 理解した。


 うっかり私よりありそう。ごりっぱです。そうか、鳥系って羽を動かす都合上、胸筋発達……いや、背中に翼、じゃなかった!?

 彼の両手はもう鳥そのものでかっこつけてる。足も鳥の足で。

 ビキニじゃなくてちゃんと服着ててよかった。うん。ハーフパンツでもいい。


 じゃなくて。

 近所迷惑と止める前に大音声が響く。


 踊りに全く興味のない私でも、あ、すごいっすね、というものだった。汗が爽やかに散って。


「いかがですか」


「あ、はい。よ、」


 良かったというと受けたことになるのではないか。一度、こう、断る方向で。


「求婚は受けませんが、良かったです」


「ペットでもいいです」


「……ペット不可物件なので無理です」


「お引越ししますか。お好みの家をさがして、住みましょう」


「え」


「一棟買っちゃって、好きな部屋に住んでいいですよ。じゃあ、そういうことで!」


「そういうことじゃないっ!」


「お金は用意します」


 ぐらついた。魅惑のお金。


「生活費も払います。どうですか、ぐうたら生活」


「そ、それは」


 できるなら、働かずに、生きたいな。

 読み人知らず。


 逃げられないのならば好条件を引き出して、なんか、全部、いい感じになるんじゃないだろうか。私の捕らぬ狸の皮算用を見越したように彼はにっこりと笑う。

 無邪気そうで、下心ありな私、灼けそう。

 いやいや、相手が番と無茶言っているんだから、私悪くない。生きてただけで、交通事故に当たったみたいなもんだ。

 そもそも色んな情報勝手に入手している時点でグレー。

 お金に負けたりなんか……。


「旅行も行けますよ。お仕事辞めても遊んで暮らせますよ」


 ダメ人間になるための誘惑がやばい。どうしよう。

 ……。


「お友達から始めましょうっ!」


 妥協点はここだ。いきなり番と言われて受け入れる気はない。私はチョロい女ではないんだ。

 お金にかなりぐらついていたのは棚上げしておく。


「わかりました。嬉しいので踊っていいですか?」


「やめて」


 残念そうな顔の獣人。君は鳥ではなく実は犬とかではないか。そういう表情してるぞ。ご主人、俺なにかやっちまいましたか、って顔。

 犬派なんだよな。私。


 とりあえずお引き取り願った。あんな大騒ぎしたのにご近所から何事かと顔を出すものがいないのもホラーである。事前に手回ししてたってことだろ。怖い。

 部屋に戻って、どうしよと天を仰ぐ。


 ……。

 仕事、行こう。私、社畜。日々のお金稼ぎをして自立して楽しくやる女。安易なお金に目がくらむとろくなことはない。

 自由には自分のお金がいる。


「あー、でも、三食昼寝付きはちょっといいなぁ」


 というぐうたらさが、番、いいじゃんと言い出している。

 ちょっと試して嫌ならやめるができないんだから、慎重にしないとなぁ。まあ、最終的に番として連れていかれるんだろうけどさ。


 その日、一日鬼のように番について調べまくった。悲喜こもごも幅広く、個体差が激しく参考になるようなならないような。

 その中で、番の互助会があることを知った。まず、ご連絡をということらしい。お問い合わせに入力してふと思った。そういえば、名前、知らない。どこの誰よ。

 インパクト強すぎて全部、聞き忘れたよ。


 困り果てた結果、

 鳥系獣人、名前も知らず、サンバカーニバルされた。

 と書いて送った。


 なんか、書いたら笑えて来た。なんだ、サンバカーニバルって。


 肩を震わす私に職場の人は何事かと思っていたらしい、と終業後聞いた。

 なんと! 仕事場にすら、事前に手回しされていたのである。知らないの、私だけ!


 ホラーだな、やっぱり、ホラーだ。残念ながらがたがた震えて助けてと訴える相手もいない。ものすごい明るいストーカーにヤンデレされてしまうのか。

 ……おかしいな。

 なんでかサンバのリズムですべてが押し流される。あれ?


 仕事が終わって外に出れば当たり前の顔でいて、逆に感心した。どこまで番あるあるをしてくるのか。

 最後はやっぱり、お前は俺のモノとかいったりするのか、わくわくしてきたところはある。楽しまなければやっていけないと自棄になっているともいえる。


 ところが、普通にお食事して、家に送られた。お触りなし。お友達というより知り合いとごはん食べました、だ。

 それからも、週に1,2回程度の食事と休日のお出かけで、普通にデートした。その間もとても紳士的で、話に聞いた番の感じと全く違う。

 疑問に思って聞けば個体差と抑制薬の効果も相まっているそうだ。抑制薬はこの数年で治験をしていて、希望があれば手に入るものだそうだ。副作用もあるが、君が怖い思いするよりはずっとましと男前な顔で言いやがり……。


 半年後には、あ、結婚します、普通に、ということになってしまった。

 お、おかしい、番とはもっと強引で、俺のモノじゃなかったのか。

 ま、まあ、いいか。


「今日も羽をきれいにしましょーねー」


 相手のお世話に目覚めて可愛がるような人生も悪くはない、のかもしれない?

その後もよいこと嬉しいことがあれば踊りだし、落ち込んでいるならばと歌い出す旦那を困るんですよねーと困り顔のようでどや顔する妻な夫婦に。

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― 新着の感想 ―
鳥なんだから声もそこそこいいんでしょうなぁ…鳴き声には好みがあるから全員好きだとは言い切れませんが。
個人的に囲い込むような番もののお話がちょっと苦手なこともあり、紳士的で朗らかな鳥獣人さんが微笑ましくて可愛く、とても面白かったです。作中に出てすらいないコメントだけの人ですが、鶏むね肉の人がなんか好き…
最終的に絆されてるが拒否権が無い&サンバを陽動に水面下で外堀じりじり埋められてるのはホラーでしかない。鳥むね肉に魅入られた先人は筋肉フェチだったのだろうかとか地味にどうでも良いところが気になる。 あと…
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