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かつて相互評価クラスタを使っていたあなたへ

作者: 若宮 澪

※なんかふと思いついたネタです、割と不謹慎ネタかもしれませんがご堪忍くださいませ。

※ここに登場する人名、クラスタは実在のものとは一切関係ありません。

※取り敢えず思いついて書き殴ったものなので、展開が早かったりするかも? 面白かったり「さすがに不謹慎すぎない?」というのがあれば感想にて教えてください!

 私が「相互評価クラスタ」を知ったのは、リア友と一緒に小説を投稿し始めてから一年くらいした時だったと思う。あの頃の私はまだまだ未熟で、ポイント一つに一喜一憂してたかな?

 そうそれで、ちょうどリア友が伸び出した頃だ。私が一年かけて投稿してた作品の総評価点が、彼女の新規連載に爆速で追い抜かれた。


 最初は、素直に喜んでたと思う。


 私の作品なんて、精々がぎりぎり三桁の評価点に届くか届かないか。それを、リア友の作品は一ヶ月もしないうちに抜いた。

 でも、やっぱりたかだか三桁だって意識が強かったし、それ以上に彼女の喜ぶ声が好きだった。


 「見てみて! 日間に入ったよ!」

 「おっ、すごいじゃん! いやあ、私の作品なんて日間ランキングからは遥か遠く、だからねぇ」

 「まあまあ、私は運良かっただけだろし。いやあ、でも嬉しいや」


 その時の彼女の、にこっと笑った顔が凄く好きだった。彼女の笑顔を見るだけで、私は幸せになれた。


 ─その次の週末、その作品がスコッパーに紹介された。


 たぶんこのエッセイを読んでる人なら、その意味もわかると思う。ましてや、このエッセイのタイトルもこんなのだからね。


 日間100位ぎりぎりから50位、最終的には15位付近まで上り詰めていたと思う。サイトのログをみればわかるのかもしれないけど、そこまでして確認したいとは思わない。

 そして週明け、リア友の上機嫌そうな微笑みを見て。


 私は初めて、彼女が憎たらしいと感じた。


 本当に単に、運が良かったのかもしれない。あるいはその時点で彼女と私の間には埋められない実力の差ができていたのかもしれない。だけれども、その時の私は「不平等だ」と感じてしまった。


 彼女の作品を見つけたスコッパーを、心底憎たらしく思った。

 スコッパーの紹介文を読んで彼女の作品を読みに来た読者を、心底憎たらしく思った。


 そして。


 何よりも、たぶん。

 そんな「運」に負けた私自身のことを、心底憎たらしく思ったんだと思う。


 それでもリア友とはニコニコして話して、私の意地汚い気持ちを隠して、それでたぶん誤魔化しきった。少なくともその日の彼女は、上機嫌なままだった。

 彼女と帰り道で別れて家に帰って、そこで私は確か、机を思いっきり叩いた。


 ふざけるな、と思った。

 悔しい、と思った。

 不平等だ、と思った。


 嫌になってスマホを開いて、ただいたずらに時間を消費してた時、運悪くそれを、私は見つけてしまった。


 ─相互評価クラスタ。


 何人もの作者たちがグループを組んで、もしも誰かが作品を投稿すればそこに最高評価を入れる。多数の作者から評価ポイントを得たその作品は、日間ランキングへと容易く上る。そんな不正一歩手前の相互評価グループ、それが「相互評価クラスタ」だった。


 今なら「どうかしている」と笑い飛ばせたと思う。だけどその時の私にとっては、まるで夢みたいな世界だった。


 すぐに相互評価クラスタのライングループに入った。いや、正確にはライングループに入った後、()()()()()()()()()

 私が相互評価クラスタを知ったのは、電子掲示板でちょうどクラスタ晒しが始まった頃。下手に相互評価クラスタに入れば、投稿サイトの運営から規約違反で垢banされる可能性があると判断して、クラスタ内にいる作者だけをメモした。


 そして、私は直接その作者にDMを送る。もちろんラインは経由せずに、だ。


 以下のやり取りは、当時のDMから抜粋した。相手作者様に迷惑がかからないように、一部省略している。


■2021/10/27 私から相手作者様へのDM


 突然のDMすみません。──様の書いた作品を読んでどうしても直接お話がしたいと思い、このような形でメールを送らせていただきました。

 さて作者様の作品についてなのですが、特に心理描写や情景描写に感心させられてしまいました。例えば


──(具体的なシーンの引用のため省略)──


 など、主人公の感情がよく伝わってきます。復讐心と友愛、そして恋愛感情がごちゃまぜになって、感情がぐちゃぐちゃして、何もわからなくなって……というのが凄く伝わってきて、読んでいる私も心が痛くなりました。本当に、ここまで感情移入できる人物を描けるのは才能だと思います!

 実は私も同じようなシーンを書こうとしたことがあるのですが、私だとどうしても上手くいかなくて……。もしもよろしければ、アドバイスなどいただけますでしょうか?


■2021/10/31 相手作者様から私への返信


 井上 遥様、DMありがとうございます。お褒めいただき恐縮です。まだまだ若輩ものですが、心を揺り動かすことができたのならば幸いです。

 さて、指摘していただいたシーンを書くコツについてなのですが──(以降省略)──


■2021/11/01 私から相手作者様へのDM


 DMへの返信ありがとうございます! なるほど、そのようにして書けばよかったのですか。参考になります!

 特に──(一部省略)──は私が意識できていないところでした。他にご指摘いただいたところについても、できるだけ心に留めて書こうと思います。やはり、上手い書き手さんは意識して書いているのだなあ、と感心する次第です。

 それで、もしよろしければ私の作品を見ていただけますでしょうか? もし見ていただけるようでしたら改善した方が良い点などを教えてくださると幸いです。


 これが私の作品のURLです。

 (作品のURL/現在削除済み)


◆◆◆


 さらっと読んでいただければわかるように、この時点では「興味を持ってくれた読者が作者にアドバイスを聞きに来ている」風を装っていた。ちなみにこのDMは投稿サイトのものを用いている。

 さて、これだけではあの掲示板に晒された「井上クラスタ」の真相は見えてこないと思う。私が悪辣だったのは、これと同じようなDMを二十人近い作者様に送りつけていたことだ。

 そして、私が狙った作者様は未だに相互評価クラスタを「使ったことがない」に限られていた。クラスタに所属こそしているものの使っていない作者の方々─当時の私にとっては、とても扱いやすく見えた。


 この時の私は、決して冷静ではなかった。

 今見返してみれば、嫉妬と憎しみと劣等感に押し潰されていただけだったと思う。けれども同時に私は、とてつもなく冷徹ではあった。


 先程までのやり取りで、私は三つ、気をつけていたことがある。一つは「相手の長所を具体的に挙げて褒める」こと、一つは「相手のアドバイスの中でもどこが役に立ったのか具体的に述べる」こと、そして最後の一つは「最初は相互評価を匂わせないこと」だ。

 これらを守りつつ、相手作者様を私の作品を読むように仕向けていき、頃合いが来たら「もしよろしければ評価などしていただけませんか?」とDMの末尾に書く。もしも相手作者様から「いいですよ」と来たら返信には「もしも──様が新作を出されましたら必ず評価に行きます」と書き、「嫌です」と来たら「そうですか……。でしたら作者様の新作が出ましたら評価にいきますので、その時にまた考えていただけると幸いです」と書く。


 大半の相手作者様はそれで、私の作品を評価してくれるようになった。そしてここからが真骨頂なのだが、ある程度相手作者様と仲良くなった後には別の作者様を私が「紹介」した。

 わざわざ遠回しにDMを使ったのは、このためだったと思う。


 もちろんライングループ形式の相互評価クラスタが危険だった、というのもあった。けれども一番の理由は、「相手作者様が欲しいものを与える、ギブアンドテイクの関係を確実に形成するため」だった。

 たとえばある作者様は戦闘シーンが苦手だとDMで嘆いていた。正確には、苦手なシーンなどを挙げさせるように会話を「仕向けた」。

 そしてその苦手シーンについて、今度はそれを書くのが得意な別の作者様を紹介する。もちろんこの別の作者様は、私とDMでやり取りしている人だ。

 紹介が終わったあとは、私自身が双方にDMを送り、お互いのことをどう思ったかサラッと聞く。仮に良好であれば、私が「相互評価してみれば」と遠回しに、双方にDMする。


 この「紹介」と「相互評価」のシステムによって、だんだんと、しかし着実に「相互評価クラスタ」が出来上がりつつあった。

 確かこの頃に、私の書いた短編が日間70位台に乗ったと思う。もちろん相互評価クラスタのおかげだ。


 昨日、このエッセイを書くに当たってその短編を読み返した。とても稚拙な作品だった。

 日本語がおかしいところもあれば、情景がイマイチ浮かんでこないところもある。漢字の用法だっておかしかった。


 こんなのでは当然、日間ランキングを維持できない。数日も経たないうちにランキングからは外れてしまった。

 けれども、その頃の私にはそれが成長に思えた。初めてランキングに載れて、嬉しさが心を満たしていた。


 とても、卑怯だと思う。


 相互評価クラスタが拡大していくにつれて、だんだんとリア友と私の仲は引きちぎれていった。彼女は連載していた作品を完結させると次の作品の投稿に取り掛かったが、その作品は一向に浮上しない。

 対して私は、相互評価クラスタのおかげでランキングに何回も載るようになっていた。


 最初は、彼女の方も純粋に私のことを褒めてくれた。けれども私がランキングに乗る回数を重ねるごとに、その褒め方は純粋ではなくなっていった。


 「こことか凄いよね! あとこことか! やっぱり読者はこういうのが好きなのかな?」


 そんな風に言っていた彼女からは笑顔が消えて、


 「すごいね」


 と皮肉気味に言うようになった。

 だんだんと、彼女と話すのが辛くなっていった。学校での会話も減っていったし、話す事柄も小説じゃなくてもっと日常的なものになっていた。

 たぶん、彼女は私が相互評価クラスタを形成していることに薄々気がついていたのだと思う。彼女が私の小説について語るとき、どこか皮肉っぽい表情を浮かべていたから。


 そうこうしているうちに、学校は新学期を迎え私は高校の二年生になった。リア友とは別のクラスになり、話す機会はめっきり減ってしまった。


 一方で相互評価クラスタは拡大を続けていた。


 ちょうどライングループ形式の相互評価クラスタが晒されて崩壊しつつあった頃だったのも、当時の私には幸運だった。晒しを恐れて解散を決意したライングループを丸ごと吸収したり、あるいは大規模なクラスタを切り崩したり。

 そうこうしているうちに私の相互評価クラスタは40人を越えた。けれども、それを知っていたのは私だけだった。


 というのも、この「相互評価」と「紹介」で出来上がった相互評価クラスタは、言うなれば私を媒介して多数の小規模クラスタがぶら下がっているような状態だったからだ。


 あくまでも私は、「互いが得意と苦手を補完する関係」になるように紹介を続けていた。するとどうなるか?

 この「得意と苦手を補完する関係」がそのまま小規模相互評価クラスタとなるだけで、精々その規模は5人を超えない。この小規模クラスタは多数並行に存在する。もちろんクラスタ間に交渉はない。一方で私はそのすべてのクラスタに参加する形となる。

 結果として、私の形成した相互評価クラスタは「私の作品だけ」を日間へと打ち上げるようになる。ただし、ライングループ形式の相互評価クラスタが露呈していた時期であったため、打ち上げる作品やどの程度打ち上げるかは慎重に決めていた。


 事態が一変したのは、夏頃だった。

 私が相互評価クラスタを形成し始めてから10ヶ月、機能し始めてからは5ヶ月程度のころ。メンバーの一人が、私のことを訝しみ出したのだ。いくら慎重に打ち上げ規模や頻度を決めたところで、やはり限界があった。

 その作者様は私が評価した作品を辿り、そこから多数の「並行相互評価クラスタ」の存在に気づいたのだろう。DMで私に、そのことを問い詰めてきた。


 適当にぼかしたのは覚えている、けれどもその時になって初めて私は「やってしまった」という実感が湧いた。

 ここまで私は、相互評価クラスタが「露呈」することを全く想定していなかった。それぞれの作者様はあくまでも小規模な相互評価クラスタを形成しているだけで、自らが規約違反を犯している自覚はなかったはずだと思う。

 少なくとも、一つの創作グループのメンバーがそれぞれ「忖度」して相互評価することを、運営は咎められない。


 けれども私は違う。


 私の形成した相互評価クラスタの規模は、夏頃には60人を越えていた。やろうと思えば、マイナージャンルでの1位を一度の相互評価で狙える位置にあった。

 ここまで大規模になれば、運営も乗り出さざるを得ない。小規模相互評価クラスタはともかく、私に関しては垢banを食らうだろうと、当時の私は判断していた。


 後悔や不安が、私の心臓を握りつぶそうとするように感じた。もしも私の相互評価クラスタをあの人が報告すれば、運営は間違いなく動く。

 もちろん、私が相互評価クラスタの使用をやめれば、一瞬だけはバレないかもしれない。少なくとも私は、すべての相互評価クラスタを一斉に動かしたことはなかった。

 けれども調査が進んで私のDMが完全に露呈することとなれば─その時には、私のアカウントは消滅するだろう。


 当時の私は、悩んだ。


 正確には、どうしようもない今の状況を嘆きながら必死に打開策がないか探した。けれどもそんなものがあるはずもなく、恐怖ばかりが喉元に迫ってきていた。


 そして散々苦悩して打開策がないことを悟った末に、私はその全部をリア友にぶちまけた。それに対して彼女はため息をついたあと私にこう言った。


 「どうせ垢banされるなら、私と勝負しない?」


 一言一句、覚えている。

 その時の彼女の表情を、私は忘れられない。苦しそうな、けれども楽しそうな、濁っているような、だけれども清々しいような。

 学校の廊下、終業式の日のことだった。


 もしかしたらこのエッセイを読んでいる人の中には、あまりにも都合が良すぎると思った人がいるかも知れない。けれども、これは事実だ。

 証拠がある、リア友からのDMだ。彼女から許可を貰い、ここにそれを転載する。


 ■2022/7/22 私からリア友へのDM


 放課後の話についてです。

 本当にごめんなさい、私は卑怯者です。本当に、ごめん。謝っても、謝りきれないと思う。

 私がランキングに載ったと言って喜んでくれたのに、それを裏切ってごめん。

 私と競っているつもりだったかもしれないのに、私がズルをしてごめん。

 本当に、謝りきれない。だから、ごめん。


 私は、でも今は、対等に──(リアルの名前)と戦いたいって思ってる。だから、もしよければ、勝負してくれない?


 ■2022/7/22 リア友からの返信


 私じゃなくて運営に謝りなよ。

 勝負だったよね? 言っとくけど、私は──のこと、今でもムカついてるから。だから、対等になんて勝負しない。

 ──は、あんたがもってる相互評価クラスタを最大限活用して。私は私の力だけでそれを勝って見せる。


 ■2022/7/22 私からリア友へのDM


 ごめん、謝っても仕方ないかもしれないけど……、でも本当にごめんなさい。


 ■2022/7/22 リア友からの返信


 それで、どうするの?

 私との勝負、受ける?


◆◆◆


 このあと私は、彼女に電話した。

 心が痛くて、泣きながら電話した。放課後の時も泣いたけど、あの時よりも泣いた。彼女が私のことを一生恨むと思ったから。

 いや、本当は恨まれて当然だったと思う。


 そもそも私と彼女が小説を書き始めたのは、中学生の頃だった。文芸部?と思うかもしれないがそれは違う。

 運良く近くに住んでいて、私がノートに書いていた小説をたまたま教室で彼女が見つけて、本当に偶然意気投合した、それが私と彼女の始まりだった。彼女は、私の書く小説を面白いと言ってくれた。それで、彼女は私みたいな物語を書きたいと言って、一緒に何かを書き始めた。


 中学三年の時には、二人で一つの物語を書くことに挑戦したりもした。私のことながら、なんだか微笑ましいなと思う。

 そんな中、高校へと進学した私たちは小説投稿サイトを知った。それで、実力だめしと行こう、というわけで2人揃って投稿を始めた。


 あの頃の純粋さを、私は何時の間にか失っていたのだと思う。いや、失ってなければこんなことにはならなかった。


 話を戻そう。電話の結果、私は相互評価クラスタをフル活用して、一方のリア友は一人の力で、日間ランキングで勝負することになった。この時になって初めて、私は小説と正面から向かい合った。

 高校二年生の夏を全て溶かして、小説の書き方を一から学びなおした。どう書くべきなのか、相互評価クラスタで真剣に聞いた。それで、みんなに面白いと認めてもらえるような小説が出来上がって初めて、私はそれを投稿した。


 このエッセイを読んでいる人なら知っていると思う。


 「精霊術士と公爵令嬢は終末世界の旅をする」


 私が昔から得意だったアポカリプス的な世界観を、精霊術士と滅びた公国の令嬢が爽快に駆けていく話だ。爽快感と終末感を丁寧に融合させながら、限界まで内面描写と情景描写を書き込んだ。

 そして相互評価クラスタに評価依頼をして、あとは運を天に任せた。


 結果を言えば─私は結局、彼女に勝てなかった。


 しばらくリア友の活動を見ていなかったのもあって、私は彼女が今どんな作品を書いているのか知らなかった。

 私が得意ジャンルに今風の話を掛け合わせて物語を作ったのに対して彼女は、ファンタジー恋愛、つまりは婚約破棄もので勝負を挑んできた。


 「侯爵令嬢は婚約破棄の先に何を見る? 〜聖女のわたくしは本当の恋人とともに国を滅ぼそうと思いますわ〜」


 私のような終末風の世界観を随所に感じさせながらも、全体的にはなろうのテンプレートチック、それでいてオリジナリティを感じられる作品だった。しかも、決して型にはまった展開ではなく、柔軟にテンプレートとオリジナルの展開を組み合わせ、少年漫画のような王道で締め括られている。


 ……私が、相互評価クラスタなんてものにうつつを抜かさなければ、もしかしたら彼女に勝てたのかもしれない。あるいは真摯に小説と向き合うことができていれば、もっと彼女に迫れたのかもしれない。

 けれども全ては仮定の話。結果は私の負けだった。


 最終的な結果は私の作品が日間11位、対して彼女の作品が日間2位。その後二日間ほど私は作品を残したままにしておいたが、彼女の作品のほうがブックマーク数の増加率も平均評価も高かった。

 文字どおりの「惨敗」だった。


 不正ありきの日間11位と、正面対決での日間2位─差なんて、明らかだ。


 けれどもどういうわけか、私は清々しい気分だった。ああ、やっぱり彼女には勝てないんだなとつくづく思い知らされた。

 そしてそれが、私なのだとはっきり認識した。


 悔しかった、虚しかった、過去の自分に怒りを感じた。けれどもその全てが、敗北という清々しい挫折を前に消えていった。

 あとに残ったのは、透明な悲しさだったと思う。憎しみも不安も、何もかもが消えていた。


 結局私は作品を完結させたあと運営に自分自身を報告した。DMで「責任を取ってアカウントを削除し、二度とアカウントを作成しない」と意向を伝え、実際その通りにした。

 ちなみに最後まで相互評価クラスタの全体には気づかれなかった。何人かは私の作品の異常な浮上を不思議がっていたが、私がアカウントを削除する意向を伝えるとすぐに沈静化してしまったらしい。


 9月1日、新学期の始まりの日。

 私は二年間にわたる活動と、約一年かけて形成した相互評価クラスタを終了させた。


 あの時の「このアカウントは削除されました」という表示を、多分私は一生忘れられない。


◆◆◆


 その後の話をしようと思う。

 高校二年の後半で私もリア友も、一旦小説活動から手を引いた。特にリア友に関しては「侯爵令嬢は婚約破棄の先に何を見る?」のアクセスが増加していたこともあり嘆いていたけど、大学受験のほうが大事だというわけで泣く泣く凍結を宣言した。


 私の形成した大規模相互評価クラスタは、このエッセイを読んでいる人なら知っての通り運営から存在が明かされた。運営は以降同様の行為を禁止すると宣言し、私のクラスタは掲示板で軽い祭りになった。

 「井上クラスタ」と検索すれば、当時の雰囲気がわかると思う。「規約違反とは言い切れなくない?」という擁護派と「迷惑だしやめろ」という非難派で激論が交わされていた。


 けれどもその時にはもう、私は評価にこだわらなくなっていた。というのも私がアカウントを削除する直前にリア友が私の作品を読んでくれたようで、彼女から削除前に最初で最後のレビューを書いてくれたからだ。


 「とても良い作品だと思いました。感想で書かれている通り、確かに少し読みにくい箇所はありましたが、それ以上に世界観とストーリーが魅力的です。終末世界のどことない気だるさと絶望感、冬のような喪失感と、侯爵令嬢と精霊術士のラブロマンスとが上手く共鳴していて、まるで調律された楽器のよう。侯爵令嬢と精霊術士の抱えるそれぞれの闇もまた、今の人々に届くものだと思います。そして、その闇や気だるさを爽快に切っていくストーリー、特にラストシーンの爽快感と読了感はたまりません!

  このサイトではあまり見かけない作品だとは思いますが、ぜひ一読してみてください! かならずこの終末感と爽快感が、癖になりますよ?」


 いまでもこのレビューは私の心の中に残っている、印刷して残したりもしているけど。


 そして辛い大学受験も終わり、私たちは晴れて同じ大学へと進学した。そこで最初にしたことは、新人大賞に二人揃って応募することだった。

 ちなみに私は、こっそりライトノベル大賞にも応募した。結果は二人揃って一次落選、やはり上手くいかないもんだなあと二人で笑い合った。


 それでも私達は新しく小説を書いては読みあいっこして、良いところを褒めたり悪いところを挙げてもらったりして切磋琢磨を重ねた。そして今年の春、私の小説がラノベの最終選考を突破して晴れて書籍化されることになった。

 私のリア友は、といえば「あんたは大賞を取ってないでしょ? なら、私は大賞で書籍化するからねーだ!」と言ってまた応募するために小説を書き始めている。


 たぶん彼女のことだから、次のラノベ大賞か文芸大賞かで、大賞受賞作として書籍化されるんじゃないかな? 凄く楽しみだ。


◆◆◆


 この長いエッセイを読んでくれてありがとうございます。最後に私から、このエッセイを読んでくれた人たちに言いたいことが。


 ……私は規約違反を起こして一度は事実上の垢banをされた身です。ですが、今回書籍化されるにあたりもう一度このサイトでも活躍したいと思い、運営と掛け合いました。幸い運営の方々も私のことを赦してくれていたようで、「規約違反を起こさないと約束できるのなら構いません」と笑顔で言ってくれた。

 その時、私は本当に泣きそうになりました。いえ、ひょっとしたら半泣きだったかもしれない。こんなに優しい人達のことを私は裏切っていたのかと思うと、それがどうしても悔やまれるのです。


 私から言いたいこと、それは「評価だけを求めてはいけない」ということです。私はいつの間にかこのサイトを「評価を稼ぐための場所だ」と思い込んでしまっていた。

 けれども本当は、「小説を書くためのきっかけを作る場所」であり、同時に「自分自身の小説の腕を磨く場所」でしかなかった。いくら評価を稼いだところで書く腕を磨けなければ意味がない、今更ながらそう知りました。

 だからどうか、評価だけを求めるのはやめてください。このサイトは練習台なのですから。


 練習を健気に積み重ねたからといって書籍化されるとは限らない。けれども積み重ねなければ、決して書籍化されることはないと思います。

 少なくとも私はそうでした。

 だから、数字だけを追い求めないでください。それよりも、自分に何が足りないか、それこそが重要だと思います。


 このようなもと規約違反者のエッセイを読んでいただきありがとうございました。

 はい、後書きです。

 なんか相互評価クラスタという単語を見て電撃的に思いついたネタをそのまま書き連ねることになりました。やりたいことは大体できたかなあ……?

 一応、相互評価クラスタ同士で削り合いをするだとか、あるいは主人公とリア友が百合するだとか、そういう展開も含める予定でしたが、まあいいや。あんまり本筋でもないですしね。


 ちなみにここに登場する作品は完全オリジナルです(当たり前か)

 タイトルやネタなど、使いたいものがあればどうぞご自由に。感想で連絡いただけると喜びます。


 最後になりましたが、面白ければ高評価や感想などいただけると幸いです! では!

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― 新着の感想 ―
そんな邪道?なものがあったのか…自分はモチベ維持ができない人間だったので小説書ける人すごいと思います! 思ったより、書く時間かかるんですよね…これからも頑張ってください!w ちなみにゾンビ物を書こうと…
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