表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/20

第15話 信じたい気持ちとトラウマの狭間で(改)

 迷宮(ダンジョン)の中での生活は快適のひと言だった。行きたい時に好きな階層に転移ができる。まるで前世の◯◯でもドアみたい。

 人によって階層利用許可範囲が異なるけれど、私の移動範囲は自室、ルーファの部屋、サロン階層、商店街階層、貴族居住階層、牧場階層、広めの庭園階層だったと思う。

 王宮から殆ど出られなかった毎日を考えると、かなり自由だ。もちろん毎日どこかに行く際は、ルーファか護衛騎士数名はついてきている。


 今日は編みかけのセーターが出来上がった記念に、商店街階層でお茶と甘いものを食べようとやってきた。ルーファは商店街階層で待ち合わせとなっている。魔王、迷宮(ダンジョン)階層の領主としてやることが多々あるのだろう。私も何か貢献できれば良いのに……。

 ふと商店街階層の中央広場に、グランドピアノが設置されているのが見えた。


「リズ、あんなところにピアノなんてあった?」


 桃色の長い髪をポニーテールにした彼女(リズ)は騎士にしては小柄だけれど、凜としていて騎士服がよく似合う。よく甘い物が食べたいと愚痴るけれど。


「ああ、冬祭りに合わせて用意したのですよ。迷宮(ダンジョン)専用のピアノだとか」

「もう調律は終わったりしているのかしら?」

「おそらくは? ……あぁ、甘いもの食べたくなってきました」


 ピアノは前世から習って好きだった。王宮では加護が強化されないのなら王妃教育に必要ないとかで、制限させられていた。


「じゃあ、久しぶりに弾いてみようかしら」


 不安や色々考えることが多かった分、少し無心になって何かしたい。それが弾きがかりだった。前世で好きだったアニメのオープニング曲を繋いだアレンジメドレー。最初指の動きは固かったけれど、少しずつ指先を動かしてメロディーを紡いでいく。


 緩やかに、少しずつテンポを上げて、うん楽しい。気づけば夢中になって鍵盤を叩いていた。もっと弾いていたい。もっと、もっと!

 ああ、そうだ。この曲はメインテーマだった。懐かしいな。たしか歌詞は──。


「──LA♪」


 最初は鼻歌だったけれど、気づけば普通に歌っていた。歌うのは楽しい。ずっと縮こまっていた心が解きほぐされる。

 ああ、そうだわ。もっと自由に、皆を楽しませたい。それが根底にあったのを思い出す。

 お祭りとかイベントが大好きだったのをどうして忘れていたのかしら!

 ああ、もっと。もっと!

 髪を乱して全身を使って歌を、声を出す。

 ああ、このまま次の曲に繋げて──。


「セレナ──それ以上はダメだ」

「え?」


 聞いたことのない鋭い声に、熱が一瞬で冷める。周りを見渡すとたくさんの人に囲まれていて、拍手喝采が耳に届く。こんなに人がいたことに全く気づかなかった。

 そして自分がもの凄く汗を掻いていたことも気付く。


「凄かった!」

「最高だわ! なんて曲なの!?」

「もう一回聞きたい!」

「え?」


 皆嬉しそうな顔をして、続き(アンコール)を望んでくれた。でもルーファは私を抱き抱えたまま転移してしまう。

 転移先は庭園階層だった。


「ルーファ?」

「あんなに楽しそうにして、幸せそうで狡い。僕ばっかりセレナを目で追って、僕が来たのにセレナ全然気づいてくれなくて……みんなセレナの良さに気づくのが嫌だ……」

「だからって、あの場からいきなり去るのはどうなの?」

「だって……!」


 ぎゅうぎゅうに私を抱きしめるルーファは魔王や領主の顔などしておらず、五歳児のようだ。なんて無茶苦茶な言い分なのだろう。そして私は今、もの凄く汗をかいているのに!

 うう、恥ずかしい。


「だってあのままだったら、僕のセレナに求婚しようとする輩がでそうだった。実際に花屋で花束を買って戻ってくる連中を見たし……。僕が最初にセレナのピアノを聞きたかった。独り占めしたかった……」

「(うん、拗らせと執着がヤバい。……まだ監禁を言い出さないだけ、堪えている気がしなくもなくもない……)ルーファ」

「……セレナの初めては全部僕がいい」

「発想が怖っ!」


 仄暗い瞳とボソッと呟いた言葉が全てを物語っており、若干離れようとするが無理だった。全く私のことになると途端にどす黒い執着を見せる。

 狂愛に近いけど、それでも私のことを第一に考えて譲歩はする。今日みたいに暴走する時もあるけど。


「だって……セレナは魅力的なんだよ。ずるい。きっとこれから定期的に君のピアノ演奏をしてほしいと要望が殺到する。君は歌声もピアノも素敵だから、一気に有名な歌姫となってファンクラブが倍増。結果、僕との時間が減るんだ……そしてセレナの素晴らしさが広がって、求婚の嵐が……」

「すごい発想力……うん、まあ、息抜き程度にならピアノ演奏したいかな。ほら、階層なの雰囲気をよくするにも効果的でしょう」

「僕はセレナを独占したい……。でも、うん……セレナが僕に好きって言ってくれたら」

「好き」

「……へへ」


 チョロい、ちょっと心配になるわ。この魔王。


「ねえ、セレナ。愛の歌ってある?」

「ん? んーまあ」

「聞きたい」


 昔のように強請るのは上手らしい。仕方ないので、たった一人の観客のために私に好きな歌を歌うのだった。

 私が歌うことで加護とは異なる祝福が加算されていることの気づくのは、もっとずっと後になってからだったりする。それこそ魔王のルーファが死にかけた大事件だったが、それはまた別の話。



 ***



 それから二ヵ月があっという間に過ぎて行った。

 外見は天然の要塞だが、実際ここは破滅(カタストロフ)黒竜神(ニゲルドラコ)のシュトロン様の縄張りであり、迷宮(ダンジョン)領域となる。

 思っていた以上に階層ごとに季節や昼夜の設定が組めるようになり、食料など自給自足が可能で、それらを商店街階層に流通させればレストランやカフェで美味しく頂けるようになっているのだ。


 白い壁と空色の石畳が特徴な商店街階層は、私のお気に入りの一つだ。畑仕事は収穫時が近づくと駆り出されるので手伝ったりもしている。改めてマリー領に住んでいた人たちが移住しており、雰囲気も近い。あとほぼ、顔見知り。

 八年間という時間が経っていても面影はなんとなく覚えており、久し振り感も安心する。特に同世代の友人であり、ルーファの部下ローとリズとは一緒に買い出しをすることも増えた。

 ルーファが私の傍にいない時は大抵二人が傍にいる。


「ルーファって、やっぱりモテるわよね?」

「んー、確かに遠巻きから憧れていることはあったけれど、基本的に人を寄せ付けなかったですかね」

「団長って爽やかイケメンだろう? 下手に優しくしたら勘違いする令嬢が増えるって分かっていたんだろうな。元婚約者であっても一定の距離を取っていたッスよ」

「元婚約者……」


 ふと思い出すのは、婚約破棄をされて卒倒したベアトリス公爵令嬢の姿だ。唐突に婚約解消を言い渡されたご令嬢は、倒れるほどルーファを慕っていたのでは?

 それにここ二ヵ月で要塞に面会を求める者が多くなった。政治的駆け引きや交渉、商人、移民……あとは迷宮(ダンジョン)に忍び込む侵入者たち。

 そういえば面会リストに、バレテレミー公爵家の名前があったような?

 もしかして令嬢はまだルーファのことを? それに対してルーファも何か思うところがあるから面会を望んでいる? 


「あー、でもあの二人って」

「ちょ、そんなことセレナーデ様に話したら──」


 ふとエドガルド王太子とユリアの姿が脳裏にちらつく。二人が運命の番となってからは政務の量や、王宮内での雰囲気もガラリと変わってしまった。

 私を腫れ物扱いしつつ、利用できることは利用しようと画策する。婚約破棄の件もそうだ。自分たちの都合の良いように事実をねじ曲げて、踏みにじられる側のことなど考えていない。


 ルーファも()()()()()()()()()()()()()

 一瞬考えたけれど、頭を振った。ルーファに限ってそんなことはないわ。それだったらこれだけのアクセサリーを私に──。


 そこでハッと気付く。

 贈られた物は、どれも私を何処にも逃さないための道具ばかりだ。結婚を急ぐのも私自身を縛るため──。


「…………」


 ううん、ルーファはそんなこと、違う。私の加護を一度だって利用したいと口にしなかった。ルーファは王家と違う。

 そう否定したけれど、事実はそう甘くなかった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


2025年8月31日内容を調整しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ