わたシハれみヱるン
わたしは侵攻してきたレムノンを次々浄化する。今日は数が多い。シャワーで広範囲に浄化の光をばら蒔いても、なかなか消えてくれない。
今日のレムノンはいつもと何かが違う。わたしはそう感じていた。
いつもは夢一つに対し、一匹のレムノンだ。なのに、今日は群がる。どうして?
もしかして、わたしが試されているのかな。レムノンに。わたしが本当に最強無敵なら、この数のレムノンだって。
「おまエはオロカだ」
「ワレワレにすくわレろ」
何を言っているのだろう? 声はいつも通り気持ち悪い。
レムノンの戯れ言だ。いちいち真に受ける必要はない。そんなこと、わかっている。
──焦ってるの、わたし……?
わたしは首を横に振る。こんなところで、怖じ気づいてちゃ駄目。わたしは……わたしは、そう、わたしは、夢の中でなら最強無敵の魔法少女、れみえるんなんだから!!
「舐めないでよ!!」
わたしは魔法のステッキをくるくると回す。ステッキが回転するごとに、するすると伸びていく。
ステッキが広範囲に伸び、光を振り撒く。
光に触れるたびに、レムノンがじゅわじゅわと焼けて、消えていく。汚い悲鳴のようなものが耳を焼くようにこだましていくけれど、そんなの、気にしてる場合じゃない。
みんなを守らなきゃいけない。わたしにはその義務がある。
『ほんとうに?』
「え?」
わたしは驚いた。だって、わたしに聞こえたのは「わたし」の声だ。
『ほんとうに義務なんてあるの?』
わたしを揺るがそうとする「わたし」の声。でも、それはわたしには関係ない。ちゃんと、反論する。
「あるよ! 人はあんな死に方をしちゃいけない!!」
『あさひちゃんみたいに? でもさ、あなた、ほんとうにそう思ってる?』
「え?」
『そもそもあんな有象無象とあさひちゃんを同列に扱うの?』
「有象無象って、言っていいことと悪いことがあるよ!!」
『やっていいことと悪いことの区別もつかない輩なのに?』
う、とわたしは言い淀む。
わたしがみんなからイ縺萠を受けているのは、一応、本当に一応、自覚はあるのだ。本当は、社会的に許されないことだってわかっている。でも、それは、レムノンに夢を壊されていい理由にはならないし、見殺しにしていい理由にもならない。
みんなが死んでいいなんてこと、ないよ。
『ねえ、麗美。「みんな」って、誰?』
「っ!?!?」
わたしは心臓が凍りついたかのような感覚がした。それくらい、胸が痛い。
胸が痛いということは、どういうことなのだろうか。
みんなって、誰だろうか。
『麗美はさ、いい子だよ。いい子でいて、えらいよ。でもさ、でもね、我慢しすぎだよ。みんなの心を守って、麗美の心は誰が守るの? 麗美が目を背けてるつらいことは、なかったことにはならないよね? 麗美、本当に、それでいいの?』
「で、でも、お父さんと、お母さんが……」
『それも言い訳だよね? パチンカスのお父さんと、ヒス持ちのお母さんのどこがいいの?』
散っていったレムノンの黒い影が、次第に集まって固まって、形を成す。それは黒いわたしの姿をしていた。
最強無敵でもなんでもない、ただの唯賀麗美の姿をして、わたしを見ている。その目は可哀想なものを見るような目でもあり、わたしを叱るような目でもあった。
喜んだらいいのか、悲しんだらいいのかわからない。
明らかになった、真実。わたしは状況と感覚で理解した。
レムノンは「わたし」だ。
わたしは自分でみんなの夢を壊そうとしていた……? そんなわけ……
『他人を憎んだことがない、だなんて綺麗事、あなたに言える?
ずっと不満だったでしょう? 自分が恵まれないことが。最低な母親、最悪な父親。学校に行っても「みんな」には○※轡られて、表ではいい顔をしていたあ#戀ちゃんも、「友達じゃない」なんて口走った。誰のことも信じられない。それくらい、追い込まれていたの。気づいて』
「知らない! 知らない知らない知らない! 何を言っているの!?」
本当に、本当に、時々わからない言葉を話すから、自分と同じ姿をしていても、こいつはレムノンなんだ、とわかる。何を、何を言っているの?
わたしは、別に、綺麗事なんて、今の生活に不満なんて……
「私はあの子の友達なんかじゃない!!」
刹那、明瞭に聞こえた、あさひちゃんの声。
違う、ちがう。そんなわけない。あさひちゃんがそんなこと言うわけがない。あさひちゃんはわたしのたった一人の親縺レ、なのだから。
あさひちゃんをコロしたノは、レムノンだヨ……?
「……ロ」
『まだ綺麗事を言うつもり?」
「キエロ」
わたしは、わたしの口から零れる言葉の正体がわからなくなった。
「キエロ、キエロ、キエロ、キエロキエ、キエ、キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ、わたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしじゃないわたしわた、わたわたわたし、わた、し、ハ」
ぎゅっとステッキの感触を確かめる。
わたしは叫んだ。
「わたシハれみヱるン!!」
そうだ。わたしは。
わたしは、夢の中では最強無敵の魔法少女。
レムノンがどんな姿であっても、それに負けるなんて、あり得ない。あり得てはいけない。
だカラ。
「キエロ、レムノン!!」
ステッキから浄化の光を放ち、わたしは、わたしと同じ姿をした黒いわたしにステッキを突き刺した。